未来予想図1
コールドスリープから目覚めた私。
百年後の世界は、果たしてどんなものになっているのだろうか。
ああ、コールドスリープから覚める。
あれからちょうど1世紀経つ。
私たちが、思い描いていた未来は・・・・
いったい世界は、どうなっているんだろう?
頭が痛い・・熱い!
冷たかった身体がじわじわ温かくなっていく。
暗闇から解き放たれ、視界が明るくなる。
瞼をゆっくり開く。
天井が見える。
白い天井。
黄色いシミが世界地図を描いている。
なんだ、予想していた、近未来のハイテクなそれとは違うなあ。
私は、なんてことない古びれたマンションの一室にいた。
1K。フローリング。家具などなく、私は、白い敷布団の上で寝ている。
掛け布団は、見当たらないが、暑い。
今は、夏らしい。
耳が機能し始める。
ミンミンゼミの鳴く声が、部屋に反響している。
ぬっと、男の顔が視界に入る。
新選組の近藤勇そっくりの顔は、私の友人の勝俣だ。
小麦色に日焼けしている。
白い半袖のシャツを着て、ネクタイは、つけていない、襟元を楽にし、ぶかぶかのスーツのズボンのベルトをきつく閉めて無理矢理履いている。
よう、目覚めたか!大山!
勝俣は顔をしわくちゃにして笑う。
勝俣・・勝俣か!なんで、お前ここにいるんだ?あれから、百年経ったはずだが・・。まさか、コールドスリープは、失敗だったのか?
大山、落ち着け、コールドスリープは、成功した。俺が、どうして、あの頃のままの姿でここにいるのか・・面倒なので後で話すが、おい!それより、どうだ!これが百年後の未来の姿だ!驚いたか?
驚くも何も・・。
勝俣に言われ、改めて辺りを見回したが、やはりあまり実感がわかない。外にでも出てみれば・・。
私の気持ちを察したようで、勝俣は、私を誘い、外へ出た。
しかし、外へ出ても、コンビニ、ビル、電柱、自転車に乗るおじさん、野良犬、商店街のゲート、井戸端会議をする買い物帰りの奥様・・あるものは、いたって平々凡々なものだった。
むしろ、いたる建物に苔なんかが生え、老朽化していて、百年前より退化している感じがした。
なんだかがっかりしていると、勝俣がお腹が空いただろうと、近くのハンバーガー屋に連れて行ってくれた。百年前に全国トップの知名度だったそのハンバーガー屋が、今もこうしてこの時代に営業していることに、私は、少し感動した。ただ、そのハンバーガー屋もいたるところペンキが禿げていて、壁にヒビが入り、老朽化している。日本の店にしては・・このハンバーガー屋にしては、珍しい現象である。
入ると、さらに驚く。店内がおかしい。清潔感がない。掃除した後は、かろうじて感じられるが、汚れの後が床や窓に目立つ。
気を取り直し、レジへ行く。制服を着ていない、普通のおじさんが出てくる。やはり、おかしい。レジ越しに出されたメニューは、従来のものだが、サインペンで上書きされ、値段が安く書き換えられている。だいたい、十円前後だ。頼んだチーズバーガーが出てきたが、紙で包まれていない状態で出てくる。ポテトは、小皿の上に乗っている。小皿には、魚の絵が描いてある。この小皿、100均か?それと、グラスに入ったお冷や。トレイは、よかった、普通だ。
席へ着こうとすると、椅子も間に合わせで、随所にどこかの家庭から持って来たんだろうという椅子が置いてある。
躊躇していると、目の前の勝俣がハンバーガーを一口食べた。勝間は、大食らいだから、ペロリ食べてしまうだろうなんて思って見ていた。しかし、以前より、食べるのが遅くなったようだ。
私も食べてみる。お腹は、別にすいていなかった。半分くらい食べ、満足してしまった。味は、あまり美味しくなかった。勝俣に聞いた。
なんだ、この店は、あれだな。あまり、よくないな。
どこが?普通だろ?
普通じゃないだろ・・。なんだよ、ここ・・。
店員に聴こえないよう、小声で言った。他に客は、いない。店内に聞こえるのは、私たちの喋り声だけだった。
ああ、そうか。
勝俣は、何か気づいたようだ。
いやあ、日本、いや、日本だけじゃないな。世界中の店がこんな感じさ。みんな、あんまり働く気がないんだよなあ。昔の人に比べたらさあ。
え?
昔はさあ、みんな汗水流して働いて、よく頑張っていたよなあ。国を、社会を、生活をよくするためって、働いてたよな。それが、当たり前だった。
おおそうさ。うん!勤勉な日本人は、特に真面目に働いていたぞ。
そうだよな・・。ところが、世代が代わるに連れ、皆の働く意欲が失われていった。お前でも思い当たるだろう。ほら、ニートなんて、働かない若者が話題になったじゃない。
ああ、私も会社で頭を抱えたよ。ゆとり世代の若い連中は、働くことへの意欲に欠ける。困ったものだ・・。そうだ、お前と飲んだ時は、たいてい使えない部下の愚痴ばかりたったよな。
困ったものだって、お前、それ、大昔の話になるんだぞ。ああ、そうだな、お前とは、よくそんな話をした。しかし、今の時代は、違う。その若者の考え方が正しい。俺たちは、無駄なことをしていたんだよ。
無駄なこと?おかしなことを言うねえ、君は。
まあ、聞け。いいか、あの頃の概念として、一般人からする働くということは、生活を豊かにすることだ。しかし、本当にそれで生活は、豊かになったのかな・・。
勝俣は、淡々と話を続ける。
働くということは、大半が何かを作ることだな。その、おかげで、生活が豊かになったか・・ならなかった。それのおかげで、ゴミが増え、環境が汚された。新しい発明は、新しい犯罪を生み、場合によっては、死人を作った。人間にとって便利なものは、人間の生きる力を低下させた。堕落させた。物を作る会社だけじゃない・・。
いやいや!待て!わかる!お前の言うことは、わかるさ!
