#0004 出撃に備えて: 前半 / Preparation: Upper Half
まるまる1週間かかったとかほんま……。
Mod開発を掛け持ちするといつも他が遅れてしまうお話。
あとがき長めです。
年末年始はゆっくりしたいので次は遅れます
ABSOLUTE TIME: +74996 187 04:30:00.000
RELATIVE TIME: -00000 11 07:10:00.000
はぁ……そろそろ朝かな。
外から聞こえる足音も騒がしくなってきている。
同胞たちが歩く時の爪の音と人型種族の靴での足音の両方。
いつものことであまり気にかけなかったけど、飛行装具を
つけたままなのにずいぶんと寝心地がよかったよ。不思議だね。
眠気も一切残っていないし、とても清々しい気分だ。
よし、起きようかな。
寝床から起き上がって、壁際に置いてある鏡を見ながら
体感と合わせて装備の重量バランスを整える。
細かいことだけど安定性に大きく影響することなんだ。
重さだけでなく風の受け方もね。
うん、問題はなさそう。
点けたままになっていた照明を落としてから部屋を出て、
会議室のある中層甲板へ向かう。ブリーフィングの開始は0600時。
かなり早いけど、これは航路の都合なのか
それとも時間的余裕がないのか。そこまでは聞いていなかった。
中層甲板はここからだと3階層も上だ。底部飛行甲板まで上がって、
下層甲板に上り、そこからさらに中層へ。流光には上面と底面で
二つ飛行甲板があるから、航空隊の会議室は真ん中に置かれているわけだね。
飛行甲板を通った時にはちょうどいつでも出れる状態の
飛行機械がすでにたくさん並んでいた。
なんなら、今流光が攻撃を受けたとしても
すぐに展開できるくらいの万全さだったね。
下層から階段を上って中層甲板の通路に出ると、
もうすでに大勢のクルーがそれぞれの仕事に就いているのが見える。
種族のほうも僕の同胞に、
人間とゴブリンがいるのはいつもの光景だったんだけど──
あれは……フェルツェだよね。めずらしいな。
人間とゴブリンの中間くらいの背丈をした、
全身が毛皮で覆われていて獣のような
三角形の耳が生えた二足歩行の種族。
流光くらいの船なら数個体はいるだろうとは
思ってたけどやっぱり居たんだね。
服装からすると多分魔術機械専門の技師かな?
中層甲板にはこの船の機関部があるから、そこの担当なのかもしれない。
さて、ここまで来たのはいいけど
ブリーフィングの開始まではまだ時間がある。
実際のところは部外者である僕がこの船の中を
あまり自由にうろつくのも良くないし、本当は
航空戦会議室の近くでおとなしく待つべきだとは思う。
それだと少し退屈だよね。どうしたものか。
思えば最近は時間を指定されての行動なんてほとんどなかった。
遺物探しも遺跡探索もいつどこで
何をするかは僕が自分で決めていたからね。
コロニーを離れてからはずっとそうだったんだ。
……当時は割り当ての合間に何をしていたっけ?
景色を眺めたり谷の合間を飛んだりしていたかな?
そう考えると、狭い艦内では時間つぶしの手段があまりない、か。
……同じく暇しているほかのクルーとでも話していればいいかなとも思った。
ただ、ほとんどの相手とは初対面だよね。
こっちから話しかけるのは少し難しそうに思う。
まあ、しばらくここで立っていようか。
そうしてしばらくじっとしていると、
周囲からは次第に技術クルーの数が減っていき、
逆に飛行士や飛行兵が増えてきた。
ここに残っている技術クルーはおそらくブリーフィングに出る
責任者クラスのやつらだろうね。
ヘルメット内に仕込んである時計を見てみると、今の時刻は0537時。
もうすぐ始まるし、会議室に入っておく。
部屋の中にすでに集まっているほかのクルーたちはというと、
事前に渡されていたらしい資料を見ながら暇をつぶしている様子で、
すぐ隣の仲間と作戦内容について話し合っているやつもいる。
──結局、僕はどこまで行ってもこの船とは直接の関係がないからね。
あくまで外部協力者で、
関係的には傭兵と雇用主よりもさらに緩いものだ。
ハフィルが僕に個人的に頼んでいるといった方が近いかな?
僕だって傭兵の仕事はするし、そういう時は
契約を遵守するわけだけど、正直軍の将官であるハフィルとの
付き合い方はかなりいびつなものだと思う。
彼がいろいろと特殊な地位にいることを考慮しても、
この国じゃなければ絶対に許されないというのは間違いないよ。
====
開始時刻のちょうど5分前、0555時だ。
出席者が一通りそろったこの部屋に、
体を屈め窮屈そうに扉をくぐって入ってきたのは
散々見慣れた大きなイヌワシ、ハフィルだ。
──ハフィルは僕たちワイバーンよりもずっと大きい。
それなのに、彼の同族を見たことがあるやつは誰もいない。
いろいろと謎の多いやつだよ。
最初に見たときは星追い飛行隊のアドラと同じかと思ったけど、
どうも違うみたい。
ハフィルは部屋の奥まで歩くと、
集まった皆のほうに向きなおり、しっかりと翼を畳んでから口を開いた。
「うむ、全員集まっているようだな。始めようか」
…………よく考えればやっぱり提督が自分から
飛行隊長や技術部門に作戦説明するのって変だよね?
