表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
18/33

≪第16話≫狂気的な少女

「チッ、ちょっと実験したくらいで騒ぎやがってあのクソババア。いつか殺ス」


 エレイン=エヴェレット。

 魔の都・五大魔法学校の一つ、グーダスフィア魔法学校の二回生。

 うざいから上級生とは関わらない。最近クラスメイトの一人もうざい。

 悪魔族(デーモン)の父と、幻魔族(イリューノ)の母を持つ混血種(ハーフ)

 悪魔族の血が強くて、墨汁のような黒髪と黄色く濁った瞳。

 髪は好きだけど瞳は好きじゃない。

 背はあまり高くない。

 でも太りにくい。胸も太らない。

 使える魔法は、相続効果で習得した収縮魔法と儀式魔法。

 成績はそれなり。模擬練ではかなり優秀。自信がある。

 あともう少しで収縮魔法は上級。

 

 そしてただいま停学中。



  ★



 エレインは謹慎一か月をくらって、ぶらぶら愚痴りながらあてもなく歩いていた。

 ワタシは悪くない。

 どうして周囲はワタシの邪魔ばかりする。

 ちょっと実験をしてみたかっただけだ。

 得意の儀式魔法だ。

 材料に級友を使ってみただけだ。

 材料は再生能力をもつ獣人族(ビースト)

 少しばかり切り刻んだり、溶かしたりしたところで死にはしない。


 あれは勉強、つまりは学びなのだ。

 それを害するとは学校にあるまじき状況、そしてあの教師陣、学校上層部はクソで無能ばかりのポンコツだ。

 ワタシをハーフだと腫物扱いするし。

 噂じゃあと何年か移動規制がゆるめられる。

 そうしたらワタシみたいなやつも増えてくる。

 古いのだ。

 考えが。

 凝り固まった価値観だ。

 やたらと形式にこだわるし、リスクを恐れる。

 あんな弱腰では人間種にでさえ抜かれてしまう。

 とくに魔術学校では優秀なところもあるという。

 今では魔法と魔術の特性の違いから、優位に立つことができるが、数年後にはどうなっているかわからない。

 現状に甘えている。

 堕落している。

 現状維持など退化なのだ。


「はぁあぁああ……」


 何度ため息をついただろう。

 ワタシ一人では何も変えられない。

 うざってえ奴らを排除できない。

 そんな鬱憤がどんどんたまっていく。


「はぁあ……ん? あれ、ここどこだ?」


 日夜かまわず歩いていたせいで、よく知らない場所まで来てしまった。

 途中メルティアとの境界未定地域、レッドラークを通過したところまでは覚えているが。

 方角的にここはガルス周辺か?


「くんくん……」


 いい匂いがする。

 花の匂いだ。

 それも猛毒の。


「悪魔の薔薇(デビル・ローズ)……?」


 エレインはそこまで鼻が良いわけじゃない。

 悪魔族(デビル)の特徴として睡眠と食事が不要という特性がある。

 エレインはそれを受け継いでいる。

 が、幻魔族(イリューノ)の方の幻影耐性は持っていない。


「近くに花畑がある……? ガルスの近くに? いや、罠か?」


 ハーフ・デビルであるワタシをおびき寄せる幻の可能性もある。

 悪魔族(デビル)にとって、この猛毒の花の匂いは耐え難い。

 無意識のうちに足が花畑の方に向かってしまう。


「ァ――ぁああっ……ウ、ウフフ……こ、これはやばい……イってしまいそうだ…テン」


 父にはあまり嗅がない方がいいと言われていた。

 だが、この欲望は抑えがたい。

 悪魔族の血が強いために、本能が悪魔寄りだ。

 草原地帯を抜け、でこぼこの岩石地帯にさしかかる。

 たしかここらへんには双頭の魔獣がいるという噂だ。

 その魔獣が育てていたということもある。


「フフフ、そのときは蹴散らしてワタシが摘み取ってやろう……」


 ずんずんと岩石地帯を進んでいくエレイン。

 その頭上。

 夕闇の空には、何百匹というカラスが飛んでいた。

 カァカァ――。

 エレインは気づかずに、前だけを見て、そして見てしまった。


 黒い花畑の真ん中。

 何かもぞもぞと動く影がある。

 金色の髪をもった生物がうずくまり、その背中が奇妙にうごめいていた。

 ぐちゃりぐちゃり、と。

 内部から何かにかき乱されているように。

 背中がとがったり、血が噴き出したり。

 そんな凄惨な光景のなか、一羽のカラスがその青年の肩にとまる。

 吸い込まれていく烏。

 まるでエレインの存在を教えるかのように、泣きわめき、青年の中へと沈んでいった。

 ギョロリと血走った彼の目が、金色の輝きを持つ青年の左目がこちらを見つめてくる。

 精神を誘惑してくる花畑の中、そんな熱烈な視線を受けて、エレインの口に笑みがこぼれた。


「ウ、フフフ……ッ」


 無意識のうちに、エレインの肉体は絶頂に達していた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