#000D 偽りの青空と鉄の都: その4 / False Skies and Iron City: Part 4
X4のバージョン9.0ベータが来てしまった……これは忙しくなりますな。
再び階段を上って、アークタワーの発着場へ戻ってきた。
頑丈な金属の扉を開いて外へ出ると、
目の前に広がるのは青空の下に広がる夜の街。
空はあんなにも明るいのに、不思議なほど町は薄暗いんだ。
何度見ても奇妙な光景だよね。
発着場の縁まで歩いてはるか下方の様子を見下ろしてみる。
王国領にも高い建物はあるけど、ここまで高層建築が密集しているのは
連合のアーコロジー特有かな。
この、石と鉄の林には何とも言えない美しさがあって、
僕はこれが気に入ってるんだ。風が吹かないのは少し寂しさがある、
でもその静けさが落ち着くのかもしれない。
第二の文明の時代の街並みというのは一体どんなものだったんだろう。
今の時代に残っているものはほとんどが残骸で、当時を知るすべは少ない。
カリアに頼まれた記録媒体の件だけど、
もしそういった当時の様子が記録されていたなら、見てみたいものだね。
さて、感傷に浸るのもこれくらいにして、何か食べに行こう。
この辺りで暮らす人型以外の種族は少ないから僕たちが利用できる
店というのもまた限られるにしても、何件かは知っている。
行き先を大まかに頭に思い浮かべたら、
発着場の足場から身体を投げ出してこの静かな空へ。
風のないこの町の空気は、淀んでいるようで同時にとても柔らかいね。
荒々しさがなくて、よく整えられた寝床へ倒れこんだ時のような、
不思議な心地よさを感じた。
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高層建築が密集する中心街を離れ、外壁にほど近い一般の居住区まで飛んできた。
この辺りの建物は高くても5階建て程度で視界を遮るものはまばらだね。
たしかあの店は町の東門の近くだから……あれだ。
軽く翼を傾けて旋回しつつ門の方へ視線をやると、
門から続く道路沿いの商店街の中に目当ての料理屋が見えた。
あそこはフェルツェの生物学者が経営していてね、
研究のついででいろんな種族の体に合った料理を出しているんだ。
どの種族でも共通で食べられるものを探したり、
もしくはそういう食べ物を作ること、そして体の側を
食べ物に適応させる……だとか、彼は今どきの種族間で違いのある
食事事情をなんとかしたいって言っていたかな。
正直ちょっと変な奴だけど、でも研究は立派なことだと思うよ。
目的地へ向けて高度を落としつつ門前の道路へと近づいて、
誰かにぶつかったりしないよう翼を狭めつつ風を操って速度を落として着地だ。
交通量が多い場所だと降りるのも一苦労だよ。
自動車──自走機械が走れるだけの広さがある大きな道だけど、
生身の生き物が通れる部分は少ないからね。
この町でワイバーンが飛んでいるのは珍しいからか
少し驚いているものもいる。
でも少しすればみんなそんなことは気にも留めなくなる。
気を取り直して、ここは町の東門のすぐ前。周囲を軽く見てみると、
今日はどうも軍用車両の出入りが多いみたいだ。
それと発掘された遺物を運ぶ車両もいくつか。
ここ最近の周囲の動向からしても特に違和感はないけど、
でもこの町でこんなにたくさんの輸送車や
作業用ゴーレムが出入りしているのを見たのは初めてかな。
それで、町の門に近い場所というのは基本的に旅行者向けの施設が
集まっていることが多いもので、目当ての店はちょうどその中にある。
雑貨屋と薬屋の間に挟まっている、妙に大きな扉が付いた建物がそうだね。
どの種族でも無理なく出入りできるようにあんな大きな扉にしてあるんだって。
大きさの割にとても軽いその扉を開けて中に入ると、
もともと3階建てだったところを天井の高い1階建てに改装して
座席と調理場を置いた簡素な空間に出た。
今いる客はというと、ほとんどは人型種族だね。
でも今回はほかにも小柄なドラゴンが1匹と、砂のような体色の同胞が一羽居た。
店内で椅子が置いてあるのは人型種族向け、
やわらかい布製の敷物の上に低い台座が並んでいるのが飛行種族向け、
椅子がなくて低めの机だけのものがスピニア向けだったかな。
「おう、セルンじゃねーの。ひさしぶり」
店の中の様子を見ていたら、こちらに気が付いた店主のカーサーが
声をかけてきた。確かに会うのは久しぶりか。
「確かに、しばらく会ってなかったね、カーサー。
まあ、とりあえず僕の身体に合うメニューを頼むよ」
「へいへい、まかせな」
なんとも軽い口調で、それでいてどことなく落ち着いた表情で
僕の注文を受け取った彼は、そのまま特に何も言うことなく
慣れた手つきで奥の保管庫から食材を持ってきて調理を始めた。
何というか彼は言葉遣いはこうだけど、
実際にはあまり感情の起伏がないというか、
根は完全に科学者気質というか……独特なんだよね。
──いや、科学者といっても自分の研究のことだと
熱くなりがちな個体は多いよ。でも……なんだろう。
まあいちいち気にしても仕方ないね。料理ができるまで素直に待っていようか。
この店で出されている料理はどれも奇妙なものばかりで、
初めて来た客は困惑することも多いって前にカーサーが話してたな。
どう見ても生肉だけどしっかり火が通っている?
