毛玉ぼーるが紡ぐ絆
六月の朝、庭の木々は雨上がりの露を真珠のごとくきらめかせていた。
リビングでは、白きふくふくとした毛玉、ノエルが、新たな獲物の甘美な引力に、その身をゆだねる。
それは、運命の巡り合わせで彼女の掌中に収まった、小さな毛玉ぼーるだった。
「……ふわふわ、ころころ……」
彼女は毛玉ぼーるを前足でちょんちょんと突き、たまに転がし、そして慈しむように抱きしめては、恍惚の表情を浮かべる。その姿は、まさに世界のすべてを手に入れたかのような、至福の瞬間を謳歌する詩人のよう。紐への愛も健在だが、この毛玉ぼーるには、また異なる深遠な、魂を震わせる魅力があるらしい。
そんな愛らしき白猫の姿を、お姉さんは朝食の準備をしながら、時折柔らかな光を宿した眼差しで追っていた。
「ノエちゃん、楽しそうだねぇ。良かったね、ぼーるもらえて」
その言葉に、ノエルは小さく頷いた。
だが、その毛玉ぼーるが、そもそもどこから来たのか。そして、なぜノエルがそれを手に入れることができたのか。その問いに対する答えは、この家の、もうひとつの世界、二階に秘められていた。
その頃、二階の通称シャカシャカゾーンでは、ミー、チコ、エリの三姉妹が、静かに朝の時間を過ごしていた。
「ミー、本当にあれ、ノエちゃんに渡しちゃってよかったの?」
チコが、少し心配そうにミーに尋ねた。
毛玉ぼーるは、元々ミーが密かに愛でていた、お気に入りの一つだったのだ。
ミーは、くるりと体を反転させ、風に揺れる柳のように涼しい顔で答えた。
「いいのよ、チコ。だって、あの子、あんなに嬉しそうだったでしょ?」
「うん、可愛かったね……」
エリも小さな声で同意する。彼女は、ノエルが階段の途中で毛玉ぼーるを追いかけ、そのままおもちに状態になった時のことを思い出していた。あの時のノエルの姿は、彼女たちの心の奥底に、それまで知らなかった、温かな感情の波を呼び起こしていた。
「それにね、これは未来への投資なのよ」
ミーが、どこか謎めいた笑みを浮かべ、意味ありげな表情で言った。
チコとエリは顔を見合わせた。投資?
猫の世界に、そんな人間めいた概念があるというのか。
ミーは得意げに続ける。
「あの子が階段に慣れて、もっと二階に上がってくるようになれば、私たちの生活も、もっと楽しくなるでしょ?」
ミーの言葉に、チコとエリはハッとした。確かに、ノエルが来ることで、二階の静寂な生活に、新しい風が吹き込み、色鮮やかな彩りが加わるのかもしれない。
「うん……それなら、いいかもね」
チコが納得したように頷く。エリも、小さく「うん」と返事をした。
最早、毛玉ぼーるは、単なるおもちゃではない。
それは、一階と二階、そして三匹の狩人と一匹の白猫を結びつける、目に見えぬ絆の象徴なのだ。