#0007 鉄の光 / Iron Light
全体的に戦闘はあっさりしてますが、まあ、仕様です。
特に戦力差が大きいとどうしてもね……。
広大な荒れ地を分かつ異様な大地の裂け目の中、
壁面のところどころにガラス質の層が
露出する一筋の道をセルンは進む。
暗殺対象の正確な位置は不明のはずであるものの、
彼の目指すところに迷いは見られず、既に
その居場所に当たりを付けているかのようだ。
「前来た時より少し広くなっているね。崩落でもあったのかな」
速度を一切落とすことなく裂け目の中央を突き進むセルンは、
どうも裂け目の幅が以前より広がっていることを気にする様子。
この地では以前にも数回発掘計画が施行されており、
その際の爆破や内部への侵入の試みによって
崩落が起きた可能性はあるだろう。
「まあ、飛びやすい分には構わないか。先を急ごう」
既に見知った道がより広くなっていることを知ったセルンは
噴進機関側面のバルブをひねり、排気に火を灯して加速する。
4つのノズルから高温の空気が吐き出され、彼の身体は
すぐに目を開けていることも難しいほどの速度に達した。
それでも、高速飛行用に設計されたヘルメットは
完璧にセルンの目と呼吸を守る。
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──彼が後方で待つ標的へ忍び寄る中、
上空ではいまだに戦闘が続いていた。
勝敗はすでに決したようなものだが、圧倒的な劣勢にある
エーテルヌムの戦士たちは撤退もかなわず飛行機械や戦闘飛竜たちに
雷撃を浴びせられ、動きを鈍らせたそばから
目前まで迫る流光の砲撃により散ってゆく。
二つ並んだ砲口が火花を散らしたと思えば撃ちだされた
鋭い金属の針が彼らの身体を突き抜け、はるか下方の荒れた地面、
そして砂地に埃を巻き上げる。
飛び散った血飛沫は霧のように薄まり空へと消えてゆく。
「一方的……ですね」
流光の操舵室で、その様子を見守る操舵手が虚ろな
目をしながら言葉をこぼした。
それは誰に向けられたものでもなく、ただ目の前の惨状への
恐怖や罪悪感を表したようだった。
「私の言葉の根拠がこれでわかっただろう。君の哀れみや罪の意識は理解できるがな、これは戦争なのだ。もしあの規模のエーテルヌムの戦士たちが防備の整っていない都市へ攻撃を仕掛ければ、今の彼らと同じ仕打ちを受けるのは我が国や連合の民になる。総戦力で劣る彼らが採る戦術と言えば何かはわかるだろう? 本作戦はこの艦がいつでも動けるというメッセージを発するためのでもある」
流光の戦闘力の前では彼らの強さも霞むものの、
37匹ものドラゴンたちが実際に辺境の都市や軍事拠点に
攻撃を仕掛けた際の被害は計り知れない。
ハフィルの言葉が示すように、これは流光がただ
中枢の空を巡回するだけの"盾"ではなく、
矛にもなることを示す意味を含んでいるのだ。
だが、初の実戦となるクルーも多い中、戦いの様子を見通すことが
できる位置にある区画の空気は重い。
例え敵と言えど、一方的な殲滅戦としか思えないこの光景は
ほとんどの者にとって気分のいいものでないことは明らかだった。
「オメガ3-1から艦上航空隊へ、オメガ4各隊が主砲を再度発射する。
散開し、射線上から速やかに退避せよ。以上」
そんな中、その空気をさらに澱ませるかのような冷たい通信が流光と航空隊の間を走る。
残るエーテルヌムの戦士たちの数は少なく、次の射撃で彼らは空から取り除かれるだろう。
流光の影が空を覆い、見ることも叶わない光が、そして重く鋭い金属の針が荒れ地の空を黙らせるのだ。
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「……静かになった。向こうは片付いたかな」
谷間を進むセルンは空になった燃料缶を投棄し、
交換しつつ戦いの終わりを悟った。
同時に、戦闘飛竜隊に配備されている双発型魔工噴進機関より
さらに強力な彼の装備でも、標的であるエーテルヌムの執行官、
そして伝令官の居場所までは距離がある様子だ。
それもそのはず、たとえ種族としての強さと誇りを原動力とする
