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命を刈り取る形をしてるだろ

「──ッ!?」


:なに今の黒い影

:よく見えたなそれ


 咄嗟の直感に従って、何が何だかわからないままに短剣を振るう。

 手ごたえ、そして金属音。確実に何かが私を狙って飛んできていたのは確かだった。


 見えない。全く見えなかった。


 殺意の起こりに合わせて投げられたものならば、幾許かの余裕をもって弾くことができたのだろうが。

 時間差で届いた殺意の感覚は、明確に私の命を狙った黒い棘とはズレて送られたものなことが分かる。


 まるで遠くの花火を見ているかのように、光と音がズレて届くかのように。

 棘のあとに遅れてやってくる、殺気。


 ダメだとはわかっていても、思わず反応してしまった私に飛んできたのは、またも視認不可能レベルの速度の黒い棘。

 しかし実にわかりやすいそれは、ただ飛ばすだけじゃもはや私の脅威にはなりえない。


 またも急所に飛んできたそれを、胸の前に短剣を振るって弾く。

 単純に超高速の飛び道具で殺りにくるのなら、基本的に狙うのは頭か心臓か首。

 死角に潜り込んで殴ってくるような魔物が狙うのは、対峙した獲物の背後。


 ある程度魔物というか、生物の“狩り”のセオリーに合わせた予測だ。


「……にしても、速すぎ。残像くらいしか見えない」


:見えてるだけ異常なんだよな

:一般下層ハンターワイ、迫真のコンマ25倍速

:動体視力どうなってんねん


 またも飛んでくる弾に、弾きを合わせる。

 三発目ともなるとある程度慣れてくるもので、見えていなくてもなんとなく初動からの予測でドンピシャを当てることができた。


 上に打ち上げた黒棘を見てみる。

 藍玉を通して見た黒棘の内包するマナは、遠くこちらを狙っている奴のマナと完全一致。

 魔術ですらない。単純に体の一部を飛ばしているだけの攻撃らしい。


 下層に生息するハリネズミ系の魔物と同じ原理だろうか。

 極星(ミーティア)を受けておいてぴんぴんしているのは、強力な再生能力由来かもしれない。

 そう考えると、体の一部を飛ばしてくるこの攻撃にも納得ができる。


 自分の体を切り離して飛ばして、その部分を再生しているのだろう。

 おそらく再生にはエネルギーが必要。エネルギーを急速に生命力、または体の一部に変換する能力といったところか。

 マナを見ている限り、治癒系の魔術というわけではなさそうだ。


 どちらにせよ、厄介なことには変わらないだろう。

 完全詠唱の極星(ミーティア)を受けてなお耐えきる奴に、一撃必殺の攻撃をぶち込んで再生が追い付かない速度で殴る、なんて手は通じない。


 再生するエネルギーを削り切り、再生できなくなった後に削り切る。

 もっとも単純で、それゆえに難易度が高いとも言える。

 十二層級の魔物との長期戦なんて、考えたくもない。


「はは、やってやろうじゃん」


 氷の足場を蹴って、奴のもとへと一気に宙を走る。

 一歩ごとに足場を生成。踏み込みのたびに、速度が上がっていく。

 私の戦法に合わせて、ちょっとだけ改造しているが故の挙動である。

 上限は存在するが、踏めば踏むだけ速度が上がっていく調整だ。


 ランドマーク“隕鉄の窪地”に空からダイレクトエントリー。

 の、直前に。


:でたチート能力

:近接職のハンターなら誰でも欲しいよなこの目

:なんかまた青くなっとる


 “夜闇秘めし(フェイタル)割符の蒼玉(サファイア)”。

 私の左目に宿る、もう一つの能力。

 本来私ではなく双子の妹が持つはずであった、藍玉と双璧を為す白織の特異体質。


 宿す力は超視力。遠くのものが鮮明に見えるようになり、動体視力が深層ハンター基準でも怪物級になり、視界の情報処理速度が爆増し、空間認識能力が跳ね上がり。

 そしてなにより、未来予知にも近い高精度の予測。これがこの力がチートと呼ばれる理由だ。


 精度としては九割八分ほど。

 自身に向いていると認識した攻撃がどの軌跡を描くのか、瞳がそのおおまかな未来を視界に映す。こんな感じになるだろうか。


 いわく『見据え、見越す力』らしい。

 情報処理能力が向上するのも、地味に嬉しかったり。瞳にマナを流してそうなるのは、いささか不思議な理屈ではあるが。

 なお使えば脳が悲鳴を上げる。藍玉と蒼玉の併用なんてしようものなら、今の私みたいに頭が割れそうになってしまうだろう。


 ……すっごいきつい。


 さて、発動しながらの、ダイレクトエントリー。

 着地と同時に首筋に迫るのは、奴の腕が変形したブレード。

 上体を逸らして、反撃に蹴りを一発。


 受け止められて、掴まれて。


「──痛いっての」


 そのまま地面にたたきつけられたが、受け身をとって、距離を離す。

 人型の魔物、さらに知性があると、安易な体術は利用されてしまうのが厄介だ。


 距離を離した私に、爆速で向かってくる黒い影。

 蒼玉発動中じゃなければ、確実にギリギリの攻防になるが、しかし。

 今の私は、恐らくハンター最強格レベルの身体能力を持っている状態だ。


 十二層探索でも普段滅多に斬らない瞳というカードを切っている私に、十二層級の魔物がついてこられるはずがない。


 なんて、断言できればよかったのだが。


