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電車が通り過ぎるまで

作者: 大森ギンガ

電車に乗りそびれた。わざと、というか自然と。

乗り遅れたわけじゃない。だから何?と問われれば、いや別に、としか返しようのない。

そういう類のやつです。


 夕方の駅というのは、人間を寂しくさせるために設計された舞台のようで。

しかもそれが誰にも責められない種類の寂しさなので、私はわりと好きです。

 誰のせいでもない、というのは、ある意味で救いがない。でも、ある意味で救いでもある。誰も悪くないのだ、ということは、私が悪くないということでもある。便利ですね。


 ホームのベンチに座り、うすく笑いました。だって、たかが電車一本見送っただけなのに「ああ今日も人生が進まなかった」と思ってしまうのだから、我ながらちょっと芝居がかっていて、笑うしかなかったのです。


 スマートフォンが震える。母からです。「晩ごはんいる?」だそう。


 たぶん、そういうのに「いる」と素直に返せる人が、社会で生きていけるのでしょう。

私はといえば、そんな単語ひとつ打つのに二十秒くらい考えたあげく既読をつけたまま画面を閉じました。

 それでまた、自己嫌悪というやつが始まります。最近、この感情にも飽きてきたところです。


 線路の向こうに小さな子どもがいて、誰かと手をつないでいました。

 その光景を見て私はどうしようもなく「やめてくれ」と思いました。

 あれは純粋で、正しくて、美しい。

 だからこそ、私は触れたくなかったのです。


 次の電車が来るまで、あと五分。


 私はそれを待つ理由もなく、立ち尽くしていました。

 もしかしたら私は、乗るべき電車なんて、最初から存在しないと知っている人間なのかもしれません。


 風が吹いて何かが遠くへ運ばれていきました。

 たぶん、私の心だったのでしょうけど、もうどうでもいいです。

 どうせ明日も似たような一日が来て、私はまたそれを、何もしていないように全力でやり過ごすのですから。


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