第四話 そして夢の中へ
第四話 そして夢の中へ
「入るってパソコンの中に?」
「そうさ、と言っても精神だけだけどな。ゲームで使うヘッドマウントディスプレイってわかるか?
マサオミの家に転がってた赤黒画面を覗いてプレイする奴のすごいやつ」
「ああ、わかる。じゃあ視覚だけで体の感覚はないのか?」
「いやある。この世界のヘッドマウントディスプレイよりもっとすごいやつさ。この世界は俺にとって俺の世界と変わらなく見える」
「そっか。で、どうだったんだこの世界は」
「良かったよ。すごく。俺の世界じゃ俺はいじめられっ子でね。俺は、ろくな学生生活を送れなかったんだ。親友もいなかったし、女友達もいなかった。
父親は弟をかわいがってばかりで、俺には当たり散らすばかりでね。母親はそれに反対できず追従するばかりで、悩み事を相談できる家族もいなかった。
そんな中でここは心のオアシスだったんだ。」
「そう・・か。なんだか苦労してたんだな。それにカズヤは結構年上なんだな。確かに大人っぽいやつだとは思ってたけど。
・・・いじめかァ。俺は身の回りでそんな問題になるいじめなんてなかったから昔の漫画でしか知らないんであまり相談にはのれない部分だな。
なにかあればカズヤや先生が止めてたよな。それにいじめをしたら更生するまで少年道徳センターに送られるし。カズヤの世界はひどいのか?」
「ああ、そこはいじったのさ。少年道徳センターも関係する法律も2018年頃に急に出来ただろう?いじったんだ。俺が。
この世界を未来予測に使うことを諦めて・・・な」
「さすがカズヤだな。いいやつだよお前は」
「いや・・・それまで俺は金のためにこの世界にいじめも戦争も犯罪もそのまま演算させてたんだ。止める力がありながらな
それに、これがきっかけで未来予測を諦めたんじゃなくて、未来予測を諦めたから、世界に介入しただけなんだ」
「でも、今は止めてるんだろう?それでいいじゃないか。聖人君子だってはじめから聖人君子じゃないよ。
昔のことを考えすぎるなよ」
「はは、・・・ほんと、マサオミはいいやつだな」
「ところで、カズヤ。俺はマサオミが好きにパラメータをいじった末の産物なのか?」
「いや全くの偶然だよ。出会いも、関係構築も。だからこそ、マサオミを信用してるんだ。俺の家族は本当の家族とは似ても似つかない理想の家族さ。
俺の望むように行動してくれるし、絶対に衝突しない。だから、相談は難しい。低レベルなCPUなんだ。」
「この世界の家族は好きじゃないのか?」
「好きさ。でも俺の理想を詰め込みすぎて決まった答えばかりのCPUになってしまったんだ。
いじりすぎたんだ。記憶も行動規範も、何もかも。キャラクターとしては好きだが、非人間的なんだ」
「そうか、そこで相談役として俺に白羽の矢を立てた、と。
で、家族はともかく、この世界はカズヤにとって愛しい世界になれたわけだ」
「ああ」
「さて、だいたい事情は飲み込めた・・・が、この相談はカズヤの胸の重荷を下ろすためのものなのか?
それとも、カズヤの世界でのトラブルの相談なのか?」
「後者だ。俺が情けないばかりにこの世界は消える。およそ15日後に。」