お初にお目にかかります、私、ロレンティーノと申します!
バトン受けとりました、緋絽です!
紳士な勘違いツバメ、ロレンティーノ担当です!
それでは、どうぞ!
ご機嫌麗しゅう、マドモアゼル。そしてムッシュー。
よく可愛いツバメちゃん! とお声をかけていただきますが、少々納得しかねております。えぇ。私、れっきとした黒い燕尾の輝く勇猛で立派なオスなのです。以後、お見知りおきを。
さて。先日、所町に新しい子がやって参りました。
彼の名は心太。仔猫です。あの小さな前足で地面に記号(彼に言わせるとご自分の名前なんだそうですが)まで書いてくださいましたので、私、覚えておりますとも。彼は猫であるのにヒトの使う字とやらを書くなんて、なんとも不思議なことです。
フワフワの真白な毛並みに円らな瞳! あぁ、失礼! 猫ですから瞳は円らではありませんね。ほほ、私としたことが、かような間違いを犯してしまうとは!
今日いつものように空を飛んでいると、ヒトが多く集まっている場所がございました。
ヒトというものはよく集団で暮らしているもので、こうして集まって何かを見定めたりしているのはそう珍しいことではございません。ですが、この度は何やら見たことのある記号が目に入り、少々降り立ってみることにしたのです。
天井間際の横向きにきっちり結ばれた紐の上に降り立ち、よくよく伺ってみると、壁に『sale』という記号が書いてありました。なんと読むのでしょう? やれやれ、ヒトはやけに面妖な記号を使うものですねぇ。
そこでおやと気付きました。
籠に張り紙がしてあり、そこに「心太」と書いてあるのです。
なんと! 彼の名は多くのヒトに愛される名であったのですね!
お教えしなくては!
「心太さーん! 心太さーん!」
「ん?」
飛んでいくと三匹が思い思いに振り返りました。
あぁ、失礼。私の美声がそんなにも心を揺さぶるとは!
「あ~ロレンティーノだぁ」
ゆーすけさんがパタパタと尻尾を揺らす。
「うるせえぞロレンティーノ」
「ふふ、照れ屋ですねこじろうさん。慌てずとも後で私の美声を一人………いえ、一匹締めさせて差し上げます」
「なあ、しんた。俺にはあいつが何を言ってるのか理解できない」
「大丈夫だオレもわかんねー」
ふふ、二匹とも照れ屋ですね。
「そんなことより。私、先ほどヒトが多く集まる場所にて心太さんの名を見つけましたよ! たくさんのヒトがそこにあるものをわし掴んで手に持っている籠に放り投げておりました」
私の言葉に心太さんがビクリと体を跳ねさせる。
心なしかわなわなと震えているような気もしますねえ。
「はて。心太さんの名は鷲掴みできるようになっているのですか?」
首を傾げて問うと、心太さんがギッと睨み付けてきた。
「なんだよ! 犬猫鳥もオレの名前をいじるのか!?」
キーっと心太さんがゴロゴロ転がる。
「え?」
「あ?」
「はい?」
全匹揃って首を傾げた。
名前をいじる? はて、いったいどういうことでしょう?
「うっうっ……どうせみんな陰で笑ってんだろぉー『あいつの名前、ところてんなんだぜ』ってええええ!」
「しんた君の名前はしんたでしょ?」
「ところてんじゃないだろ?」
ふふふ…二人はわからなかったのですね!
心太さんは何やらお名前にcomplexなるものがあるご様子。
「名前なんかヒトが勝手につけたもんだ。それでからかわれても無視してりゃいい」
くぁーとこじろうさんが欠伸をする。
何を仰るのです。きっと飼い主さんにからかわれてしまったのでしょう! 幼い彼のheartはいたく傷ついたのです! あぁ、さすが私。今日は冴え渡っています!
「皆さんよくお考えなさい! きっと彼の名は別の読み方があるのです!」
ふ…っと私の美しい羽を羽ばたかせるとこじろうさんとゆーすけさんがなんだか感情を消した顔で見上げてきました。
そうですか! 感情を表せないほど凛々しかったですか! そんなこと言われたら照れてしまいますよ。
私は心太さんのほうを向いて首を傾げて笑いかける。
「どんな読み方であろうと貴方の名はヒトを集める力があるのです! さぁ胸を張りなさいな!」
私の言葉に心太さんが目をぱちくりさせた。
そして脱力したように耳を垂らす。
「なんか違う気がするけど……まあいいか」
コロンと寝転がった彼の口の端が笑っているように見えました。
さて、なぜでしょう?
ロレンティーノ、なんてポジティブなんだ!
ちなみに、文章の中でやけに英単語が出てきますが、なんちゃって国際ツバメなつもりです。渡り鳥ですからね。某国がルートに入ってるかどうかは知りません!
次は秋雨さん!