 少なくとも地帯主(エリアガーディアン)レベルは確実なこいつと、一般的な十二層の魔物を並べて考えることは決してできない。


 十二層の階層主(フロアガーディアン)と戦ったことが無いので、残念ながらそいつとの比較を行うことは不可能ではあるが。

 弱い地帯主(エリアガーディアン)程度なら越しているだろうこいつ相手に、たとえ切り札を切ったからと言って余裕の勝利になるかと言えば、そうではない。


 天白の素材である幻白晶を体に持つ、ランドマーク“幻の白坑道”の地帯主(エリアガーディアン)、地竜カーレイン。

 私の所感としては、奴に匹敵するくらいの強敵だろうか。

 ギリギリではないが、残念ながら余裕と言い切れるほどの余裕はない。


 斬りこみ。防がれる速度ではないそれは、腕を断ち斬る。

 が、しかし、斬ったそばから再生されて、攻撃の後の姿勢から戻れていない私に向けて、ブレード状に変形した腕が伸ばされる。


 回避は不可能。しかし動けなくても、私には防御の手段はある。

 足場を腕と私の体の間に挟み込む。一度だけの最強の盾。私の誇る、絶対防御。


 中途半端に力が入っている程度の攻撃に、破られるほどやわではない。


 瞼を閉じ、即座に異界収納から天白を抜き、鞘は無いが居合の要領で振り抜く。

 果たして私の握る大太刀は空を斬るが、しかし。

 これはブラフ。本命は大量に仕掛けた空中の罠。


 バックステップで天白を躱した奴の背に刺さるのは、氷穿(フロストエッジ)で生成しておいた大量の氷の直剣。

 断ち斬るわけじゃない、突き刺さる攻撃だ。


「ふふ、邪魔でしょ、それ」


 空中に固定した氷剣は、深く深く奴の体に突き刺さる。

 体の中に刺さっているのなら、再生しても無駄にはならない。


 突き刺さった氷剣が、対象をその場にとどめる針の罠となる。

 その隙に、私はもう一度天白を振り抜いた。

 狙うのは頸。確実に斬った感触を手に感じさせる。


 瞼を開いて奴の姿を見れば、宙にその首が飛んでいた。


:やったか!?

:おいやめろ

:馬鹿なのかお前は


「っはは、生物としてどうなの、それ」


 どんどんと再生していく奴の体。

 どうやら、ちょっと再生能力に優れいている程度のものじゃないらしい。

 意識があるうちならば、肉体の再生が可能なのだろうか。

 一瞬でも肉体の状態を認識することができる時間があって、そこから命令を出すことができれば、たとえ脳と繋がっていなくても再生が可能。そんなところか。


 魔力性変異生物群。略して魔物。

 霊体などを持った霊種を含めないで区別するのなら、魔物は生物に限られる。

 めんどくさいため、ほとんどの人は霊種も魔物に含めるが。


 実体があり、なにより正式な機関であるギルドから“魔物”と呼称されているということは、もちろん定義的な魔物に分類されるわけで、それならば一応こいつも生物の一種であるはずなのだが。

 首を斬られて死なない生物とか、ちょっとファンタジーが過ぎるだろう。


 金属音。無意識の防御。

 私が振るったのは天白ではなく、鞘から神速で抜き出した短剣。

 飛来した黒棘が、視界の端に吹っ飛んでいく。


「──ッ!?」


 突如、気配。

 飛びのけば、一瞬の後にそこを貫いたのは、先ほどの黒い棘。

 躱すのが遅ければ、心臓をそのまま貫かれていた。


 地面に突き刺さった棘を警戒しても、もう動かない。

 どうやら操作は一回だけ、それかもしくは、一度制御下から外せば、二度目の操作は不可能なようだ。


:動かんか

:一度切りっぽいね


 先ほどの致死からの再生も、同じ要領だろう。

 おそらくこいつは、自分の体を自由自在に操作する能力を持っている。

 しかし一回身体から離れたものは、操作に制限がかかるといった感じだろうか。


 ただ、マナの起こりが全くないということは、何かしらを媒介にしてその能力を発動しているとは思うのだが。

 何を伝ってその能力が発動しているのか、見当がつかない。


「っと。考え事はダメ?」


 また飛んできた黒棘を躱して、追撃も躱す。

 さっきから一本のみ。複数同時操作は不可能らしい。


 またもブレード状になった腕を躱す。

 流石に何度も見た。もう当たらない。

 なんて油断してたらくるだろう。ほら来た。


 躱した先に飛んでくる、黒い棘。

 ならばと踏み込めば、棘が往復して私の体を狙うことはない。

 再生能力が高いのならば、肉を切らせて骨を断てばいいだろうに、かわいい奴だ。


 奴がとるのは防御の構え。そんなの知らない。

 私はパワータイプではないけれど、でも攻撃力は超人を超えて怪物だ。十二層とは、人外が跳梁跋扈する魔境である。

 もちろんそこに棲息する魔物もまたとんでもない奴らだが。


 再生能力頼りのこいつは、見るにあまり固いタイプではない。

 斬撃がよく通る。


 異界収納から、私は大鎌を取り出して、抜き放つ。


 それは六つ鎌蟷螂(ペルペンティア)の鎌を使って作られた魔装。

 一度の攻撃で、六つの斬撃を繰り出す、命を刈り取る執行者の大鎌。


 上下左右前後。

 六の方向から、マナ混じりの物魔半々の斬撃が、奴の体を斬り裂いた。


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