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狩る者、狩られる者

「そりゃ再生するよね。だからこう」


 再生を見越していた私が置いたのは、さらにもう一つの罠。

 モーニングスターの先端部分。つまり殴るところ。

 棘だらけの球体を、再生するだろう位置に固定しておけば、見事にそれは再生に巻き込まれて、奴の黒い体の中に取り込まれた。


 どうやらこいつ、設置型の罠に弱いらしい。

 再生中は体が動いていないため、再生中に罠を仕掛けてしまえば、面白いくらいに引っかかってくれる。

 対策されるまで、永遠に擦り続けるとしよう。


 先ほど生成した氷を爆散させる。これも改造ゆえの効果。生成系の魔術には、爆散させるプログラムが非常に相性がいい。

 同時に周囲に大量の氷剣を生成。発射待機。

 再生が始まった瞬間に適当に体内に取り込まれるように氷のつぶてを生成、発射。


 再生が完了した瞬間に、氷剣が奴の体を刺し貫く。

 黒ひげ危機一髪みたいな状態になった奴に、爆散のコンボを叩きこむ。

 軽く削れた体。多少の再生くらいなら無視してこっちに突っ込んでくる。


 だから、それを利用する。

 無限に再生ができるわけではないだろう。

 じゃなければ、どんな小さな傷も即座に再生しているはずだ。

 無限再生なら出し惜しみなんてしないはず。


 だから、再生できなくなるまで殴る。

 何度も何度も倒して、再生されるそばから殺して。

 本当の意味で死ぬまで攻撃を止めなければ、いつかは勝てる。


「ん。流石に」


 動きが変わる。設置型の罠が通らない。

 再生中も、意識はあるのだろうか。

 罠を認識してから、別の位置で再生して体内に氷を取り込むことを回避するようになってきた。


 爆散。片腕が吹き飛んだ奴がとるのは、反撃。


 攻めながらの再生。頭さえあれば自由に動けるのかも。

 なんてことを考えているうちに迫るのは、伸びた鋭い爪。

 腕よりも細かく私を狙えると考えての変形だろうか。


 引き付けて、軽くバックステップ。

 着地と同時に飛び込んでくる奴の腹を、一気に蹴り上げる。

 割と軽いらしい奴の体は、比較的力の弱い方である私の蹴りでも軽くよろけている。


 スラスターのようにマナを噴射して推力を得る。その勢いのままに、短剣を構えたまま突撃。

 正面から斬りかかってくるその動きに合わせて、カウンター。からの連撃で、その柔らかい体を斬り刻む。


 後ろへ飛び退ろうとする、黒い体。


「逃げちゃダメ」


 距離は取らせない。極太の氷の槍を背後から突き刺して、空中に短剣を放り投げた私が手を入れるのは、異界収納。

 瞼を閉じた私が握ったのは、天白。

 そのまま居合。振り抜いた状態からすぐに戻し、未だ空中にある二本の短剣を掴み、動かない奴の体に五連撃。


 下から上へ、斬り上げながらの跳躍。

 氷の足場を踏み台にして、天から地へのV字ターン。

 踏み込んだ勢いのままに、通りすがりに三連撃。

 片手をついて着地、ローリング。


:すっご

:圧倒してんじゃん


 圧倒なんてはたから見てればそう見えるかもしれないけれど。

 相手に何もさせないことが重要だからこうやって戦ってるだけだ。

 外野から見るほどの余裕は、きっと私にはない。


 見据える奴の黒い体は、再生中。真っ先に頭が再生した奴は、そのまま再生を続けながら私の方へと向かってきた。

 反射的に左腕を振って、急に変形して現れた尾を弾く。


 そのまま尾が斬れるが、斬れるが故に回転は止まらない。

 迎撃は悪手だった。前に飛んで潜り込み、すれ違いざまに攻撃するのが最適解だっただろうか。

 私の目の前に、奴の黒い右腕が迫る。

 随分と刺々しい、殺意の高い腕だ。


 当たれば致命傷だろう。即死かもしれない。


「当たれば、ね」


 防御。咄嗟に挟み込める、氷の足場。

 本来の用途は盾ではないが、割と防御手段としての活躍の方が多かったりする、割と本当に私の戦闘の六割くらいを支えてくれている魔術。

 優秀だ。メンテナンスも楽なのも高評価。


 この魔術がある限り、私に見えている攻撃は当たらない。


「なめんな、私の反射神経」


:あっっっっっっっっぶな!?!?

