#0002 空を舞う町: 前半 / The Sky City Adrift: Upper Half
短めですが後半と一緒にすると長いので分割。
対地戦闘指揮所を出たセルンは、
ハフィルから与えられた無制限の設備利用許可を活用すべく
底部飛行甲板へ向かう様子だ。
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Perspective: Cernn
暗殺任務ね……。わざわざ僕に直接頼むくらいだから
ほかのやつには任せられないような仕事なんだろうけど、
それってつまりとても危険ってことじゃないか。
できる限りの準備はしていかないと……。
さて、とりあえずは燃料と液化マナの補充かな。
となると格納庫だね、来た道を戻ろう。
第二艦橋構造体を登って最下層甲板まで上がる。
指揮と保安関係のクルーしか入れない艦橋部と違って
こっちのほうはとても賑やかだね。
さっき通った時も感じたけど、この流光の艦内の
雰囲気は不思議なほど落ち着くんだ。
いろんな種族が乗っているからそれに合わせて通路は
広めにとられているし、照明もまぶしかったり暗すぎたりはしない。
壁の塗装も落ち着いた色で、巨大な羽を回して
飛んでいるというのに中ではほとんど騒音もない。
半透明の構造強化ルーンが彫られた分厚い装甲窓越しに見える
外の景色も、僕みたいな空を飛ぶ種族にとってはとてもありがたい。
ここにいるクルーはみんな、兵や士官としての仕事に
しっかり取り組んでいるけど、同時にとても楽しそうにしている。
でも、逆を言えばそれくらいに過ごしやすい場所じゃないと
こんな密閉空間でずっと働くのは厳しいんだろうね。
いろいろ思うことはあるけど、気づいたらもう
格納庫行きの上り階段のすぐ目の前だった。
よし、一度思いにふけるのは中断して格納庫に出ようか。
えーと、燃料補給とかの担当は茶色のジャケットだったっけ?
駐機場のほうに行けば見つかるかな。
この流光のデッキクルーはみんな役職ごとに違う色の上着を
着ているんだけど、さすがにその色分けまではあまり覚えていない。
そういうことでひとまず駐機場の方へ行こうと格納庫の
壁際のほうを見ると、ワイバーン用の飛行装具の点検をしている
ゴブリンの整備士たちを見つけた。
補給のことはあそこで聞いてみよう。
格納庫内は安全のため飛行禁止になっているから徒歩で、
荷物の運搬や飛行機械の配置調整をしている作業用ゴーレムの邪魔を
しないように移動経路に気を付けつつ彼らのもとへ向かう。
確か緊急着艦のときとかは格納庫にまっすぐ突っ込んで降りるから
通路の真ん中は常に開けておかないといけないんだったかな?
「ん? ああ、あんたがセルンかな? 話は聞いてまっせ」
整備士たちに近づくと向こうから先に声をかけてきた。
この感じだとハフィルがしっかり話は通してあるようだし、
ストレートに補給のことを頼もう。
「うん、そうだよ。とりあえずは魔工噴進機関のマナ補充と、
燃料補給に、あとは予備の燃料缶ももらえると助かるかな」
液体燃料は最大出力時だと40秒くらいで使い切ってしまうから、
多少重くても予備は持っておきたい。
どうせタダなんだしもらっておこうね。
「へいへい、じゃあそのまま装備いじりますんで、
そこの台座の上でじっとしててもらえますかね。
多分その飛行装具、外すの大変でしょうし」
注文を入れると、どうやら整備士のゴブリンたちは
装備は外さずにこのまま作業してくれるみたいだ。
みんなの言う通りこれは外すのに専用の工具がいるから、
もう長いこと着たままでね。
「わかった。補給にはどれくらいかかるかな?
