時間戦士は永遠の夢を見るのか・番外編「それは遠慮しとくわ」
<火曜日>
案内された志音のアパートの部屋の前で、二人は埃や煤を払い落とした。遠くからは、未だに走り回る緊急車両のサイレンの音が聞こえる。アンドロイドのはずなのに、アミカナは激しい疲労を感じていた。
さっきの出来事は、なるべく分析しないようにしていた。少なくとも今は。私と彼は助かった。それが重要だ。咄嗟にリミッターを外した彼女は、爆撃された百貨店の屋上から、志音を抱えて飛び降りていた。崩れ落ちる非常階段を足場に使いながら、地上まで降りたのだ。エージェント・オリジナルが如何に鍛えられているとはいえ、アンドロイドの体でなければできない芸当だった。今更ながら、新しいボディに感謝する。問題は……精神の方だ……
「どうぞ。思い切り散らかったままだけど」
扉を開けながら、志音は言った。
「お邪魔します……」
玄関から続く、狭く短い廊下を抜けると、小さな部屋が広がった。確かに、彼の言う通りだった。床の上には本やチラシが無造作に積み上げられ、取り込んだ洗濯物はベッドの上に山となったままだ。まあ、見たことがないわけではない。こんな中で暫く過ごしたこともある。男子の部屋は、いつの時代でもこんなものだろう。むしろ、あまりにも飾らない日常に、さっきの出来事が現実ではなかったかのように感じられた。しかし――
壁に立てかけた姿見に自分が映って、アミカナはハッとした。思った以上に、服がひどいことになっている。
志音に向き直った彼女は苦笑した。
「ごめん。せっかく買ってもらったのに、二日経たずにボロボロになっちゃった。いくらしたんだっけ?」
「ブラウスが5000円、スカートが6000円くらいだけど、別にいいよ。それより、怪我しなくてよかった」
「そうね。お互いに」
彼は、それ以上さっきの出来事には触れなかった。無理もない。混乱しているのは彼の方だ。だが、その方が有難かった。分かっている。作戦行動の是非は考える。後で必ず――
「これ。サイズは合わないと思うけど」
志音は、洗濯物の山の中から、Tシャツとジーンズ、それにタオルを引っ張り出すと、おずおずと彼女に差し出した。
「ありがとう」
「あ……あの……下着は大丈夫?」
視線を合わせずに尋ねる志音に、アミカナは眉を顰めた。
「……下着、あるの?」
「いや、ないけど……パンツくらいなら」
アミカナは苦笑した。まあ、彼なりの気遣いなのだろう。女性に、新品ではない男性下着を勧めるなんて、かなりズレているけど……
「それは遠慮しとくわ」
「そうだよね……ごめん。トイレか浴室で着替えてくれる? その間に部屋を片付けておくから」
そう言うと、彼は早速、床の上から何冊かの本を拾い上げた。
「わかった」
アミカナは廊下に向かいかけて、ふと振り返った。小さく微笑む。
「変なDVDも隠しておいてね」
「……あ、ああ……」
志音の返事に、微かに眉を動かしたアミカナは呟いた。
「ほんとにあるんだ……」




