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夜また更けても灯りは絶えず

 また予約ミスしてました。

 これともう一話で一章終了なので、このままいきます。

 飲んで、食べて、話して。

 陽の光は必ず夜の闇に繋がるように、上がった幕はいつか必ず下ろされるように。

 小さな宴の席は、いつまでも続くことはない。


 深夜三時。

 だというのにまだまだ騒がしく、賑やかなのはロロテアらしいと言えばらしいけれど。

 流石に、日暮れの頃と比べれば、多少は落ち着いたかのように思われる。


 大通りの端、建物に寄りかかる人。

 こんな時間だというのに、見るからに未成年な少年少女が、お面をつけてわたがし片手に大通りを歩いている。

 ちょっと見回してみれば、どこまでもどこまでも届くような、光。


 戦火の直後。竜たちとの戦いに勝利した、その夜。

 まるでこの街が、何にも負けずに輝いているとでも言わんばかりのその光は、少々いやかなり眩しいが過ぎるというものだ。


「賑やかやなあ」


「まあ、戦勝祭だもの。これくらいは許してあげてもいいんじゃない?」


「賑やかなのはいい事っす!賑やかにしたくてもできないのが、一番ダメっすから」


 なんて、大人組。


「ふぁ……ちょっと、私もう宿戻ります」


 なんて、ユイ。

 大して年齢は変わらないが、こういった飲み会みたいな席に参加した経験なんてないだろうから、相当騒ぎ疲れたのだろう。

 ただ単純に、未成年ゆえまったく飲んでいないからとか、ハンターとしての身体スペックの差とかもあるとは思うけど。


「どうする?二次会いくか?」


「いや流石に私もちょっと飲みすぎたっす……リタイアで」


「私も。明日クライアントとの打ち合わせがあるから」


「ん。私も。ちょっと寄りたい場所できた」


「そうかそうか。んじゃあお開きにしよか。俺はクラメンとでも飲むとするわ!楽しかったわ!また誘ってな!」


 なんて、満面の胡散臭い笑みを披露する、銀。

 やっぱり糸目っていうのはちょっと偏見が付きまとってしまうのかもしれない。

 どう見ても、誰かをだましてそうな顔だ。


「銀ちゃん、やっぱ顔が詐欺師っすねぇ……」


「銀次郎も銀次郎で大変そうね……」


「ひなたんは見た目の印象そっくりっすけどね」


 私もそう思う。銀次郎も銀次郎でって発言は、一体どういう意図なのだろう。

 もし自分は世間的に思われている気が強くて短気な女じゃない、という意味なら全くそんなことはない。

 燃えるような赤髪。ちょっと釣り目気味の黄金の瞳。


 (ともり)ひなたは見た目も中身も、王道ツンデレヒロインだ。

 ちなみに制御が効かない。超高火力の炎魔術をぶっ放す。どこだろうと構わずにぶっ放す。

 何度爆炎と煙をその身に浴びたかわからない。

 なんなら死にかけたことすらある。文字通りのフレンドリーファイアで。


「じゃ、またいつかどこか。生きてたら」


 なんて、ちょっと、恥ずかしいけど。

 友達みたいに、仲のいい人達みたいに、言ってみたり。


「集まって飲みましょう。それまで死ぬんじゃないわよ?」


「また騒ぎましょう!楽しかったっす!死んだら怒るっすからね!」


 そしたらノータイムで、二人からの返事。

 やっぱり、いい人たちだ。私にはもったいないなんて気持もある。

 けど、きっとみんなが好いてくれている私を私が否定し続けるのは、みんなに失礼だと、ちょっとだけそう思えるようになったから。

 前向きに、なれたような気がするから。


「ん。毎回依頼こなしたら、ただいまって言うね」


「ふふ。それくらいでいいのよ、お姫様」


「遠慮なく連絡してくださいっす!ひなたんなんて毎日どうでもいいことで連絡してくるんっすから!」


「ちょ!?何変なこと言ってるのよ!?」


「事実じゃないっすか。ちょナイフは反則っす私耐久力には自信ないんっす!!」


 ふわりの失言。それに対してのひなたの理不尽な暴力に近しい行動。

 別にひなただって、寸止めくらいするだろう。そんなやりとりを見ていると、ちょっとぽかぽかとする。


「ふふ」


 私の小さな声は、きっと街の喧騒に掻き消されたけど。

 軽く私の方を見た二人の顔は、なんだかちょっと満足そうで。


 心に刺さった棘は、今もずっと痛みを忘れさせてくれないけど。

 その痛みだって、銀やふわり、ひなたにユイ。他にも色んな人達が、ちょっとだけ癒してくれたような気が、しなくもない。


