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空を泳ぐ苺のソフトクリーム

作者: 昼月キオリ


〜自己紹介〜

葵三咲(あおいみさき)

高校1年生

不器用な青年


橘立花(たちばなりっか)

28歳

婚活難航中のアラサーOL


一話 OL仲間

桜子(さくらこ)「立花、あんた最近どうなの?」

立花「どうって何が?」

パソコンで作業をする私に話しかけてきたのは隣の席に座っている同僚の桜子だ。高校の時からの友人で卒業してからもこうして仕事を通じて縁が続いている。

桜子「出会いよ、で、あ、い!この間、合コンしてたじゃないの」

立花「全然だめ、その場にいた男2人とも近くにいた若い女の店員さんにばっかり話しかけてたわ」

パソコンの画面から目を離すことなく返事をする。

桜子「何よ!失礼しちゃうわね!同じ歳のくせして」

立花「仕方ないわ、男は若くて可愛い女の子が好きな生き物なんだから」

桜子「あいっかわらず冷めてるねぇ」

立花「嫌でも冷めるわよ、周りは皆んな早くに結婚したはいいものの、浮気やら風俗やらセックスレス、そんな話ばかりなんだから」

桜子「私は大丈夫だし!」

立花「はいはい、あんたは幸せでいなさい」

桜子「ぶーぶー、可愛いくな〜い」

立花「私に可愛さを求めないでよ、ほら、手が止まってるわよ」

桜子「はいはい」

こんなやり取りがもう三年も続いている。

桜子は20歳の時、バーで知り合った男性と電撃結婚をした。出会って三ヶ月だった。

離婚したらしたで構わないってスタイルで突き進んだ桜子だったけど結婚から八年、今でも仲が良い。

私はそんな桜子に密かに憧れていた。


二話 出会い

公園。

その日は春だと言うのにまるで夏のように暑かった。

アイスクリームの旗が見えた立花は足が止まり、自然と店の方へと足が向いていた。

そこには男子高校が一人、アイスクリームを買っていた。

お店の横にあるベンチで小動物のようにちまちまと食べている。

その姿を見て自分も無性にアイスクリームが食べたくなった立花は財布を出す。

立花「苺のアイスクリーム一つ下さい」

店員「はーい」

店員は私と同じ歳くらいの男性だった。

ハキハキとした人柄の良さそうな人だ。

通りすがりのおじさん「お、なんだい、あんた随分派手なピンクの財布持ってんなぁ」

立花「はい、ピンク好きなので」

冷静な口調で話しを返す。

おじさんは立花を見定めるように足から顔へ目を向ける。

おじさん「その年齢で恥ずかしくないのか〜?」

脳内でため息を付いた時。

三咲「そうかな?好きなものがあるっていいじゃん」

立花は声のする方へ目を向ける。

先程の高校生が言ったのだ。

おじさん「いやいや、でもさぁ〜」

三咲「何がいけないの?」

おじさん「おいおい、目上の人に向かってその態度は」

店員「お客さん、ソフトクリーム何味にしますか?」

おじさん「え?」

店員「な、に、あ、じ、にしますか?」(圧)

店員さんがおじさんに静かな圧をかける。

顔は笑ってはいるが心の奥に冷ややかなものを感じる圧のある表情だ。

おじさん「う・・・ちょ、チョコミントをくれ・・」

店員「毎度ありがとうございますー」(棒読み)

おじさんはソフトクリームを買うや否やそそくさと場所を移動した。

店員「いやー、お姉さんさっきは悪かったね、あのおじさん、よく女の子に絡んでるんだ気にしないで」

立花「いえ、いつものことなので」

立花は立ちながらベンチ付近で食べようとした。

自分のようなおばさんが少年の横に並んで座るのは忍びないと思ったのだ。

三咲「となり、座れば」

ぶっきらぼうな言い方だったが先程庇ってくれた。

きっと根はとてもいい子なのだろう。

よく見ると少年の手には私と同じ薄いピンク色の苺のソフトクリームが握られていた。

立花「え、ええ」

少年の横にストンっと座る。

立花「さっきはその・・・ありがとう」

三咲「別に」

好きなものを肯定してくれた。

まだ幼い。一回り以上も歳が下の高校生に言われただけ。ただそれだけなのに・・・なんだか泣きそうだ。

同じ苺味のソフトクリームを並んで食べただけなのに彼に妙な安心感を覚えた。

今ここにいるのは店員さんと高校生の男の子と私。

この空間がとても居心地が良くてまた来れたらいいなと思った。

夕陽が街を照らし空がピンク色に変わる。

モコモコとした雲の輪郭がピンク色の光に変わる。

三咲「空にも苺のソフトクリーム」

立花「え?・・・あ、本当ね、ソフトクリームが空を泳いでるみたい」

二人は苺のソフトクリームを食べ終わるまでの間、言葉を交わすこともなく空を泳ぐ苺のソフトクリームを眺めていた。


三話 三咲君の楽しみ

学校。

三咲「♪」

立花と出会った次の日。三咲は珍しく鼻歌を歌っていた。

友人A「三咲なんか機嫌いいな」

友人B「うんうん、三咲が珍しく楽しそう!」

友人C「なんかいいことあった?」

三咲「うん、ちょっと面白いもの見つけた」

友人B「え、なになに!面白いものって!」

三咲「秘密」

三咲は机に頬杖を付きながら窓の外を見た。

雲がモコモコとまるでソフトクリームみたいに浮かんでいる。


四話 地下道

地下道を歩いていた時だった。

立花は地下道に乗って出社しようとしていた時だった。

立花は盛大に転んでしまった。

ズダーン!!

