死ぬにはいい日
10月の上旬、金木犀の甘く、温かみがありながらキレのある香りがカラリと乾いた北風に交じり、わきを通り抜けていく。
ふらふらと宛てもなく、外を出歩く。家を出て見慣れた通りを十数分、数十分歩くと、鈍くふくらはぎが温まりはじめる。
見慣れた通りから、ふと目が離れる。商店が立ち並んだ通りから細い脇道に入る。ゆっくりと足を進めると住宅の立ち並んだ景色が目の端をかすめていく。
朝の冷え込んでいた空気が日に温められ、町に活気を呼び込んでいく。平日、家族には部活があるからと言って朝食も抜いて出てきたが、このまま歩いたとして着くのは日が暮れても無理だろう。
結局、着いたのは日がとうに暮れ、再び空気が冷え切った夜だった。当然のように校門はしまっている。とはいえ、門の敷居は越えられないこともない。周りを見渡し、人目を忍んで音をなるべく立てないよう、こっそり入る。正面玄関には寄らず、廊下の窓際ににじり寄る。窓から覗き見る学校は騒がしさだけが抜け落ちたようだった。ビニール袋に小石を詰め、即席のブラックジャックを作る。ガチャガチャと掠れる音と手の袋の重みだけが身体に響く。はじめはゆっくりとやがてブンブンとうなりを上げるまで回すと、力を抜いて遠心力に身を任せて窓の枠組みの端にぶつける。
強化ガラスとはいえ、一点に力を集中させれば割れないことはない。これまではただの知識だった。体験してみればどうということもない。開いたこぶしより多少大きな穴をひろげていく。割れた瞬間から響いている警報を無視して、ぶらぶらと屋上を目指し、階段を上がっていく。
扉の前に立つ。この向こう側に屋上がある。鍵を開け、ドアノブを握る。手をひねり、押して開く。
立つ場所の高さを冷たい風の強さが教えてくれる。薄っすらと張った雲が星空を隠し、月の輪郭を崩す。フェンスの向こう、瞬く夜景が空と大地を逆さまにしたようだ。正面をまっすぐに見据え、フェンスに向けて足を動かす。フェンスは高いが、凹凸がないことはない。靴と靴下脱ぎ、凹凸に指を掛ける。一手一手着実に進む。自身の重みと風でキシキシと鳴る。屋上のふちに降りる。裸足にコンクリートの冷たさとザラつきが伝わる。今ならば、鳥のように飛べるだろうか?
足を一歩前へ出した。
浮遊感に身を任せ、目を閉じる。
今日はいい日だった。




