#000C 偽りの青空と鉄の都: その3 / False Skies and Iron City: Part 3
短めですね。アーコロジー内でのシーンはあと1話分あると思うので、探索を始めるのは次の次になるかと思います。探検家が危険な職業であることが描かれるのもそこから。遺物由来の装備が無ければ話にならないほどの環境ゆえセルンのように個人で強力な遺物を携行することが認められているわけです。
「これは……この近くで見つかったものということでいいのかな?
それにしてもかなりの数だね」
この地域で見られる遺構は基本的に本体部分が地下深くにあって、
表層に露出しているのは単なる出入口。実際に内部を探索できるような
場所は限られるんだけど、これだけ集まっているということは
どこかで誰かが当たりを引いたということなのかな。
「そう、大半はね。私たちが見つけたものもあれば、
野良の探検家が持ち込んだものもあって、出どころは……あー、あそこ」
そういいながらカリアは後ろにある地図のある点を指差した。
「えっと、北の山岳の岩肌から露出していた構造物があってね、
砂岩の傷跡を見に来た探検家の一団が偶然見つけて
そこから持って帰ってきたものだね」
そして、それを補足するようにクウェイスが説明してくれた。
場所を見る限り、僕が流光を飛び立ってから
ここに来るまでのルートからそう遠くはない?
これは新装備の性能にうかれて気付かなかったかな。
ただ、地図の等高線を見る限り印がつけられているのはちょうど
北側からでは陰になる場所だね。南から北へ飛んでいたのなら気付いていたかも。
まあ、先客がいたわけだから持ち帰れるサイズの遺物は回収済みだろうけど。
「で、あなたに探してほしいものというのはこれ」
そう言ってカリアが机の上に置いたものは、長方形のカード状のものだった。
これは何度か見たことがある。
「なるほどね、予想通りだ。記憶媒体だよね、これ。
僕も何度か見たことがあるし、いくつか回収したこともあるよ」
「なら話は早そうね。さて、記憶媒体なんだから当然中にはいろいろな情報が入ってる。でもこれが作られた当時の規格に対応する読み取り装置がないと中身を見ることはできない」
──少しばかりのにやけ顔で話す彼女の言葉でいろいろ察した。
「そうだね。読み取れる装置はいくつか見つかっているにせよ、数が限られるから貸し出してもらうにも手間がかかる。でもまあ君のその顔を見るに、読み取り装置がここにあるっていうことだよね?」
「あら、察しがいいじゃない。そう、今この部屋にはおいていないけど、
下の方の研究室で今まで見つかった記憶媒体の閲覧に使われてるわよ」
「下の連中が満足したら、うちらに順番が回ってくるってわけだね。
早く終わらせてくれないかなぁ、ものすごい量の情報が入ってるから仕方ないんだろうけど」
僕に事情を話す彼女の話に便乗するように、
地図の前から机のそばまで来ていたクウェイスが少しの不満を漏らした。
確かにああいうものの中身を見れる機会というのは
滅多にないことだし、自分たちの研究に必要という事情を
差し置いても魅力的なのは確かだね。
とにかく、依頼内容としてはこういう情報が収められた
あれこれを回収してきてほしいって話だ。
「……さっきから騒がしいな、何かあったのか? うぅ……」
僕たちが話をしているところ、突然部屋の隅から声が聞こえた。
壁際で寝ていたグリフォンが起きたみたいだ。
飛行種族だし運搬や観測の仕事で疲れていたのかな?
「ああ、ごめんアシャー。昨日話してたセルンが返ってきたみたいで、
ついでだから仕事の話をしていたところだよ」
「セルン……ああ、あいつか。話はよく耳にするが、
合うのは初めてか? まあ、よろしく」
眠そうにしているグリフォン、アシャーに
クウェイスが事情を説明すると、僕の名前を聞いて一瞬考えこんだ後
アシャーはこちらに挨拶をした。
今にもまた寝てしまいそうなくらいの疲れ顔だね。
グリフォンは僕たちと同じようにあまりはっきりした
表情は持たないけど、なんとなくわかる。
ふむ、見た感じ彼はツィル家の出身かな?