しかしな、そんなこと、あの頃の俺たちだって、普段思っていたことだ。ただ、なんというか、仕方なく、このまま人間は、逆らえない何かの力によって文明を発展させて、自滅していくんだろうなと思っていた。だって、
現に、個人がそう思っていても、社会じゃ通用しないことだろう・・。
お前の知らない内に、社会は、変わった。社会を作るのは、人間だ。人間の思考が変わったんだ。人間は、なあ、進化したんだよ。
進化?
そう、その前に・・。
人間はこの星の生物のトップに君臨する。そうだな?
私は、黙って頷く。
勝俣は、尚もたんたんと喋り続ける。
人間が生き物のトップにいられるのは、人間の進化の結果だ。何処が進化したのか・・。脳だ。脊髄と二足歩行のおかげで、脳が肥大化し、人間の脳は進化したと言われている。
脳の進化の一番の功績は、知識欲を生んだことだった。人間は、あらゆることを学習し、道具を作り出した。道具は、あらゆる強い動物から人間を守った。そうして、人間は、生存競争から見事勝ち抜いた。
そうだな。
ところが、生存競争が終わっても、人間に平和は、訪れなかった。それを邪魔したのは、人間の欲だった。人間は、欲望のために、無駄な道具まで作り始めた。新しい道具は、新たな欲望を生み、人間をわがままにした。欲望は、争いを生み、それを防ぐために法律ができて、社会が生まれた。
そうかもしれない。
しかし、長い時代の中で、人間は増えた。増えると人口密度が増す。すると、まず、繁殖力、つまり、人間の性欲が衰え始めた。これは、あらゆる生き物に当てはまることだ。自然の流れなんだよ。昔言われたよなあ、草食系男子なんて・・。あれが、その助長だった。
それで?
するとそれを機に、物欲など、あらゆる欲が
衰え始めた。これも、百年前には、その傾向がもう見られていた。思い当たるだろう?
ああ、若者は、物欲がなく、貯金ばかりしていると言っていたっけ。ニュースでやってたな。不景気のせいだと思っていた。
あらゆる欲がなくなり、ついに働こうという意欲まで低下してきた。人間は、だんだん、無駄なことを辞め、生きることにだけに執着するようになった。自給自足が当たり前となった。そういうふうに人間は、退化という進化を遂げたのだ。
しかし、なあ、それでも社会のトップの人間は黙っていないだろう。
それが、これは、人間のおかしなところで、周りが働くのを辞め始め、それが大勢になると、我も我もと働くのを辞め始める。すると、社会のトップ、政治家や官僚は、慌てて、厳しく取りしまったりしたが、いやあ、やる気のない人間ほど手に負えないものはない。結局、根負けして、政治も社会も崩壊してしまったよ。
そうか。わかった。
しかし、これは、どうだ?研究や開発の分野だ。これは、なくならないだろう。あるテレビ番組で言ってたけどね。例えば、人類皆が、研究や開発を辞めようと努めても、だれか1人がそれを辞めなければ、永遠に続いてしまう。
例えば、新兵器の開発なんて、戦争がなくなってきた私たちの時代でも行われていた。これは、戦争にならないようにという予防線と、戦争になった時、自国を守るため、日本の場合守ってもらうためというのが名目だが、元を正せば、研究や開発に携わる偏った人間のエゴから生まれたものだ。これは、今のこの時代だって、どこかで続いているだろう。
うん。鋭いな。そう、研究と開発の分野は、今も健在だ。
しかし、俺たち、つまり人間のほとんどは、そんなこともうほとんど興味がないから、のほほんと暮らしているよ。
もし、万が一戦争が起きれば、この国を捨てて、どっか別の国で住むし、そうそう、そういや、愛国心なんてもんもなくなっちゃったなあ。所謂、本当のグローバル時代さ。現に、この日本にだって、昔戦争していた国々の避難民がそのまま住み着いていて、多民族国家になってしまっているよ。
なるほど、それで納得が、言ったよ。このハンバーガー屋だって、かつては、販売数をより伸ばそうと必死だったはずなのに・・。
そう言って、私は、店内を見回した。なんとも言えない、虚しい気持ちになった。
この、店だって、あの親父の家で、気晴らしに、店員なんてやってるのよ。
そうそう、もはや、お金なんてもんは、ほとんど価値のないものだから。
大山、お前無一文だろ?コールドスリープする前、銀行に全額預けてたものなあ。
でも、別に払わなくていいんだぞ。
値段書いてあるけど、形だけだから、あれ・・・。
そうだ。店に出ていいもの見せてやろう。
そう言うと、勝俣は、店の外に出た。
私は、勝俣の後ろを歩いている。
途中、標識の看板が落ちている。
新宿・・・。
てっきり都心から少し離れた場所をイメージしていたが・・。
なるほど、勝俣の言うように、日本は、世界は変わってしまったようだ。
商店街のゲートを抜ける。
続く