過激な集団であっても、実働部隊と指揮、観測要員は分かれている。
セルンの任務、暗殺というのはつまり、
こういった後方勤務の個体の居所へ回り込み、彼らが情報を
持ち帰ることそのものを阻止することが要点となる。
空軍は以前より、いわゆるゲリラ戦を繰り返して手薄な地域や
輸送路を重点的に攻撃するエーテルヌムへの対抗策として、こういった
作戦を指揮する彼らの執行官や、同志を募り、過激な思想へ
転向させようとする伝令官の暗殺を何度も試行していたものの、
決定力のある攻撃手段の欠落から何度も失敗を繰り返していた。
単独でも強大な火力を持ち、高速で飛行しつつ艦上航空隊をも
運用できる流光を今回の作戦に投入したのは、こういった火力不足を解消し、
同時に可能な限り近い位置から航空隊を発進させることで
敵に逃げる時間を与えないようにするためでもある。
もっとも、今回に関してはその役目を負うのはセルンなのだが。
──そのセルンの方は、北へ向かうにつれて損壊が激しくなってゆく
周囲の地形に少しの疑問を抱いている様子だった。
「この壊れ方……爆薬や精密な攻撃系魔法じゃないね。かなり大雑把に壊されてる。もしかしてあいつら、地形を崩して入口を埋めるつもりだったのかな?」
彼が疑ったのは、エーテルヌムが王国と連合に対する妨害策として、
周囲を破壊することで発掘調査そのものを
困難にするという方法を選んだ可能性だ。
周囲には崩すことのできる崖や岩がいくらでもあり、
ドラゴンたちの得意とする大雑把で高威力な魔法で爆破すれば
簡単に崩落を引き起こせるだろう。
周囲の地形が崩落した場合、露出していた入り口部分を掘り返すには
数百単位の作業用ゴーレムに、大規模なクレーンなども必要になる。
それは、直接的な衝突以外で圧力をかけようとする
彼らの戦術を考えれば十分あり得る話だ。
「まあ、なんにせよまずはやることをやらないとね。入口までは確かあと3000メルハくらいかな? 目標がいるとしたら多分橋のところ。予想があってるといいけどね」
以前にここへ来たことがあるセルンには陣地を置くのに適した場所
というのも見当がつくようで、彼は迷うことなく谷を翔け抜ける。
──最後の燃料缶を取り付け、一度火を消して。
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「……そうか。退くことすらできぬか。分かった、ケラス。我らにまで危険が及ぶ前に去るとしよう」
苦しみに満ちた表情で冷たい灰色の地面に視線を落とすこのドラゴンは、
ここへ展開していたエーテルヌムの部隊の指揮官を務める個体だ。
もう一匹のドラゴン、ケラスと呼ばれた大柄な個体は
空へと上がった戦士たちがもう帰らないことを
執行官へ伝えに戻ってきたのだろう。
彼も同様に、数分前までは生きていた仲間たちの死に向き合いきれずにいた。
そんな静まり返った谷底に、黒い翼が忍び寄る。
「見つけた」
曲がりくねった谷の壁面を這い上がるかのように
現れた一羽のワイバーンは、腰に着けた4つの機械から火を噴きだしながら
この地を後にしようとする彼らに一瞬で詰め寄り、
そして執行官と目が合うほどの距離ですれ違う。
──その瞬間、セルンの右手に握られた何かからオレンジ色の光条が閃いた。
噴き出す溶鉄にも似たそれは、すれ違ってようやく
セルンの姿を捉えた執行官の横腹に突き刺さると、
轟音とともに爆発を起こしてその体を粉微塵に打ち砕いたのだ。
爆発による高熱が裂け目の壁面に生えたわずかな草花を焦がし、
硬い石の地面を焼く。
不運にも執行官のそばにいたケラスはその余波に巻き込まれ、
強い閃光に目がくらんでしまった。熱に強いドラゴンの鱗は
彼の体を守ったが、目はそうもいかないだろう。
一つ目の標的を仕留めたセルンは、一瞬の出来事と目の痛みに錯乱し、
よろめきながら暴れるケラスのことなど気にも留めずに急旋回すると、
翼を大きく広げて減速し、右手に奇妙な武器らしきものを
持ったままこの裂け目に架かる橋へと降り立った。
「ああっ! 目が、見えない……! セフォー……あぁ、何てことだ!」