というよりは病気のもとになる細菌や微生物が取り除かれているものとか、
本来肉しか食べられない僕たちでも問題がない変な野菜とか……。
これは外見を似せてるだけで実際はいろいろな食材から抽出した
栄養剤か何かを練りこんでるんだったかな? 興味深いものなのは確かだよ。
でも、本物じゃないにしても普段、本来なら食べられないものに
触れられるのは実際面白いんだよね。それ目当ての常連客もいるみたいだし。
店の売り上げが彼の研究の役に立つならなおさらいいことだ。
前に来た時のことを思い返しながら待っていると、数分で料理が運ばれてきた。
料理……え、料理? カーサーが何食わぬ顔で僕の目の前の台座に置いたのは、
オレンジ色の直方体が乗せられた皿だった。
妙なものが多い店なのは承知の上だけど、これは見た目が完全にレンガだよ。
軍艦の中で出される飛行兵向けの食事もまあブロック状の肉だけど、
さすがにここまで堅そうな見た目はしていない。
「えーと、レンガ? まあ君のことだから普通に食べられるんだろうけど、
なかなかに独創的だね」
「へへへへ、味は保証するぞ。あと栄養もなぁ。まあ楽しんでくれー」
思わず彼の方を振り返って率直な感想を口にした僕に、彼は相変わらずの表情で返す。
「ちなみにこれ何で出来てるの?」
「気になるか? これはな、帝国製の栄養ペーストを参考に作った
粉末栄養剤を固めたものだ。あと合成調味料と一緒に。んじゃ」
小声でさりげなく聞いてみたけどなるほど、栄養剤の塊なんだね。
調理場へ戻っていく彼を横目に見送りつつ、試してみようか。
ふむ、見た目はレンガだけどそこまで堅くはなさそう。
翼の爪で軽く突いてみると簡単に穴が開いた。ということは柔らかいのか……。
まあつつき回していても仕方ないし、まずは食べてみよう。
ヘルメットを外して、不思議なくらいに無臭な
直方体状のそれを機械の手で掴み、半分ほどを咥えて引っ張る。
……見た目の印象と正反対に簡単にちぎることができた。
いや、柔らかいねこれ。
そして、口に入れるとなんというか複雑な味がした。
色々なものが混ざり合っているけど不思議と調和がとれた味だった。
うん、感想を述べるのが難しい料理だ。
でも、飲み込んだらすぐに満足感が得られるし、彼の作る食品はいろいろと
可能性を感じるよ。
さて、残りの半分に口を付ける前に周りの客の様子を
少しのぞいてみたところだと、どう見ても生の肉を食べているフェルツェに、
硬そうな野菜をかじっている砂色の身体をした同胞が。
あと、あの小さなドラゴンはなにやらピンクに光る液体を飲んでいる。
いやフェルツェはそもそも生肉を食べても大丈夫だけどね。
やっぱり気になるのはあの光る液体だよ。
よし、他の客をそんなに見つめるのも迷惑になるし、このくらいにしておこうね。
レンガの残り半分を口に放り込んだら、またヘルメットをかぶり直してカーサーの元へ。
果たしていくらになるかな?
