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【旧】召喚された俺が金髪イケメソになった話  作者: 虚子
――――――――――
1/33

プロローグ:終わり

 無数のカラスたちが空を舞っていた。

 まるで俺の死を祝うように。


「くだらねえ世の中だ」


 昔、誰がか言った気がする。

 ――飛び降りるなら、うんと高いところで飛び降りてやろう。

 みんなが俺を見てくれるのだ。それはさぞかし気持ちいいだろうなぁ――って。

 聞いたときは馬鹿にして笑ったものだ。

 でも今考えてみると、それも悪くないような気がしてきたのだ。

 今までくそったれな人生だったが、最後は盛大に飛び散ってやろう、中身をぶちまけてやろうって。

 悪くない、悪くないさ。


「……さむい」


 俺が最後の晴れ舞台に選んだのは、かつて就職面接を受けた企業。その本社。

 日本一高いビルの屋上だった。

 今日は一般開放される日で、イベントもしょぼかったので、ほとんど人もいない。

 現在、午後5時32分。

 どうせなら夜景でも見たかったが、タイムリミットは近い。あと30分もすれば締め出される。夕日で我慢してやろう。


「最後まで妥協かよ」


 妥協と挫折と、苦難の連続だった。

 でも別に俺が世界で一番の不幸者だなんて思っちゃいない。

 我ながらきもい独白をもらしながら、白い息を吐く。

 こんな寒い時期にするんじゃなかった。


「…………」 


 今思えば、俺は世界ランクで10位に滑り込めるほど、運は悪かったと思う。

 子は親を選べない。

 両親ともクソだった。ギャンブル好きの、お酒好き。それにヘビースモーカー。

 俺が腹にいるときも全然自重していなかったらしい。

 そのせいでもしかして俺、知的障害あるんじゃね? とか思ったほどだ。

 その両親も病気でくたばって、親戚に引き取られて、いじめられて、色々転々として…。

 唯一の救いは住み込みで働いていた寿司屋のばあちゃんが、すんげえ優しかったことか。

 今までの人生で、唯一甘えられる人だった。

 でもすぐにあの世にいっちまった。

 そう、俺に優しくしてくれる人に限って、すぐに死んじまう。

 俺の周りには死という不幸が多い。

 嫌いな奴もくたばってくれるが、好きな奴の方がすぐに死んじまう。

 結局、なんやかんやあって、寿司屋も追い出されて――

 転々として……高卒認定とって大学入ることにした。

 中学もお情けで卒業できた俺にとって、勉強は高い壁だった。

 でも周りで人が死んだ分、俺は自由になった。

 これまで環境が整わず、できなかった勉強もすることができた。

 バイトして、勉強道具揃えて、独学で必死に勉強した。

 なんとか特待生で割といいとこの大学に受かった。

 嬉しかった。報われた気がした。


 でも、またそこから俺の不運がはじまった。


 俺はよく変なヤツに目を付けられる。

 頻繁ってレベルじゃない。毎日だ。

 人通りの多い道を歩いていれば、最低でも一回は絡まれる。

 大学に入ってからも絡まれ続けた。

 奴らクズは俺を金ズルのパシリにしたかったようだ。


 くだらねえ。


 そんなちんけで細い体で何ができる。

 これまでの鬱憤もあって、奴らをぼこぼこにした。

 暴力事件になった。

 これまでのクズ野郎とは違って、親の金と権力、それに頭の出来が多少違った。

 法的手段をとられて、またなんやかんやあって、退学になった。

 これに限っちゃ自業自得だ。

 でも言い訳したくてたまらない。

 あんなに毎日絡まれて、言いなりになれって?

 4年間ずっと?

 その方が馬鹿だろ。

 俺が反抗的になるたび、奴らは人数を増し、シカトすれば、嫌がらせがエスカレートしていく。

 寄ってたかって、俺をカモにする。

 なんでこんなにも絡まれやすいんだろうか。

 よくそんなことを思った。

 第一に考えられるのが顔と雰囲気だ。くず親の丸々受け継いでいる。

 第二、ひねくれた性格と無愛想な態度。

 もう性格は直しようもねえよ。

 人の嫌なところばかり見てきて、純粋になれってのも無理な話だ。


「はは……きもい回想だな。さて…そろそろか」


 人はもういない。視界の端っこに、警備員の女がうつるくらいだ。

 あくびしやがって、てめぇ時給いくらだ。


「……」


 よく見ると、女の目の下にはクマができていて、手には絆創膏が貼ってある。

 ……世の中、苦労してるヤツはごまんといる。


「――分かってるさ」


 俺だけがって文句ぶつくさのはお門違いだってな。

 けどな……それと同じくらいに恵まれてるやつもいる

 許せねえよなぁ。

 羨ましいよなぁ

 中学にいたぁ。裕福なぼんぼんの女。

 田舎だったからあまり住み分けができてなかったからか。

 社長令嬢だったか。

 もしかしたら分からないだけであのクソ女も苦労していたのだろうか。


 ――カァーカァー。

 俺の隣に並び立つように一羽のカラスがとまり、俺に向かって鳴きわめく。


「うるせえぞカラス風情が」


 終わりにしよう。

 つめたい風が頬をなでる。

 頑丈そうなフェンスにまで歩み寄って、手をかける。

 大丈夫。

 警備員の女はうとうとしている。

 すまねぇな、迷惑かけるかもな。


「まぁどうでもいいか」


 今から死ぬんだ。後のことは知らねえさ。

 恨むんなら、おのれの職務怠慢を恨むんだ。


「さあいくか」


 世の自殺者が失敗するのは、飛び降りるのに時間をかけるからだ。

 俺は時間をかけない。スピーディーにいくぜ。

 フェンスによじ登って、夕焼けを眺める。


「全ての者に死を……ってね」


 ポケットに手を突っ込んで、そのまま頭から落下していく。

 呼び止められることも、足をつかまれて九死に一生を得ることもない。

 ただ、落下していく。

 超高層ビル、390メートルの高さから地面へと。


 真っ逆さまに。

 ただ――落ちていく。


 そこからはよく覚えていない――。


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