依然として視力が戻らないケラスは、かろうじて残っている
聴覚を頼りに事態を把握しようとするが、爆発音によって
異常をきたした彼の耳ではすぐそばにセルンが着地した音すら
拾うことはできていないように見える。
そんな彼に、セルンは右手に持った
見慣れない道具の先を向けたまま近づいてゆく。
普段はほかのワイバーンと同じように低い姿勢で歩く彼だが、
腕に武器らしきものを持っている今は
それに合わせて胴体を起こし、人間に近い姿勢だ。
「さて、君に一つ話があるんだけど、聞いてくれる?」
ようやく落ち着きを取り戻しつつあるケラスに対し、
セルンは少し意外な言葉をかける。
その声で気が付いたのか、ケラスは前半身を起こして
相手がいるであろう方向へ向き直るが、目が見えない彼には
ここに見知らぬ者がおり、かつそれが友好的ではないことくらいしかわからない。
「はぁ、あぁ、一体……何者だ? よくもセフォーを、執行官を殺したな!!」
「ふん。別に彼に恨みはないけどね、もちろん君にも。だけど、君たちがバカな戦いを続けるのが悪いんだよ」
一瞬のうちに同胞が焦げた肉片となって死ぬ様を見たケラスは、
明確な殺意を声に乗せてセルンへと吠える。
──この大陸でもっとも丈夫な身体を持つ種族であるドラゴンを
一撃で粉砕するような武器を相手に勝ち目がないことは彼も
理解はできているだろう。
だが、この惨劇は冷静な思考をする間もなく起こったことだ。
「エーテルヌムは決して退かんぞ! 我々は……我々はいつかあの頃を取り戻すのだ!」
恨みはないといいつつもエーテルヌムの活動そのものを否定する
セルンの言葉に、ケラスは怒りのまま突進した。
だが、彼よりもはるかに身軽であり、
戦闘経験も豊富なセルンには当然届かない。
セルンは攻撃を受け流すかのように軽く羽ばたいて
横へ避けると、ケラスの左後足へ武器の発射口を向け、引き金を引いた。
レンズのようにも見える発射口から、燃えるように輝く一筋の線が飛び出し、
相手を捉えられずに頭から固い地面へ倒れこんだ彼の脚へ突き刺さり、爆砕する。
外皮を焼く熱、肉と骨を伝わる衝撃波、そして体を抉り取る爆発。
ケラスは複雑に絡み合う苦痛に体を捩りながら地面を転がり、
そして動かなくなった。
それを確認したセルンは、あきれた様子で右手の武器を
ホルスターにしまい、ため息をつく。
"鉄の光" ──二匹のドラゴンを容易く粉砕したこれこそ、
セルンが発見した遺物の中で最も破壊的な代物だ。
「話したいことがあったんだけど……まあ、仕方ないか。それにしても、やっぱり前に来た時とはずいぶんと様子が変わったものだね」
セルンの言葉からするとケラスに何かしら話があったようだが、
彼はそんなことも気にせず、この場所の以前との違いへ
興味の対象を切り替えた。
少しの間周囲を見回し、注意深く観察したのち、
セルンは閃光から目を守るための鏡面風防を左手で押し上げると
腰のエンジンを吹かして飛び上がり、裂け目の外を目指して上昇する。
流光のもとへ戻り、ハフィルに成功を知らせるために。
「──遺跡探索に来ただけなのに、ずいぶんと面倒なことに巻き込まれたものだよね。まったく」
ということで、セルンが使う武器はレーザーピストルでした。
可視光からガンマ線まで可変波長式で継続照射とパルス照射を
切り替えられ、出力は驚異の1.2GW(継続照射) / 800MJ
(参考: 流光の単装主砲: 20-25MW、テンペスト級戦艦(現状言及のみ)の三連主砲: 10MW、王都防衛用戦略レーザー砲(未登場): 120-150MW)
パルス照射時はキャパシター内の全エネルギーを一度に放出する"Blast"と、数マイクロ秒の間隔を置いて50-100回に分割して照射する"Pierce"モードが選択できます。前者は着弾点をほぼそのまま爆破し、後者は比較的小さな爆発とともにドリルのように穴を掘り進みます。
射程は赤外線で40km、紫外線で12km、X線で400m、ガンマ線で200mほど。
そのほか:
ワイバーンは基本的に近距離では照準器を使わず、空間認識力のみで狙いを合わせるため、短射程高火力と高機動の組み合わせは非常に使い勝手がいいようです。