「君の店の料理は相変わらずだね、安心したよ。お代の方はいくらかな?」
「銀1と銅15、もーしーくーは、2300クレジットだ。おまかせのメニューだとほぼ最安だぞ。それと、わざわざうちに立ち寄ってくれてどうもな、と」
「まあ、君の研究は面白いからね。ほら、2300クレジット」
壁にかけられたメニューにある通りカーサーに任せる場合の
価格は銀1から銀2と銅50で、今回は安い方だった。
王国側で使われている銅、銀、金貨は重いから単価の高い金貨を
数枚しか持っていないけど、こっちのクレジットは軽いから今日の支払いはこれで。
「2000と、300クレジット、うむ。じゃあ、気を付けてな」
小さな板状の貨幣を渡すと、カーサーはカードの束を
広げるかのようにして数えて納得の表情を見せた。
「ありがとう。君の研究も上手くいくといいね、それじゃあ」
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食事は済ませたから、次は消耗品の補充かな。
通りへ出た後、すぐ隣の雑貨屋へ入る。
中には外から来た旅行者と、この町に住んでいるらしき客が数個体。
商品が並ぶ棚を見てみると、
研究アーコロジーというだけあって割と探索向けの道具類も充実しているね。
さて、必要なものだけど──カリアからもらった初期調査報告書を
取り出して軽く目を通して見る限りでは発煙筒とロープ、
あとはワイバーンの足でも掴めるサイズの金具が欲しいかな?
唯一の入り口である地面に空いた穴が小さい以上、
飛行姿勢のまま出入りするというのは難しいだろうからね。
正直周囲を封鎖して崩してしまった方が掘り起こす手間はあっても確実で
安全だとは思う。いつ崩落するかわからないよりは
先手を打ってしまった方がいいよ。
で、ロープと金具だけど……ロープの方はこれがいいかな?
とても細いけど丈夫な素材でできているようで、荷物の重さを抑えられる。
書かれている説明を見ても耐荷重は最大250ヴァーリだから十分だね。
すぐ近くの別の棚には壁面に打ち込んで簡易な足場を作るための杭だとか、
ロープをかけるフックや固定具が並んでいる。ほとんどは人型種族用だけど、
ありがたいことに僕の身体に合うサイズのものもあった。
多分本来の用途は違うんだろうけど、構造的には問題なさそうだね。
あとは設置型の照明や発光塗料があるといいけど、これらは持ち物を見たところ
既に持っていた。ただ、現地で消費するだろうし
それを前提にして今のうちに買っておこう。
支払いを済ませ、道具類を背中側の装備ポッドにしまって外へ。
店を出たら、とりあえずは歩いて町の東門へと向かう。
こう、僕たちワイバーンは歩いているとたまに変な目で見られるんだよね。
王国領の、特に中枢地域だとほとんどの奴は僕たちの性質を
知っているから気にしないけどこういうところではやっぱり
空を飛んでいる印象が強いのかみんな意外な目で見るんだ。
この辺りは地域ごとの違いがはっきり出ると思う。
それから特に気にもせずしばらく歩くと東門の税関へたどり着いた。
入ってきたときと同じように検査を受けて、特に何も問題なく出口側の隔壁へ。
上の税関と違って出入りが多いからか職員たちは違う意味でくたびれていたのは
少し面白かったね。
さて、ここを出ればようやく街の外。中はとても快適な完全都市だけど、
一歩踏み出せばそこは砂漠と荒野が広がる土地だ。
これから向かうのは間違いなく危険な場所で、こんな至って平和な場所から
飛び立つときは少し覚悟が要る。しっかり気持ちを落ち着けて、覚悟を決めてから
出発しよう。
隔壁へゆっくり歩いて近づくと、門の制御室からの操作で重厚な金属の壁が
上へ持ち上がり、その向こうからは砂漠の熱気と白くて眩しい光が流れ込んでくる。
少しの間の滞在でこれなんだ。ずっと町で暮らしている個体が初めて外へ出るとき、
それは一体どんなものなんだろう。
僕にはわからないけど、町の外へと踏み出して、空の様子を窺って、
魔工エンジンを始動したらあとは地面を蹴って羽ばたくだけ。
ようやく当初の目的へ戻れるね。
[主要種族: スピニア]
スピニアは8本の脚を持つ虫のような姿をした種族であり、極めて丈夫な糸を作り出す能力を持つことが知られている。おもな居住地は王国領の森林であり他の地域では確認されていない。
