閑話:白織藍莉の里帰り①
一週間。
フォルティアに続いてドレイク、ギルド呼称“影の傀儡”となった狼と飛竜、そしてザミエル。
さらにザミエル討伐後もロロテア防衛に走り回った私に、ギルドが休暇期間としてフィールドへ出ることを禁じた期間だ。
あのあと山岡に崩れ村へと赴いていろいろあったことを話したら、なんか無言で抱きしめられた後に、ギルドから一週間のフィールド出入り禁止を言い渡された。
ちょっとだけ、そんな優しさが心地よく感じれるようになったのは、成長かもしれない。
ダンジョン狂いからは、抜け出せたのかも。
さて、一週間休みができたのはいい事なのだが。
たとえ一週間休みができたとて、それが唐突であると、人間案外何をすればいいのかわからなくなるものなのだ。
突然の長期休暇は嬉しいが、今までほぼ毎日ダンジョンに潜って自己強化もとい死に場所探しを行っていた私にとって、“休み”の概念は新鮮とも言える。
ハンターズリンクを開いて、アドレス帳を開く。
今更ながら、こうして空中にあるコネクタのディスプレイを叩く様子は、なかなかに面白い。
ギルド庁舎のエントランスでは大量のハンターが空中をポチポチしてる様子が見れる。
なんかそういう習性がある動物みたいだ。
「……みんな私に負けず劣らずのワーカーホリック、かも」
初出は確か五十年近く前に流行っていたネットゲームになぞらえて、フレンド欄と呼ばれるそれに映っている情報は、アドレスを交換した者が今どんな状態か。
私のフレンド欄にいるのは、突発的に始まった飲み会で交換した銀、ひなた、ふわり。
あとは元々交換していたユイと、高宮夫妻と、他行きつけの工房主とか、ハンターが少々。
ハンターでない工房の人達はどんな状態かわからないが、まあド平日である今日に限って休業という事はまずあり得ないだろう。
働き方改革とかいう方針が世に広まって三十年経つが、平日休日という染み付いた社会的習慣は、未だに直りそうもない。
週休三日制もある程度広まってきてはいるが、まだまだ主流は週休二日制、それも終末休みがほとんどだ。
中卒でアルバイトもしたことない、フリーランスのハンターだから、そういうのは情報でしか知らないわけだけど。
企業所属のハンターは、割と平日と休日が決まっていたりするみたい。
休日に趣味で潜るハンターもいるのだとか。
そう考えると、私って結構ブラックなのかも?
自分が好きでやっていたことだから、特に気にしたことは無いけれど。
なんて思いながら、フレンド欄を閉じる。なんならハンターズリンクも閉じる。
次に開いたのは、ブラウザ。
検索ワードは『休日 過ごし方』。
カラオケとか、ショッピングとか、そういうのがいっぱい出てくる。
確かに、休みの日はそういうをよくやっているイメージがある。
あとはおうちで出来る休日の過ごし方ってものもあった。
「おうち……おうちねぇ」
ルクセントにある私の自宅。
大して物はない。テレビもゲームもないし、あるのは最低限の家具くらいなもの。
なんならフィールド泊とか宿泊ってことも多いので、帰る機会も少ないかも。
キャンプってのも検索候補にあったけど、キャンプってあれ非日常を楽しむものであって、ハンターとしてしょっちゅうフィールドでキャンプしてるような人は、別に楽しくとも何ともない気がする。
釣りとかもそうだし、というかそれで言うなら、世間一般の非日常は割と私たちにとっては日常だったりする。
スポーツとかしようにも、運動するなら効率よくトレーニングした方がいいかなって思ってしまうし。
ジムとか行けば、また何か違うのだろうか。
いやでも体外からのマナ供給は無いけど、体内のマナは残り続けて循環し続ける。
かなり気を遣わないと、器具が壊れてしまう。
そういうのを対策するために、ジムにはマナ適応数値の目安の表記がしてあることが多い、のだけど。
まあ、十二層ハンターにとっては大抵適性外。それも上限超過。
ちなみにマナ適応数値っていうのは、ギルドの基準によって、マナ適応のステージを数値化したもの。
かといって、これが本人の強さに直結するかと言えば、別にそういうこともない。
マナ適応が進んでるからって、戦えば弱い人はいっぱいいる。
下層のダンジョン街に暮らす人なら、そこに生きているだけでマナ適応はそれなりに進んでいくのだから、適応のステージだけはそれなりに高い人ならいっぱいいる。
ただ実戦の経験がやはり大きい。
あと、ハンターとして魔物を討伐し、その魔物からこぼれ落ちたマナを吸収することで、マナ適応は早く進み、身体に蓄積されていく。
なんだかんだと言ったが、実際にフィールドに立って経験を積んだ人が、それだけ強いって話。
まとめると実に単純な話だ。
さて、閑話休題。
別にハンターズリンクのフレンドだけが、私の交友関係じゃないだろうと、そう気づいて開いたのは、一般向けのSNSアプリ。
その中でも、連絡に関して普及率がとても高いアプリだ。
友達一覧を開く。そこにいるのは、家族のみ。
私に、個人的な連絡を取れる友達というのは全くいなかった。
中学時代だって、小学時代だって、基本妹と二人でいるくらいのものだったし。
なんなら小学時代は目隠しだ。中学一年生の頃も目隠しだった。
厨二病だとか笑われたっけ。そのたびに私にどんな制約があるのかとか、隣にいてくれた妹がどうこう説明していたっけか。
ある意味で制御できるまでは目が不自由だった私の隣で支え続けてくれた妹には、感謝しかない。
と、名案。
「実家、帰るか」
一週間もあれば、しばらく実家でゆっくりすることも可能だ。
今まで割と忙しくて、月一の帰省も半年近くできてなかったし。
それに、ちょっとだけ前に歩けるようになった私の成長も、見せてあげたい。
という事で久しぶりに、白織の実家に帰ってみようと思う。