もう彼のことだから気にしない方がいいんだろうけど。
実際そんなハフィルの言葉にも皆疑問は持たずに
黙って話を聞いている様子だった。
「急遽参加することとなったセルン、
お前以外には事前に説明済みではあるが、
今回の作戦について内容の再確認と最終調整を行う」
片足で指示棒を持ちながら話し始めるハフィル。
「まず、流光の針路だが、現在本艦は空中待機のための
旋回を終え、作戦目標である砂岩の傷跡へと
110メルハ毎秒の速度で移動中である。
砂岩の傷跡は事前の説明通り現在ドラゴンの至上主義派閥、
シジルム・エーテルヌムにより占拠されており、
これを撃滅することが本作戦の主要目標となる」
(注: 1メルハ毎秒 = 0.8m/s程度)
作戦概要を軽く説明する彼の背後に置かれた地図には、
この地域の地形と各艦上航空隊の飛行経路、
そしてそれぞれの経由点での任務種別が記されていた。
で、明らかに後から書き加えられたであろうインクの色も
筆跡も違う図では、一部隊だけが連合領北西部を
東西に隔てる巨大な亀裂へと直進している。
なるほどね。これでおおよそハフィルが僕に何をさせたいのかはわかったぞ。
彼が口に出したシジルム・エーテルヌムというのはまあ、
僕も何度か相手にしたことがあるけど……言ってしまえば
時代に置いて行かれたドラゴンたちの集まりだよ。
昔は彼らドラゴンがこの世界で最も強大な種族だった。
それは事実だよ……。
でも、彼らはその強さゆえに……弱さを克服しようとする
多くの種族に追いつかれ、追い越され、そして引き離されていったんだ。
人間やゴブリンに、フェルツェたちが作り出した
科学技術というのは、登場して間もなくそんな
彼らの誇りを傷つけて、わずか数百年で粉々にしてしまった。
エーテルヌムとして集まっているのは、
そんな時代を忘れたくない、取り戻したいと願うやつらだよ。
はぁ……で、件の場所、砂岩の傷跡はすでに連合と王国での
合同調査の準備が進められていたはずだから、
あいつらはそこを邪魔しに来たってわけか。
最初の時点でもう大体の流れはわかったけど、
当然情報は多い方がいいのでその後しばらく作戦の目標や
立案の経緯に実際の戦力配置や遂行手順を話す
ハフィルの言葉を黙って聞くことにした。
彼の話を要約すると、今回の作戦の目的は砂岩の傷跡を
占拠するシジルム・エーテルヌムの排除というよりは
戦力の漸減が目的で、同時にこの地域でのエーテルヌムの
活動を牽制する狙いもあるとか。
で、そもそもの合同調査計画というのは、まああれだよ。
砂岩の傷跡というのはたまにある外観部分が地表に露出しているけど
入口が封鎖されていて入れないタイプの遺跡がある場所で、
僕も前に行ったことがあるけど正面扉は開けられなかった。
扉は旧時代のとてつもなく丈夫な素材でできていて、
近くの町から連れてきた戦闘魔術師に一通りの
攻撃呪文を試してもらったけど駄目。
手持ちの武器も同様に通じない。
多分僕の装備と同じ素材のはずだけど、そもそもの厚みが違う感じだった。
だからこそ大規模な調査が必要ってことだと思う。
それにしても奴らも懲りないものだね……。
同族からも嫌われて、何度も光束砲で塵に変えられても
なお時代の変化を受け入れられないなんて……。
さて、知っておくべきことはこのくらいかな。
軍事作戦という都合上それぞれの部隊の
やるべきことは決められているとはいえ、
今回に関してはほとんど正面衝突みたいなもの。
正面から攻めて圧倒する。それだけだよ。
さて、ハフィルが一通りの事項を話し終えたところで、
ようやく僕の役割に関する話題だ。
「作戦概要に関しては以上だ。最後にセルン、お前の仕事を説明──」
「当ててみようか? 展開中のエーテルヌムの執行官と、
伝令を殺せばいいんでしょ」
察しはついていたのでここはあえて
ハフィルの言葉をさえぎって強気に出ることにした。
で、彼の方はというと、機嫌を悪くするどころか
満足げにこちらを見ている。
「うむ、その通りだ。セルン。
シジルム・エーテルヌムはドラゴンという種族全体から
見れば少数派閥ではあるが、それでも連中の思想を支持するものは
定期的に現れ続けている。たとえやつらの戦力を削いだとしても、
指導者や広報官のような存在を取り逃がしてしまっては
殲滅は先延ばしになるばかりだ。我々空軍は何度もそういった役職に
就く個体の暗殺を試みているが、成功例はいまだ少ない。