発声器官の構造上会話自体はできるものの声の質や発音に難があることが多く、彼らと会話する際は配慮が必要となる。
8本の脚を持つが故か、スピニアは複雑な関節構造のある魔工機械類の操作に長けており、また高所や複雑な地形での作業など、彼らの本来の生活様式と合致するような場面において、王国内では広く活躍しており、特に中枢地域においては人型種族から見て最も身近な非人型の種族となっている。
[通貨: 金銀銅貨]
王国領内で流通している通貨で、その名の通り金、銀、銅で作られた小さな円盤状の物体。
近年ではこれらの素材の工業用途での需要が増しており次世代の通貨の開発、導入が課題となっているが、現在のところはこれが王国が発行する正式な通貨である。重量があるため飛行種族からの評判はあまり良くないという。
表記: 金、銀、銅 / G, S, C
[通貨: 連合統一クレジット]
連合領内のすべての都市国家で使用可能な統一通貨。
アルミニウムと呼ばれる軽量な金属で作られた小さな板状の物体である。
王国で使用されている金、銀、銅貨とは異なり、極めて精密に加工された板に金額を示す文字とパターンが刻まれており、最も金額の小さいもので1クレジット、最も大きいものでは1,000,000クレジットとなる。金額の大きいものほど偽造対策も入念なものとなっており、100万クレジットのものは複数の金属を組み合わせ、さらに細かな構造や意匠に至るまで工夫が凝らされた先進技術の結晶ともいえるもの。
表記: クレジット / Cr. / UC (Union Credits)
[装備品: 装備格納ポッド]
飛行種族向けに設計された、身体や飛行装具の表面に密着する形で身に着けられる流線型の収納容器。空気抵抗を抑えつつ道具類を収納でき、種類によっては回転式の装備接続部を持つ。
この回転機構は魔術指令によって操作可能であり、どの番号の接続部に取り付けたかを覚えていれば番号を指定することで最も取り出しやすい位置へ移動させることが可能。
コメント:
銅貨1枚で20円、銀貨1枚で2000円、金貨1枚で20万円くらいの価値だと思ってくれれば。
下位の硬貨100枚で上位の硬貨1枚分になります。
金の比重は19.3ととても重いですが、それでも持ち歩く枚数自体を減らせるので
セルンは金貨数枚に圧縮して持ち歩いています。
2026年現在の金の相場を考えれば少し安いかもしれないですね。
ただ、有限な鉱物資源である以上価値が上がり続けるのはどうしようもないんですが。
グラム当たりの価値で言うとカリホルニウムとかいう元素がまあ割とおかしな値段をしてたりします。
連合クレジットの方は大きさ的には通常のSDカードくらい。
装備格納ポッドはまあ、あれです。
爆撃機の回転式爆弾ラックです。大きな背嚢などを背負うと空気抵抗がかなりのものになるので飛行種族はこういった空力に配慮した設計の装備を好みます。
よく考えてみれば、箱形の物体やらを背負って飛ぶのはエアブレーキを展開したまま飛ぶのと変わらないですからね。セルンの機械の腕には当然感覚は通っていないので番号指定で確実に目当ての装備を取り出せるのはかなりの利点になります。
装備の選択方法は番号指定以外にもありますが、装備ポッド側が認識できるものじゃないとこちらでは指定できません。
例:
EquipmentStation.SelectWithIndex(1)
EquipmentStation.SelectWithName("FireWasp", 1)
上の例では1番に取り付けられた装備を前面へ、下の例では"火蜂" の内1番目に見つかったものを前面へ移動させます。(二つ目の引数はほかにも"First"や"Last"などで指定も可能、引数省略時は自動的に1番目を指定)
火蜂はまだ登場していませんが、多分そのうち出ます。
なお、魔術指令は都合上このように表記していますが実際にはアセンブリー言語のような形式になっています。
MOV DWORD PTR [0000000F09C332D1H], EAX みたいなね。
刻印魔法の説明にあった256種類のルーンが意味するのがこれということです。