:よく反応したなあれ

:ひやひやさせないで欲しいほんとに


 受け止めて、弾き返して。

 三本の氷剣生成。からの射出。

 突き刺さったそれらを踏み台に、再び空中へ。


 視線が私に向く。激しい動きってのは、目で追ってしまうのが性というものなのだろう。

 私は囮だ。本命でもあるけれど。


 私に視線が向いている間に、足元に大量の氷を撒き散らす。

 それに気が付いた奴は、逃れようと空中へと跳びあがる。

 それが狙い。私のテリトリーへと誘い込むのが目的。


 まず一撃。足場を踏んで接近からの斬撃。そのまま斬り抜けるように、脇腹にも一撃。

 足場を生成。跳躍。直上から、氷の大槌での叩きつけで思いっきり地面へと落として、追撃の起爆。


 再生が終わった瞬間に、また氷の大槌を生成、からの操作。

 空中に打ち上げて、十二本の氷の大剣によって刺し貫く。

 空中に固定、再生は行わないので、そのまま爆散させる。


 案の定再生。今回はそのまま私の元へと突っ込んできた。

 カウンターはせずに、回避。

 腕による一撃を誘い込んで、それを最低限のステップで回避すれば、奴に残るのは特大の隙。


 そんな隙にぶち込むのは、またしても大鎌。

 一度に六発の斬撃が、黒い体を襲い、またもその全身を斬り刻む。

 物魔半々という性質ゆえに、防御手段はなし。

 柔らかい相手にはよく通る。


 ただし、この程度で倒しきれるとは思っていない。

 スタンピードの可能性も考えられる現状、できればそうであればこの上なくうれしいのだが。

 どうやらなかなかに、長く遊ばせてくれるみたいだ。


「はは、無尽蔵じゃん。体力バカ」


:これテンション上がってます

:疼いちゃったかぁ

:十二層級相手に楽しみを見出さないでほしい


 さあ、どうする。

 攻めれば斬られ、逃げれば斬られ、守れば斬られる。

 そんな時、どんな手を取ってくる。


 そんなのもちろん決まってる。

 少なくとも、私なら。


 背後からの一撃を防いだ氷の足場が、澄んだ高音を響かせた。


 再びの択。奴が動くとしたら、どこか。

 戦い自体がそもそも慣れていないように感じる奴が、次に狙うのは、どこか。

 見えないけれど、これ以上ないほどに良く見える。


 タイミングは、二つ数えてコンマ三秒。

 天白を振り抜いた私の手に伝わるのは、確実に斬った感覚。

 そのまま振り抜いた勢いのままに、もう一撃振るえば、それもまた斬った感覚を私の手に伝えてくれる。


 退くだろう。予想のままに、氷剣を一発。

 これもまたヒットした感覚。

 見えていなくても、氷剣を生成した場所が分かれば、次の場所もおのずと見える。


 さらにもう一撃。

 下段から天へと斬り上げた斬撃は、見事に命中。

 そのまま下向きに螺旋を描けば、それもまた命中。


:なんで全部あてるんですかね

:怖い(怖い)

:スローで見せてください残像しか見えません


 天白を戻し、手に握るは再び短剣。

 私が仕掛けるのは、守りを捨てた超接近戦(インファイト)

 小柄な体躯をもっとも活かせる、私の一番得意な距離。


 風が耳に当たる音さえも置き去りにして、潜り込んだ私の目の前数センチ。

 唐突に身体を変形させて、体表に殺意の塊の棘を生やしてきた奴の体を容赦なく斬り刻んで、そのまま斬り抜けた瞬間にターン。

 距離は離さない。常に張り付いて、攻め続ける。


 斬り続ければ、生物は死ぬのだ。


 蹴撃。髪の毛が蹴られて舞うが、体には当たっていない。

 反撃した私の短剣は、奴の腿に刺さる。そのまま外側に斬って、備え。

 虫を叩くかのように振るわれた手のひらに見えるのは、無数の棘。もちろん大人しく潰される羽虫ではないために、回避からのついでに反撃。

 後ろに回り込んだ私がとるのは、さらなる反撃。

 両の短剣が、交互に奴の体を斬り裂いて、さらに魔術によって攻撃は加速する。


 大体三十秒。正確には三十とコンマ零七秒。私が斬り刻み続けた時間だ。

 その間に、何度攻撃を加えたのかはわからない。

 途中から、数えるのもめんどくさくなってきたので、四桁くらいだろうと予想しておく。多分五桁には届かない。


 離れたのは、何かが明確に変わったから。

 右目に見えるマナの性質が、どこか変化したように感じられたから。


 何かが、変わったから。

 なにか、スイッチが入ったように思えたから。


 だったら、私だって。




「──……ふふ、あはは!ギア上げてくからねッ!」




 心行くまで、ぶん回していこうじゃないか。

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