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閑話:白織藍莉の里帰り③

 なんだかんだと言って、私はこうして実家の家族とみんなで囲う食卓が、嫌いというわけではない。

 家族馬鹿な白織の人間に育てられた私にとっての、ある種の癒しと言ってもいい。

 ただちょっとその熱量が高すぎて、私には処理しきれないから、困ってしまうだけなのだ。


 たとえそれが、なんだか飾り付けられた大広間が舞台であろうと。

 なんだかとても豪華な食事が、使用人の人達に運ばれてきていようと。

 小さい頃の私のアルバムだとか、ハードディスクに残った私の映像だとか、そういうのが引っ張り出されていようと。


 愛されているのなら、それに過剰なんてものは存在しないだろう。

 多少なり大きいだけのその愛を受けられることは、とても幸せなことだろう。


「前言撤回やっぱり過剰愛が過ぎる」


 無理だ。こんなにカオスな帰省、私は見たことがない。

 由緒正しい白織家本邸の大広間を使って、一体この一家は何をやっているのだ。

 馬鹿なのだろうか。馬鹿だった。少なくとも大馬鹿だ。親バカというのはここまで行き過ぎるものなのかと、今私は戦慄している。


 ちょっとの親バカ程度なら、まあそれとなく受け流してそのままでいられた。

 たった半年弱だ。半年弱実家に帰らなかっただけで、こんな状態になってしまう。


 私の家族、頭のネジをどこかに落としてきてしまったのだろうか。


「ねぇちょっと何このたすき」


「本日の主役ですもの~」


「こんなテンプレ的な本日の主役たすき、どこにあったの」


「帰ってくるって聞いて咲良(さくら)ちゃんに買ってきてもらったの~」


「馬鹿なの?ねぇ馬鹿なの?そんなことに使用人使わないであげてよお仕事いっぱいなんだよ織平(おりひら)御園(みその)花織(はなおり)も」


「従者に仕事を与えるのが主の務めですから」


 くだらないことに使用人を使う暇があるのなら、もうちょっと有意義なことに使って欲しい。

 本邸にこもっているのだって、外から見ればそういう家に見えてるのかもしれないけれど、実際のところお父さんはゲーム、お母さんはオタクに忙しいだけだ。

 どうせお母さんが使用人を遣わせたのも、自分が描きたい絵を描くために私室から出ようとしなかっただけだ。


 じとっとした視線をお母さんに向ければ、なぜか崩れてにやつく表情。

 心底よくわからない。あとなにか悪寒が背筋を駆け巡った。


「とにかく。派手なのはいいから。料理は……しかたなく食べるけど、こういう飾り付けと過去の私の思い出集みたいなのはしまって。割るよ」


「むぅ……あなた~藍莉ちゃんが冷たい~!」


 そうやって子供みたいにお父さんの方へとすてすてと向かっていくお母さん。

 年齢考えたらどうだろう。いや見た目が若すぎるゆえに割と様になってはいるのだが。


 というかなんなのだろうか私のお母さんは。

 既に四十を超え五十すら視野に入っているというのに、私と並んでも大して年齢差を感じさせないあの身体には、何かしらの神秘的な力が宿っている気さえしてくる。

 姉妹に間違われたときは耳を疑った。その後に店員さんの目を疑った。

 そのあと窓に映った姿を見て、多少なりとも納得してしまったが。


 さておいて、馬鹿親について。

 親馬鹿じゃない。馬鹿親だ。実際の本人のスペックがどうとか、そういうのは関係なく、私にとっての白織美雪(しらおりみゆき)は馬鹿親だ。


 そんな彼女でも、なんだかんだ言って本人は超ハイスペック人間だ。

 文武両道の才色兼備。武術から芸術まで、なんでも八十から九十点くらいの点数を叩きだし、自身の得意分野で言えば二百点三百点を取ってくるような、そんな人間。

 そのスペックを多少なりと娘に分けて欲しいものだと、何度か思ったこともある。


 なにより白織の中じゃ、瞳の技術だけで言えばトップクラスのものを有している。

 長年の経験とでもいうべきか、それとも才能か。

 彼女の瞳の中にあるものに、見透かせない物はあんまりない。


 ちらりと顔だけ振り向いたお母さんが浮かべるのは、いたずらな笑みに小さなウインク。

 多分、いろいろバレてるんだろうな、なんて。


 握らされたのは、特殊な飾りが彫られた、指輪。

 婿入りする人に白織の娘が贈る、そんな指輪だ。


「はぁ……ほんとに…………」


 別に気遣いとかいいから、素直におめでとうくらい言えばいいのに、なんて。

 今はもういない冬弥を迎えたことを全く報告していない私が、言えた話ではないかもしれない。

 そういうところだけ、妙に似てしまったのは、親子ゆえだろうか。


 主役席だからと特別飾り付けられた場所に座らされた私の目の前には、どんと置かれる大量の料理。

 大食いなところはちゃんと考慮されているのか、他の家族よりもさらに多い量。

 私、お母さん、お父さん、おばあちゃん、おじいちゃん、雛奈の順番に、量が置かれている。


 ちなみに使用人さんたちは別の席で食べるみたい。

 一緒にって言ったら、せっかくの家族水入らずの空間ですので、なんて言われてしまった。


「藍莉ちゃんこっち向いて~?」


「ん……撮るなら早く」


「は~い。おっけーよ」


 置かれたご飯を前に、一応ピースサインを作りながら写真を撮られたら、おじいちゃんがちょっとだけ、音頭的なことを。

 別にただ私が無事に帰っただけなのだから、ここまで派手にする必要はないのだが、どうやらこれくらいしたいとのこと。


 いつ死ぬとも限らないハンターとしてダンジョンに潜り倒している身としては、あまり断る気にもなれず、いつもこんなふうに大きすぎるおかえりを受けることになってしまう。


 いってらっしゃいも同じ熱量なのだから、困ったものだ。


「さて、では今日こうして白織一家が揃えたことを祝して!」


 大人数を前に噛みまくった私とは違って、おじいちゃんはすらすらと言葉を紡いでいく。

 おそらくこの人ならば、ロロテアでの音頭すらも余裕の顔をしてやり遂げて見せるのだろう。


 こんなコミュ強集団の中から、なぜ私みたいな人間が生まれたのか、甚だ疑問ではあるが。

 それも運命。慣れないことは慣れてる人に押し付けて、これからも生きていくとしよう。


『かんぱーい!!」


「……乾杯」


 なんてことをぼんやりと考えていたら、乗り遅れてしまった。

 流石に声出さないのもどうかと思ったので、小さく零してお酒を口に運ぶ。



 そんなおかえりから始まった一週間で、まさか私のこれからが激変するなんて、実家に帰ろうと思った時には想像もしていなかったのだった。

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