連中とて退路の確保もなしに戦っているわけではないからな。
だが、昨晩非常に都合のいいことにお前がこの空に現れた。
であればこれを活用しない手はないだろう」
ハフィルの話は僕だけに対してではなくほかのクルーへの
説明も兼ねているので少し長いけど、要するに空軍の部隊が
戦っている間に僕が砂岩の傷跡の奥まで突入して
暗殺を遂行して来いってことだろうね。
流光は空中戦ではほぼ無敵みたいなものだけど、
狭い場所には入れない。砂岩の傷跡はかなりの深さがあるし、
裂け目の幅もそれほど広くはないから
小回りが利きにくい飛行機械がそもそも不利な環境。
そうなると飛行兵の出番だね。
でも普通の飛行兵の装備でドラゴンを仕留めるとなると
なかなかに時間がかかるし、逃げ切られてしまう可能性も高いんだ。
あいつら、飛ぶのは下手だけど直線速度は早いから。
でも、僕には短時間で、確実に決着を付けられる装備がある。
「我々は当初の予定の通りシジルム・エーテルヌムの主戦力と
交戦しこれを排除、同時にセルンは砂岩の傷跡の深部に突入し、
不利を悟った敵指揮官が逃亡する前に抹殺する。
諸君の任務はセルンがいようがいまいが変わりないものだ。
では私からはここまでとする。質問があるものは申し出るように」
正直かなり強引に僕を戦力としてねじ込んだ感じは拭えないけど、
飛行兵や飛行士たちには特に疑問のあるやつはいないようで、
ハフィルのその言葉を最後としてブリーフィングは終わった。
僕のことが名指しで言及された関係でこっちの装備を
興味深そうに観察している飛行兵の姿もあるけど、
少なくともこの場でわざわざ文句を言うようなのはいないようだね。
はぁ……話が早いのは助かるんだ。
ただはっきり言って軍隊としてどうなのとも思う。
でもこれだけ多くの種族が混ざり合って成り立っている組織なら、
ある程度の緩さは必要なのかもね。
[主要種族: ゴブリン]
ゴブリンは非常に小柄な直立二足歩行の種族であり、基本的な身体構造は人間と同様だが体に対して頭が大きく、尖った耳と細い指先を持つのが特徴である。王国領内で暮らす彼らのほとんどは人間の都市や集落で共存しているか、昔ながらの部族社会を維持して孤立主義を貫いているかのどちらかだ。
ゴブリンの体の小ささと手先の器用さは発達した脳機能と合わさり優れた機械、工学技術の才能を構築しており、人間を主体とするアジマ王国との第一次接触以前から小規模な集落を築き、機械技術を駆使して野生生物の脅威を排除し、安定した食料生産と自動化による労働力需要の削減を実現していたことは現在では他地方でも広く知られている事実である。
現在において、ゴブリンたちはアジマ王国の多種族社会の中で重要な技術職としての地位を確立しており、王国が得意とする大規模な魔術機械の維持、保守と整備業務のほとんどは彼らゴブリンたちが担当している。
[主要種族: フェルツェ]
フェルツェはゴブリンほどではないが体格の小さな種族であり、他種族と同様に二足歩行で活動する。彼らの身体は獣と同じような毛皮で覆われており、頭部には三角形の大きな耳もある。手足に関してもそれらの特徴は共通する。近頃では彼らを"猫"と呼ぶ者も一定数おり、これはアジマ王国の現執政補佐官が発したフェルツェを形容する文句が広まったものであるとされる。しかし、この猫という単語の由来は不明。
彼らの身体は機械類の精密操作に不向きな面もあるが、それでも論理的な思考力や工学的発想力に優れるという特性から現代の科学技術の進歩への貢献は大きく、特に魔術工学分野では多種族の追随を許さない。
コメント:
猫+猫÷2 = フェルツェ(Feltze)
Felis(ラテン語) と Katze(ドイツ語) から取りました。
速度の単位に使われていた"メルハ毎秒"というのはSI単位をそのまま登場させるのはどうかと思ったので用意しました。ヤーポン法だとこの世界の技術水準にふさわしくないため却下。
1メルハ = 0.8mに相当し、定義はメルハ原器という人工物が用いられています。
制定当時の人間の平均身長の約半分だとかなんとか。
物理法則に基づいた不変な定義が望ましいとは考えられていますが、この世界ではコンピューター技術が未発達なためあまり精密な計測ができず、逆に優れた加工、製造技術によって基準となる人工物を用意して利用することが多い傾向にあります。
単位名はヘブライ語のMerhakから。




