#0009 技術的優位 / Technological Advantage
Mod開発の方ももうそろそろ一区切りがつくので先に向こうを終わらせたい……。
今回の仕事の報酬を受け取るために上部飛行甲板に戻ると、
着艦した時には大勢集まっていた航空隊のみんなもすでに解散して、
代わりに大勢の整備クルーが飛行機械に飛行兵が扱う装備類、
そして格納庫や艦の設備自体に目を通していた。
彼らのおかげで流光は飛んでいられるし、
飛行士も飛行兵も安心して出撃できるんだ。
…………昔、ドラゴンたちはテクノロジーによって自種族の
価値や立場が脅かされるのではないかと危惧した。
それで生まれたのがシジルム・エーテルヌムのはず。
エーテルヌムはたぶん、必要とされなくなった、優位に立てなくなった
自分たちが排除される運命にあると、そう考えたんだろうね。
でも実際は違った。技術の進歩は逆にそれぞれの種族の
可能性を引き出して、新しい活躍の場と、形をもたらした。
飛行機械と僕たちワイバーンが並んで空を飛ぶこの
王国空軍の今を見れば、簡単にわかることだよね。
実際、国内で重要な地位や役職についているドラゴンは多いし、
みんなその力を必要としているんだ。
どうにかして……やめられないものかな……。
はぁ、だめだね。エーテルヌムとかかわると暗いことばかり
考えてしまう。報酬を受け取って、当初の目的に戻ろう。
えぇと、確かハフィルは物資担当官に
会えって言っていたね。ああ、あそこか。
少し周囲を見回すと、格納庫の一番奥に
"Commodity Office"の標識を見つけた。
あの個体がそうかな? ほかのデッキクルーとは全く違う、
通常の作業服を着た人間だね。
「おお、セルンさん、提督から話は聞いてますよ。さて、
件の報酬というのはこちらだそうで」
僕がそばまで行くと、彼はいくつもの予備、
交換部品が並べられた棚とはまた別の、金属製の丈夫そうな箱から
あるものを取り出し、重たそうにカウンターに降ろす。
見覚えのある、というよりは僕が今身に着けているものと
同系統の装備品──それは最新モデルの魔工噴進機関だった。
しかも、加速筒の中を覗き込んでみると、白い刻印が6つ、
オレンジの刻印が2つあるから間違いなく0602配置、そして4発型だ。
そして目を引くのはやっぱり吸気口のスパイクだね。
これは高速飛行時の吸気を安定化させるためのもので、
飛行兵の装備にあるノーズコーンと基本的には同じ機能なんだけど、
これはさらに高速域での性能を求めたものなんだ。
確か技術者たちはショックコーンとか言ってたかな?
そのスパイクもメンテナンスのために取り外し可能になっているし、
レール上の構造に沿ってスライドできそうな形をしている。
多分、速度域に応じて動くね、これは。
確かまだ試作品で、星追い飛行隊が試験を続けていたはずだけど
……まさかハフィル、権限に物を言わせて拝借してきたの?
「えぇ、これ、まだ試作品じゃなかった? いくら外部協力者とはいえ、
そんな簡単に渡していいものなの?」
これがもらえるというのは確かにありがたいんだけど、
さすがにいろいろ問題がありそうで正直困るよ。
「その件に関してはご心配なく。えぇと、
提督の影響力は相当なものですからね」
物資担当官の彼も心配ないとは言っているけど……
これはハフィルにあきれているね、ははは。
まあ、いいっていうなら受け取っておこうか。今の装備と交換だ。
「ふむふむ、まあ、ハフィルのことだしね……。
ありがとう、もらっておくよ」
そう言って僕は今着けている魔工エンジンを外し、一度床に降ろす。
今こうやっているとわかるけど、やっぱり結構重たいんだよね。
外した瞬間身体が一気に軽くなったよ。
で、古い方をどうするかなんだけど……。
「ああ、そうだ、古い方の装備はそっちで引き取ってもらえたり
するのかな? 多分流光では使っていないモデルだから
予備部品にもならないと思うけど、さすがに一緒に持って帰るのは無理だよ」
「もちろん。まあ安全面やらもろもろの理由でうちでは
再利用はできないですが、たぶんワイバーンの傭兵や探検家向けに
競売にかけられるんじゃないかと思います。もしくは単に中古品市場に流すか」
物資担当官に聞いてみたところ、向こうで回収してくれるらしい。助かるね。
「うん、じゃあ頼んだよ。さて、僕はもう行こうかな。
この船の安全な帰途を願いながら」