結構な量を使ったから刻印の光もだいぶ薄くなってると思うんだ」
刻印へのマナ補給はバケツに入れた液化マナを流し込めば
いいというわけじゃなくて、刻印部分にしっかり定着、
拘束されるように慎重にやらないといけない。
自分でやるときに特に感じるけどやっぱり無駄を出さずに
充填しようとすると結構時間がかかるんだよね。
「うーん、この減り具合だとまあ2分あればいけますね、たぶん」
ゴブリンの整備士の一人が小さな脚立に乗って
フライトスーツの腰部分にある魔工噴推機関の加速チューブ内を
覗き込みながら見積もりを立ててくれた。
彼らは背が低いから狭いところでも作業しやすいけど、
高い位置には手が届かないんだよね。
で、所要時間は2分か……さすがに専門職だと早い。
ほかの整備士はというと、飛行装具の尻尾部分に取り付けてある
小型の閃電放射器を見ながら故障や異常がないかを調べたり、
そもそも飛行装具自体を観察している個体もいる。
──珍しい遺物を見つけた時の僕と同じようなものを感じるね……。
この装備も遺物由来の素材で作ってもらった特別製だから、
やっぱりこの手の職の個体にとっては興味を惹かれるのかな。
「2分か。これ自分でやると結構時間がかかって困るんだよね。
やっぱり専門家がいるのはありがたいよ」
「ははは、そう言ってくれるのはこっちとしても
うれしいっすね。技術職って結構軽視されがちなんで……。
まあここのやつらはみんなうちらのことを
頼りにしてくれてますが、外から来たお客さんとなると
ちょっとばかし文句を入れてやりたくなるときもあるんですよ」
慣れた手つきで作業を進めながら話す整備士のその言葉で、
少し昔を思い出した。
僕の装備を作ってくれた個体、フェルツェ族の魔工技師のことだ。
その個体──ケーリムも、王都周辺の中枢地域では
ともかく辺境のほうまで行くと、技師や科学者は
あまりいい目では見られないって話していたのを覚えている。
こういうのも少なくなってきてるとは思うけど、
進んだ技術の製品がそこまで広まっていない地域だと
肉体労働至上主義みたいなのがまだ残っているんだって。
「よし、マナの充填のほうはこれで終わりっすね。
刻印のほうも特に摩耗とかはないし、機械部分の故障や劣化も大丈夫です」
僕が昔のことを思い出している間に整備は終わってたみたいだね。
噴進機関のほうを担当していた整備士の一個体も
使っていた小さな脚立から降りて、
それを畳んで元の置き場まで戻しに行った。
「武装のほうも問題なしです。
燃料缶は腰のラックにつけておきましたよ」
「飛行装具も特に異常はなさそうですな。
初めて見る装備ゆえ自信はないですが……これは
ご自身で点検されるものでしょうから、お任せいたします」
ほかの部分を見ていた整備士たちも異常なしと
伝えてくれているね。
頼んでおいた燃料缶も飛行装具の
汎用パイロンにしっかり取り付けられてる。
「うん、ありがとうね。助かったよ。もう動いても大丈夫かな?」
「よっと。道具類も片づけたんでこれで作業終了っす。
じゃあ、お気をつけて」
そこでおそらくチームのリーダーであろう一個体が
終了を宣言すると、片付けを終えたほかの整備士も
一緒に彼の隣に並んでこちらに軽く手を振った。
僕はそんな整備士たちに見送られながら、
尻尾がぶつからないように気を付けつつ整備区画を立ち去り、
艦内の食堂へと向かう。
……ずっと飛んでいたせいで今日はまだ何も食べていないんだ。
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[複合的技術: 魔術工学]
魔術工学 (Thaumaturgic Engineering)とは、その名の通りに工学技術に魔術的アプローチを統合した発展的な機械技術の総称である。
この魔術工学技術によって動作する装置類は魔術機械(Thaumaturgic Machinery)と呼ばれ、技術そのものや機械のカテゴリーの総称として一般では魔工 (Thaumamech)とも呼ばれる。
本技術によって実現される機械類の種類は多岐にわたり、魔術的指令によって強度を増減させる磁気の反発を利用した単純なピストンから欠損した身体部位を代替する義肢類、建設用のクレーンやトンネル掘削装置、さらには吸気を熱操作や運動操作で加速して排出することで推進力を得る魔工噴進機関とそれを組み込んだ飛行機械、果ては規則的に配列された光の格子によって飛来する物体を阻止する防壁発生装置まで、魔術工学はアジマ王国を中心にほとんどの地域で広く活用されている。王国と北部の砂漠地帯で国境を接するバーゼル都市国家連合でも用いられているが、連合の場合工学技術の比重が大きく、魔術部分はより補助的な導入にとどまっており、元より優れた機械技術を持つ連合の技術体系に合わせて最適化された形であると言えるだろう。また、機械人形の設計も両国で異なり、王国は遠隔操作式の無人作業機械や兵器として、連合は直接人が乗り込んで操作できるよう入力機器を機体に搭載した有人型設計を用いる。前者は操縦者を直接危険にさらすことはないものの操作可能な範囲に限界があり、距離が遠い場合制御信号の中継が必要になり、一方で後者では直接搭乗しての操縦のため操縦者は負傷や死亡のリスクにさらされるが、制御信号の遮断を気にすることなく活動でき、中継映像越しではなく目視での操縦が可能なことからより高度で精密な動作を行うのに適するという利点を持つ。
コメント:
技術解説長いですね、はい。
元々メインで扱っている話の息抜きで別の世界での話を作ろうとしたんですが、設定を凝りすぎて単体で作ることになってしまったものなのでそんなもんです。




