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梅雨です

緋絽です!

例年より11日早く梅雨に入ったというので、書いてみました!


ふぅ……。

私は自慢の雄々しい尾を振って水気を払った。

近頃雨ばかりで嫌になりますねぇ。なんでしたっけ? 梅雨と言うんでしたっけ。心太さんが言っていたような気がします。

こう雨ばかりでは食事を取りに行くことも女性をデートに誘うこともできません。



グーキュルルル。



「……ふっ。雄々しい私の腹がなるはずがないでしょう」

再び鳴り響く唸るような音。

正直に申し上げましょう。

――お腹、減りました。



いえ、恐らく食事に行けばいつものようにごはんはいるのでしょう。

え? ごはんなのになぜ“いる”と言うのかって? 何を仰る! ごはんは生きているものではないですか! おかしなことを聞くのですねぇ貴方!

しかし、この雨の中、長く飛ぶことはできません。羽根が濡れてしまうと重くなるのです。このslenderな足で歩こうとも考えたのですが、疲れるのでごめん被ります。

結果、私、朝から何もくちばしにしておりません。

クッ、凛々しい燕たるこの私が! 飢えるだなんて!

いえ、ここは我慢するのです。明日になれば雨は止むでしょう。それからdinnerと致しましょう。

もう既に何度目かわからない情けない音が鳴ったとき、真っ白な美しい毛並みの猫と幾千もの死地を潜り抜けた猛者のような雰囲気の猫が私の巣の下を通りました。

私は思わず声をかけました。

「こじろうさん、心太さん! どちらへ?」

「ん?」

「あ?」

私は下に飛び降りてこじろうさんの頭に乗る。

「寝ぐらに帰るんだよ。今日の夕飯はすませたからな」

「うぅ……魚屋さん今日もごめんなさい……。いつか返します……」

なぜか落ち込んでいる心太さん。

何やらさっぱりわかりませんが、元気出してください。

ていうか、dinnerはもう済ませたですって!? う、ううう! 普段なら凛々しく空を駆ける私の方が素晴らしいのですが! なので鳥である私の生き方はこの上なく素晴らしいのは決して間違いではないのですが! 今は雨露関係なくごはんにありつける貴殿あなた方が羨ましい!

「お前は? もう夕飯食ったのか?」

こじろうさんが毛つぐろいをしながら聞いてきました。

「もちろんですとも! 今宵は……」

ギュルルルルとお腹が鳴る。

「ん、なんだこの音」

ピクピクと心太さんがおひげを動かした。

なんてこと! 雄々しい燕たる私が! みっともなくもお腹を鳴らしてしまうとは!

「……もしかして、ロレンティーノまだ飯食ってない?」

「うぅ、お恥ずかしながらその通りです」

私の言葉に心太さんが首を傾げた。

「恥ずかしい?」

あぁっ、皆間で仰らないでください!

「いえっ、決して狩りに失敗したわけじゃないのです! 雨が降っていて食事を取りに行くことができないだけなんです!」

木の実を食べに行くことも考えたのですがね。結局のところ羽根は濡れてしまうのですよ。

「へー……恥ずかしいって感じになるんだ……」

「魚でよければ取ってくるが?」

「遠慮しておきます」

ヒトが食べる白いものなら喜んでついばむのですがねえ。ポップなんたらが恋しいですよ。

またまたお腹が鳴る。

いーやー!

私を見たこじろうさんが深い溜め息を吐きました。

そして鼻で押して心太さんを私に寄せる。

「ん? 何だよ、こじ」

「すぐ戻る。ロレンティーノの側から離れるな」

「あーい」

駆け出していったこじろうさんを見送る。

「あいつ、どこ行ったんだろ?」

「どこでしょうねぇ。いつもなら追いかけるんですがねぇ」

私の言葉に心太さんが空を見上げた。

「鳥って、雨だと飯取りに行けないのか?」

「取りに行く仲間もいるにはいるのでしょうがね。私はこの立派な尾を痛め付けるのが忍びなくて」

「へー」

興味無さげですね?



少し待っていたら何やら慌ただしい足音が近付いてきました。

「ロレンティーノーーー! 生きてるー!?」

「ゆーすけ! 落ち着け!」

ドタバタ走りながら口から何かをこぼしているゆーすけさんの後をそれを拾いながら慌てたようにこじろうさんが駆けてきました。

「おや、ゆーすけさん。ご機嫌麗しゅう!」

「うるわしゅうくない! はい!」

口からバラバラとクリーム色の何かを落とすゆーすけさん。

「ったく……」

その上にこじろうさんが拾った同じものを落としました。

なんでしょう、これ。

首を傾げて問う。

「なんです、これ?」

「僕のおやつ! クッキーだよ!」

ほう、クッキーですか! 美味しいですよね!

「いいですねぇ」

しかし今私の前に持ってくるとはなんとも間の悪い。食べたくなってしまうではありませんか。

「何言ってる。食え」

ふんと鼻で体を押されました。

え?

「これ、いただけるんですか」

「持ってくるの大変だったんだからー」

ゆーすけさんがバタバタしっぽを振る。

「早く食え。他の鳥が来ないように見張ってやるから」

こじろうさんがくあ、と欠伸をした。

「オレもオレも!」

思わず瞬いてしまいました。

鳥の世界では己の子にしかご飯は譲らないものです。それは猫でも犬でも変わらないと思っていたのですが。

私は皆さんにクッキーをくちばしで押して差し出しました。

「こんなに食べきれませんよ。一緒に食べましょう」


あぁ、私。今まで多くの国を渡り、多くの犬と猫に出会いましたが。

「ありがとうございます」

優しい貴殿方が一番好きですねぇ。



次は秋雨さん!

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