久しぶりに新しい魔工エンジンを腰に巻き、しっかりベルトを締めて、
さらにハードポイントのクランプで固定する。
機械の腕のおかげで僕はそれほど苦労しないけど、
ほかの同胞たちだとなかなか大変らしい。
ワイバーンの翼は長さや形状のバランス、可動範囲の面で人間やほかの
人型種族の腕とは違うから、指の本数が3本しかないのもあってどうしてもね。
──装着を終えて、魔術指令インターフェースにつないでみると、
スロットルが今までの40-120%じゃなくて、
30-140%に変わってることにすぐ気づいた。
最小スロットルがさらに低くなっているってことは、
低速域でもなかなか使いやすそう。いいね。
よし、さっそく試しつつ、一度ロカウルに戻ろうかな。
それに、マニュアルも読んでおかないと。
これで用は済んだから、備品庫を出てあとは燃料缶をもらったら出発だね。
そのまま新しい装備の着け心地、
重量バランスを確認しながら格納庫を歩いて整備場へ。
前と同じように燃料缶用のラックに限界まで積んでもらったら、
船体側面の飛行兵用カタパルトに足をかけて発進に備える。
着艦は後部のランプからだけど、発艦は側面からなんだ。
同じ個所から出入りすると動線の関係で衝突が起こりやすいし、
側面にカタパルトを並べたほうが
より多くの飛行機械と飛行兵を同時に打ち出せるから。
さて、新装備で空に飛び出す覚悟を決めて、あとは打ち出してもらうだけ。
カタパルトの制御盤の前にいるクルーに準備完了の合図を送り姿勢を整えると、
何度やっても慣れない強い加速を受けて僕の体は空に飛び出す。
直進する流光を取り巻く気流を横から突き破り、再び大空へ。
装備を変えただけなのに、とても新鮮な気持ちだ。
でも、それくらいの性能差があるということを知っているから……。
少し下を見てみたけれど、高度は問題なさそう。
よし、行ってみようか。
滑空状態から素早く翼を畳み、はるか下方の砂地へ勢いよく降下する。
軽くマニュアルに目を通しておいた限りでは、
巡行時の推奨スロットルは50%だったかな。
さて、どれだけの速度が出るか……。
魔術指令インターフェースを介してエンジンのスロットルを上げ、
推奨値の通りの50%に合わせる。
そうすると、明らかに前の装備とは比べ物にならない勢いで加速し始めた。
6段階もある吸気加速ルーンのおかげでパワーは申し分ない!
そこから重力と推進力を重ね合わせて全力で降下を続け、
地面が近づくのにつれて翼をゆっくり広げ、
そして頭を上げて地面を擦るような水平飛行に移る。
ヘルメットの速度計を見てみると
これだけでも250メルハ毎秒 も出ているんだから驚きだよ。
(注: 約200m/s または 720km/h)
一瞬後ろを振り返ってみればあれだけ大きかった流光もすでに遠くにある。
──ハフィルには感謝しないとね、これは。
ところで、あまり砂地で低空飛行を続けていても砂を吸って
寿命を縮める原因になるし、一旦高度を上げようか。
仕事を終えていつもの気ままな旅に戻ったわけだけど、
そもそも僕にはやりたかったことがある。
そう、例の荒野に空いた穴のこと。
昨日は結局見つけられなかったから、
ロカウルに戻ってもう一度詳しく話を聞かないと。
性能試験をしながらね。
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さて、今は流光を飛び立ってから一時間ほど南へ
進んだところだけど、とても気分がいい。
艦内で結構な時間を過ごした関係でロカウルまでは遠いはずなのに、
もうあと1時間もしないうちに到着できそうな勢いだ。
これだけ高いところを飛んでいるというのに、
今までに見たことがないほどの速度で景色が流れていく。
それどころか、高高度でも、高速域でもほとんど出力が落ちない。
さすがは最新装備……なのかな。
でも、これだけの出力があると全く使い勝手も違うから、
試験や評価が必要なのは間違いないと、確かに僕でもそう感じるよ。
ついでに言うと速度が上がれば上がるほど呼吸が難しくなるし、
強い気流にさらされることになるから──そうだね、
飛行兵の標準装備の更新も必要かも。
僕はこの全身防御の飛行装具があるからいいんだけど、他はそうはいかない。
……待って、これじゃあまるで僕が性能評価をしているみたいじゃないか。
ハフィル、もしかしてそのためにくれたの? うーん、