 音頭の大失敗も、会場の笑い声も。

 酔っぱらって見せてしまった涙も、みんなの温かさも。

 またねって言いあって、再開を約束するのも。

 いつか私が過去に置いてきてしまった、日常の中にあったものたちだ。


 喪失ばかりを刻み付けて、失ったものばっかり数えて。

 今も変わらずそこにあったはずのものを、見ないようにして。

 ずっとずっと、失礼なことをしていたのかも、なんて。


 そう思った私が連絡したのは、山岡。

 同じ喪失の痛みを覚えながら、前を向いて後進の育成の道に進み、ギルド支部長という地位まで若くして上り詰めた、強くて優しい男。


 ずっと友人でいてくれた、そんな男。

 私のことを見捨てず、ずっと心配してくれてた、そんな男。

 勝手に私が距離を取ってた、そんな男だ。


『なんだ白織。こんな時間に。どうかしたか?』


 時間的に迷惑になるかも、なんてかけてしまってから思ったけど。

 スリーコールしたと思ったらすぐに出て迎えてくれるのは、山岡の声。

 珍しい。多分唯一私のことを白織と苗字で呼ぶ人間だ。


「確認、したくて」


『なんだ?今回の竜災で出現した竜の記録は手元にある。今はハンターのロストや市民の死者がいないかのチェック作業中だ。なにかあったなら遠慮しないでくれよ』


 今も、ギルドは仕事中なのか。

 普段はそれなりにホワイトは職場だと言っていたが、こうしてダンジョン内で魔物性災害が起きると、フルタイム稼働の超ブラックになるらしい。

 そんな中にこんなことを聞いてしまうのは申し訳ないけど。


「私、まだ山岡の友達?」


『……………………はぁ』


 長い沈黙、からの溜息。

 やっぱり、怒らせただろうか。それとも友達ではない、か。


『本気でお前はそんなことを聞くためだけに連絡した来たのか?わざわざ支部長としての俺の連絡先に?個人用じゃなくて仕事用のアドレスに?』


「いやだって山岡のアドレス知らな───」


『この際だから言うけどな、お前のその自己否定の癖は直した方がいい。こうやって聞いてくるってことは思い込みのまま否定し続ける段階からは若干抜けたんだろうが、それでも自己否定が激しすぎる。もう少し自己肯定感を上げろ。なんでお前はお前を褒める評価とギルドからの称賛が溢れてるというのにそこまで否定的なんだ。あれか?夜空の輝剣か?だとしたら気にしすぎだ馬鹿野郎。死人の気持ちは俺にはわからんが、少なくとも俺の知ってるあいつらならとっくにお前のことを許して天国で酒と肉に囲まれながらお前のことを見守ってる。いい加減に自分を慕う人間がいることに気づけ。自分の思ってる通りに世界は回ってないことに気づけ。というか世界が自分の思い通りにいかないことなんて嫌と言うほどわかってるだろうお前は。肯定的な意味で思い通りにいかないと知れなんて言うことになるとは思わなかったぞこの自己否定女が』


 凄く、凄く耳が痛い。

 あと、熱量が凄い。なんだこの、絶え間ない口撃は。

 だというのに内容はあったかいのだから、脳がバグる。


『あー……とにかく、だ。とにかく、俺は別に聞かれなくてもお前の友達だ。安心しろ。お前が魔物相手にくたばらない限り、死んでも友達でいてやる。その代わり死んだら絶交だ』


「……ん。わかった」


『本当にわかってるのかお前は……いやいい。とりあえず信じる。だからもうそんなこと聞いてくるな。こっちのが傷つく』


「なんでさ」


『逆に俺は、お前とはずっと友達だと思ってるからだ。こっちの気持ちが一方通行だったのなら、悲しいだろ』


「私は、山岡のこと嫌いじゃない」


『そういう話じゃなくてだな……いいやもういい。仕事が終わらんくなる。だからもう切るぞ』


「ん。頑張って」


『言われなくても頑張るさ。行くんだろ?気を付けて行ってこい』


 なんて山岡の言葉とともに、切れる通話。

 見事に見透かされている。遠隔だというのに、エスパーか何かなのだろうか、山岡は。


 なんて思いながら私の足が向かうのは、階層間転移陣。

 アクティベートしたことのある別階層のダンジョン街に設置されている階層間転移陣にテレポートできる、ちょっと特殊な転移陣だ。


 転移先に選択したのは、五層。

 ランドマーク“崩れ村”にほど近い、ダンジョン街。


 かつて私の所属していたクラン“夜空の輝剣(きけん)の終点。

 そして、今の私の原点。



 ずっと目を背けていた場所に、今日私は、目を向けようと思う。

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