≪第12話≫おのれの生きる術
これから高等部入学の一か月前まで旅をすることにした。
そのために必要なもの、資金。
言ったらガルディのおっさんがくれたのでクリア。
龍の食袋から造られた無限財布は、ガルディのおっさんの貯金を自由に取り出せるらしい。自由に使っていいとのことなのでそうすることにする。
俺はほかの領域をまたぐ気でいたので聞いてみると、やはりというか何というか領域間で貨幣は同じらしい。
流通しているのは、もっぱら紙幣だ。
単位はヴェルク。
万札まであって、歴代の神族の顔が描かれている。
一万ヴェルクが初代、五千ヴェルクが二代目、千ヴェルクが今の神族。
日本円と同じで分かりやすい。
が、まず通貨制度があるところ自体珍しいらしい。
……あれ、持ってても意味なくね?
とか思ったりもしたが、人間種の移動できる領域じゃ通貨制度はあるということだった。
でも、来年やるという10年に一度の神葬祭で、当代の神族が移動規制を緩和するという噂があるらしい。
そうなると、通貨制度がないところではどうしたらいいのか。
一つ、物々交換。
これは心配ない。二階の空き部屋にあったトランクが何とかしてくれる。
見た目はヴィンテージ物の黒いトランクだが、あれは空き部屋に置いてあるアイテムを好きなように取り出せるらしい。ちなみに普段は生活必需品も入れられるしい。これは重宝しよう。
二つ、戦闘。
これはやばい。
人間種はナメられることが多く、また好戦的な種族もいるので、戦闘でねじ伏せて従わせるしかないらしい。
三つ、何もしない。
なんだこれは。と思ったが、どうやら人間種に友好的で、かつ仏様みたいな種族もいるので、行けば勝手に世話を焼いてくれる種族もいるらしい。
四つ、行かない。
論外だろうこれは。と思ったが、全く人間種が相手にされない領域もあるらしい。感情的な理由だったり、物理的理由だったりする。
こんなところだろうか。
あと移動手段は基本徒歩にした。
疲れを感じさせない瞬足という、何とも恥ずかしい名前の魔道具をもらったからだ。
貰わなければ徒歩じゃ旅をしない。
なんせメルティアには車があるのだ。
いや、エンジンとガソリンでアレではない。
魔術式四輪駆動車両だ。
形は自動車そっくりだが、排気ガスは出ない。
エコすぎる。電気自動車よりエコだ。
だが、この駆動車、とても魔力を消費するらしい。
だからほとんど使ってる所を見たことがない。
メルティアでの移動手段といえば、馬かホウキか鉄道だ。
転移する魔道具もあるので、使うのはもっぱら庶民だが。
貴族が住むケンラン地区に行けば、もっと風変りのもあるだろうが、目にしたのはこれくらいだった。
ちなみ鉄道がどう動いているかは分からない。
☆
「じゃあ行ってきます、父上」
研究室にお邪魔して、別れの挨拶をいちおうしておく。
丸眼鏡を磨きながら、ガルディが答える。
「ああ」
とてもそっけない。
この塩対応はいつものことだ。
そして何か思い出したかのようにつづける。
「そうだな……いつでもいいから入学までに入る学校を決めておきなさい」
そうだった。
三つ魔術学校があるんだったな。
ティレンタールと、トリンデールと、えっと、でりてん……?
デルトルか。
なんか三つとも特色があったはずだよな。忘れちまったが。
「わかりました」
まあいいさ。
一か月前には帰ってくるつもりだからそのときに決めるとしよう。
最終入学試験は入学式の十日前にもやるらしいからな。
十日前で大丈夫なのかと不安になるがまあいいだろう。
「いってきます」
地下研究室をあとにする。
返事は返ってこなかった。
☆
ユートとララナにはもう挨拶をしたし、出るとするか。
最初の目的地はガルス。
魔道具職人の街だ。
そこでお目当ての魔道具を見つけながら観光する。
メルティアもちょっと観光しながら行くから、着くのは一か月後くらいか。
というか地図は買ったが、どういう道のりになっているんだろうか。
「まあどうとでもなるか」
湖とちょっとした草原くらいの情報しか地図にはないが……。
聞くと一か月で行けるというし。
商人が行商で使う行路を使えば、宿も食料も手に入るだろう。
そう、俺は自信に満ち溢れていた。
ちっとも外に出たことがなかったのに、外のことを甘くみくびっていたのだ。
それに気づき、後悔するのに一週間とかからなかった。