少しだけ茶色がかった黒と白の毛並みに、
鋭い歯のような突起がある嘴、あとはあの鼻。
「うん、よろしく、アシャー。いきなり聞くようでなんだけど、
君はツィル家の出かな? 領地から遠いし、珍しいね」
「分かるのか? そうだ。正直なんでここに来たのかは覚えてないが…………いかんな、まだ眠い。もう一度寝るからできれば声を落として続きを話してくれると助かる。はぁ」
アシャーは話の内容よりも眠気が勝るようで、
もう少し話そうとしていた様子はあったけれど
すぐにまた寝てしまった。お疲れのようだね。
ここにいるみんなはそろって大変そうだ。
「あら、また寝るのね。まあ無理もないくらい働いてくれたし、
そっとしておきましょうか」
「正直、重い物ばかり運ばせることになったし申し訳ないよ。
で、話の続きだけど」
アシャーの疲れ具合には二人とも納得のようで、
カリアもクウェイスもまた床に伏せてぐったりと眠りにつく彼を
気遣うように少し声を小さくして話を本題に戻した。
どこまで話したんだっけ? 記憶媒体を回収してほしいって内容
について触れたあたりだったかな?
「記憶媒体が必要なんだよね? さっきの話の限りでは。
記憶媒体と言ってもいくつか種類があるけど、
具体的にはどれを拾ってくればいいか、どういう場所で
使われているものを拾えばいいかで"割に合う"報酬は変わってくるよね。
さっき見せてくれたものと同種ならまあ回収自体に支障はないかな」
僕も声を落として緩やかに続きを話す。
「そうね、問題はどこから拾ってくるか。基本的にこれについては
不問だけど、可能なら資料室や倉庫の目録と、地図みたいな
今後の調査の足掛かりになるものがあれば最善ね」
「あまり言いたくないけどあの穴の下はかなりの難所だよ、間違いなく。
内部の損壊が激しいから崩落の危険も大きいし、
せっかく中に入れても肝心の深部が塞がってるという可能性もある」
カリアの言葉にクウェイスは顔をしかめて懸念事項を口走る。
「ああ、記録媒体の形式自体はこれと同じ奴でいいわよ。
できればもう一つ大きいサイズの、えー、これ。
これも拾って来てくれるとありがたいけど」
そして、言い忘れたように彼の話に続いて話すカリアが、
積み上げられた遺物やそのレプリカの山から取り出したのは
軍用携行食の袋くらいの大きさがある箱形の物体だった。
その箱の側面には記録の読み書きをするための装置に繋ぐための
ソケットがいくつもあって、彼女が最初に見せてくれた
カード状のものよりも二回りは大きい。
「……これだとあまりたくさんは持ち帰れないね。
まあ"ありがたい"というからには任意か努力目標くらいと見ていいんだろうけど」
「ええ、だから安全に持ち帰れる範囲で回収してくれれば大丈夫。
報酬に関しても上が何とかしてくれるはずよ」
上が何とかしてくれる、ね。うん。
条件に特に不満はないし、この辺りで依頼内容を確定しておこうかな。
「じゃあ決まりだね。契約成立だ。
僕は穴に潜って自由に探索しつつ記憶媒体を探す。それだけ」
「ありがとう。頼んだわよ。……あ、それとこれ、
クウェイスが書いた内部の初期調査報告の写し。
中がどうなってるかとか、周囲の地形の不安定度とか、
近づく前に見ておいた方がいい情報が書いてあるから、
ちゃんと読んどいて」
「セルンがこういうの読まずに突っ走るとは思えないけど、一応ね」
一通りの交渉と打ち合わせを終えて、満足したように一度背筋を伸ばし
仕切りなおしたカリアは、机の脇に置かれていた
紙切れを拾い上げて僕に渡した。
初期調査の報告ならかなり重要なものだし、
二人の言う通り現地に降りる前に読んでおくべきだね。
「うん。もちろん読ませてもらうよ。さて、
僕は町で支度を済ませたら出発するから、
また明日か、数日後にね。じゃあ」
こんなことをいう自分自身にあきれたようにして肩をすくめ、
首を傾げつつ念を押すクウェイスと、期待の表情でこちらを
見送るカリアの二人にひとまずの別れを言い、
僕は遠征調査班の宿舎を後にする。
地面に空いた穴からつながる地下施設ということで
深部まで時間をかけずに到達できる可能性については
話を聞いた時から期待していたけど、果たしてどうなるかな。
一応、手持ちの地図にさっき見た位置を書き込んでから
町で装備や消耗品を見て回って、食事を済ませたら出発。これでいこう。
コメント:
グリフォンには5つの有力な家系があり、そのうちツィルは連合領から最も離れた場所に領地を持ちます。ツィル家の血を引く個体はみな前半身がワシではなくハヤブサのような姿をしており、全体的に小柄で、同時に最も高速飛行に適しています。他の家系と遺伝子的に異なる部分が多いため種の起源自体が離れた場所にあると考えられています。