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[遺物: "鉄の光"]
既知の歴史上で2番目に古い、いわゆる"第二の文明"の時代に用いられていた人間用の武器。
片手で扱うことができる程度の重量と大きさだが、その威力は現代のほぼすべての武器兵器を上回る。
片手用のクロスボウや攻撃魔法投射器と同様に目標へ照準を合わせ引き金を引くという運用がされ、たった1発の発射で鋼鉄製の戦闘ゴーレムを文字通り粉砕できる。
標的へ向ける発射口部分にはレンズ状の構造が見られ、この特徴が現代の光束砲と共通することから実態としては光線武器の一種であると考えられているが、動作原理については一切わかっていない。
もう一つの特徴として、グリップ部分の側面に数種類のダイヤルやスイッチ類があり、これを操作することで攻撃の性質を変化させることが可能。
最も大きなダイヤルには現代のものと共通のアルファベットで "Green" "IR" "UV" "X-Ray" "Gamma" との表記があるが、これは鉄の光を回収した本人であるセルンが実際に試験をしたところ、
IRを選べば射程が伸び、UVを選べば威力が上がり、Greenを選べば視認できる光線を放ち、X-RayとGammaは射程の大幅な減少と引き換えに絶大な威力を発揮することが判明した。
また、"SAFE" "CW" "PULSE" を切り替えられるスイッチでは、SAFEを選ぶと射撃ができなくなり、CWでは光線が継続的に照射され目標を加熱、切断でき、PULSEでは一瞬の照射で目標を爆発させるというように変化することも分かっている。
"鉄の光"という名前は、GammaやX-Rayモードで照射した際に光線によって急加熱された空気がオレンジ色の筋となり、その激しい輝きが溶けた鉄の流れのように見えることからつけられた。
なお、この遺物の第二の文明における正式な名称は判明していない。
[装備品: "空洞の腕"]
セルンが使用している魔工による増加肢。何らかの要因で失われた本来の手足の機能を代替する義肢とは異なり、身体に機能を追加する目的で使用される特殊な装備である。
自らの身体に存在しない部位を魔術指令交換インターフェースによって操作することは容易ではなく、最低限動作させるだけでも数か月から1年以上の期間を要すると言われ、
生まれ持った身体部位と同レベルで扱えるようになるためにはさらに長期間を要する。
このような"増加肢"の類は人型種族以外の身体機能を拡張する技術として注目されてはいるものの、必要な訓練期間の長さや、特に飛行種族向けの場合重量も問題となるため最適な素材の選定や空力に配慮した格納装置の研究などが依然として進行中。
セルンと古くから関りのあるフェルツェの技師が特別に設計した"空洞の腕"は、極めて軽量かつ高強度な帝国製の高度材料であるナノラティス複合材からできており、腕の構造部分の重量は空気よりも軽いと言われている。
外観はある程度の距離からでは銀色の金属光沢を見ることができるが、十数メルハ以内の距離からの場合は半透明の煙がそのまま固形化したような非常に独特なものとなる。
空洞の腕は使用されない間、セルンの飛行装具の表面形状に沿うように流線型に設計された柔軟性を持つ容器に格納され、空気抵抗を低減する設計を採用。
コメント:
ナノラティス複合材はほぼすべてのダメージに対して高度な耐久性を発揮するナノマテリアルの一種で、圧縮、引張、衝撃、降伏、剪断、温度変化、腐食、放射線による電離など、通常の手段では破壊困難です。
色々と謎の多い海の向こうの超大国である帝国ですが、対外向けに小規模ながら先進技術の提供も行っており、主に個人単位の取引で入手することができます。ただし、金銭による支払いは出来ず、技術的、科学的な価値のある物品との交換が必須。
金塊のような工業用途での価値があるものなどでも可。
さらに前提条件として、これらの取引は初回に限り招待制であり、傭兵でも探検家でも科学者でも、その業務における十分な実績と信用が求められます。