まあいいや。ありがたいのは確かだ。
あれこれ考えながら荒野の上空を飛んでさらに30分。
周囲の環境は不毛の土地から徐々にサバンナへと変わってきた。
この辺りからおそらく連合領だね。国境線に壁が建てられている
わけでもないしはっきりとは分からないけど。
もうここからなら高度を上げればロカウルも見えそうだね、
少し上がってみよう。
スロットルを上げて鼻先を上に向け、雲の上を目指して上昇する。
上昇することは空を飛ぶ上で最も多くのエネルギーを必要とする機動。
でも、この装備の性能ならそれも大して
気にならないほどに力強く昇ることができた。
……これでまだスロットル100%なんだよ? 140%にすればさらに早く飛べる。
それだけじゃなくて、燃料を消費すればもっと推進力を伸ばせる。
いやぁ、すごいね。
僕が性能に感動しているその30秒もない間に、
乾燥地帯に点々と浮かぶ雲たちははるか下だ。
気を取り直してここから南東の方を見てみると、
砂をかぶった台地の向こうにちょうどロカウルが見えた。
都市を覆う金属製の天蓋。町の中だけですべての産業が完結する、
連合のアイデンティティともいえる巨大な都市国家。
それがロカウルだ。
向こうではああいう形式の都市をアーコロジーと呼んでいるんだって。
ほかのアーコロジーにも行ってみたいけど、行きたい場所が多すぎて……。
激長あとがき。
セルンは割と新発見、新技術で気分が上がるタイプ。
普段は冷淡な振る舞いをしますが、同業者と話すときは結構盛り上がります。
[装備品: 0602QS/IW型魔工噴進機関]
アジマ王国で試験と開発が進められている新型の空中推進装置。
名称のうち 06 は吸気を加速する力軸の刻印の数を、02は加速された吸気を加熱、膨張させる熱軸の刻印の数を表し、さらにQSの前半、Qはエンジン4基のクラスター構成であること、Sは超音速飛行対応型であることを表す。また、/に続くIWは個人装備であり、かつワイバーン用の設計を意味している。
以前より王国ではいわゆる音の壁を超えるための技術が研究されていたが、遷音速、超音速域での安定した吸気や高速飛行時の物体表面の温度上昇など様々な要因のために研究は難航。しかし、およそ半年前にようやく初期の試作型魔工噴進機関が試験段階に移された。0602QS/IW型はその試作品の一つである。
現在は実戦用途では配備されておらず、空軍の実験飛行隊、通称"星追い飛行隊"での性能試験、評価が行われているのみである。
0602QS/IWの理論上の性能では音速の約3.5倍までであれば正常な動作を維持できるとのことだが、高速飛行時には前述の通りの気流による加熱、吸気の不安定化が発生するため、性能を最大限に利用するには耐熱仕様の飛行装具の着用が必須となる。
コメント: 可変ショックコーンインテークはJ58エンジンのそれをイメージしてもらえれば。
[魔法の系統: 自然魔法]
自然魔法とは、一部の種族が生まれつき扱うことのできる特殊な魔法系統である。
この一部の種族とは主に飛行能力を持つ種族や水棲種族を指し、様々な場所で見ることのできる一般的な魚や羽を持つ虫、鳥もこれに当てはまる。また、陸上で活動する種族でも自然魔法を持つ場合がある。
基本的に身体が大きくて重い種族ほど扱う自然魔法の規模、強度も大きくなり、同時に柔軟性を失ってゆく。この性質を最も明確に示す例がドラゴンである。
自然魔法はそれぞれの個体によって意識的、意図的に行使される一方で、利用している当事者はその具体的な使用、制御方法や動作原理を理解してはおらず、論理に基づいた動作ではなく思考や意志に連動する反自律的な動作であるとの考えが現在では最も有力とされる。
自然魔法の代表的な例としては飛行種族が用いる気流制御や、ドラゴンが鼻先から放つ火炎や火球がある。これらは一般にも広く認知されているものの、同時に魔法としてはあまり明確に認識されておらず、多くの人々はこれを魔法ではなく種族の特性として捉えている。
自然魔法の動作はきわめて複雑で言語魔法による再現は困難だが、同時に既知の先駆文明として最も新しい、第三の文明に関する発掘で見つかった資料からは第三文明の時代においてごく一部の優れた魔術師のみが扱えた"純粋魔法"に最も近い系統であるとの記述が見つかっており、"論理ではなく意志で動く"という魔法の真の姿が議論されるなど、魔術研究に終わりは見えない。