財布がカバンから落ちる。

立花「いたた・・・最悪・・」

膝丈のスカートを履いていた立花は右脚を擦りむいてしまった。

周りの人達が笑った。

「いい歳して真っピンクの財布かよ」と。

更にヒソヒソ声が聞こえてくる。

「お前助けてやれよ」

「やだよ、若い子ならいいけどおばさんじゃん」

こういう時、白馬に乗った王子様が助けに来てくれるのは若くて可愛い子だけだ。

友人A「あちゃー、あの人痛そう!」

友人B「てか財布めちゃピンクだったな」

友人C「それな・・・って三咲!?」

三咲は立花の元へ走った。

三咲もまた学校まで地下道に乗って登校していたのだ。

三咲「何やってんの」

三咲は素っ気ない口調をしつつもスッと手を差し出した。

立花が顔を上げるとそこにはまだあどけなさが残る少年の顔があった。

立花「君はこの間の・・・ありがとう、悪いわね」

少年は白馬に乗った王子様、ではなかったけど私にとってスーパーヒーローだった。

前に公園のアイスクリーム屋で会った時も同じように庇ってくれたっけな。

三咲「別に」

立花が立ち上がって歩き出した後、三咲は待っていた友人たち三人と合流した。

友人A「え、何、三咲あの人と知り合いだったの?」

三咲「うん、まぁちょっとね」

友人B「何だよちょっとって」

三咲「うーん、アイスクリーム屋でとなりに座ってた人?」

友人B「それだけで!?」

友人C「なぁ、それより腹減ったー」

友人A「何言ってんだこれから登校だろう」

友人B「朝飯食って来なかったのか?」

友人C「食ったよ!丼で」

友人A「相変わらずの大食いだな」

三咲はすっかり朝ごはんの話をしながら歩いている三人にバレないように立花を視線で追った。

立花はちょうど突き当たりを曲がった所の改札口に入るところだった。

長い髪が揺れ、切れ長の目が横顔から見える。

前髪は左右に分かれていて、長い髪は後ろでキュッとキツめに縛ってある。

少し遅れて三咲たちも行く。

あの人は何駅で降りるんだろう。

三咲はふとそう思った。

しかし、そんな疑問はすぐに解決した。何故なら降りる駅が同じだったからだ。

電車で二駅。

友人達は気付いていないようだったが三咲だけは違いすぐに気付いた。

隣の車両に乗っていた立花が見える列車の連結部分の近くを確保し、

立花の動きを三人に気付かれないようにずっと見ていたからだ。

そのことに立花は気付いていない。


五話 二人

仕事の帰り道、立花はゲームセンターに寄った。

立花の会社があり、三咲の学校がある街。二人が降りた駅に近いゲームセンターだ。

立花は時折仕事のストレスを発散する為に来るのだ。

その時、一人でレースゲームをしている男子高校生を見つけた。

立花「不良」

三咲は急に話しかけられたことに驚きもせずに返事をする。

三咲「今どき不良って古くない?」

立花「はいはい、どーせ私は古くさいおばさんですよ」

三咲「古いとは言ったけどおばさんだなんて言ってない」

立花「君、最近よく来るね」

三咲「うん、あんたがいるから」

立花「え?」

三咲「ここのゲーセン、よく来るんでしょ?」

立花「え、ええ、そうだけど・・・」

三咲「あんた、この後暇?」

立花「暇だけど・・・」

三咲「ちょっと付き合って」

立花「付き合うってどこに?」

三咲「メシ」

立花「遅くなったら親御さんが心配するわよ」

三咲「ヘーキ、母さんも父さんも俺に興味ないし一緒に暮らしてもないから」

立花「え、それじゃあ今どこに住んでるの?」

三咲「一人暮らししてる、お金だけは支援してくれてるから」

立花「そう・・・よし、今日はおばさんが奮発したげるわ!好きなもの食べなさい」

三咲「その分自分の好きなもの買いなよ、俺、自分の分は自分で払うから割り勘でいい、バイトしてるし」

立花「そ、そう?分かったわ」

予想よりずっとしっかりした子だわ。弟だったらタダ飯だって飛び付いてくるのに。


カフェ。

何気ない会話の中。

三咲「それであんたは・・・」

立花「あんたじゃなくて橘立花よ、立つ花でりっか、目上の人と話す時は敬語を使いなさい」

三咲「俺は気にしない」

立花「あのねぇ・・・まぁ私に対してはいいわ、あ、てゆうか君の名前もまだ聞いてなかったわね、何て言うの?」

三咲「葵三咲」

立花「字はどう書くの?」

三咲「三に咲くだよ」

立花「ふぅん、なんだか春っぽくていい名前ね」

三咲「あん・・立花さんは女の子っぽいってバカにしないんだね」

立花「しないわよ、気にしてたのね」

三咲「俺は嫌いじゃない、母さんが付けてくれた名前だから、でも笑われることが多い」

立花「あら・・・三咲君はお母さんが大事なのね」

三咲「別にそんなんじゃない」

立花「素直じゃないわねぇ」

三咲「だめなの?」

立花「え?」

三咲「思ってること言えないとだめなの?」

立花「そんなことないわよ、それに思ってること言い過ぎても良くないしね」

三咲「そうなの?」

立花「大人になればなるほどね」

三咲「ふーん」



六話 守りたい

二人が歩いているところを不良に絡まれた。

男性1「いてーな、何すんだよガキ」

男性2「慰謝料払えよ慰謝料」

明らかに向こうからぶつかってきたのに三咲にイチャモンを付けてきたのは立花より2〜3歳年下の男性二人組だ。

三咲「いや、ぶつかってきたのはあんたら」

男性1「はあ?何だとー!?」

男性1が三咲の頬を殴る。

三咲が殴られ、立花が庇うように立った。

立花「ちょっと!大人が子どもに暴力振るうなんて最低よ!」

三咲「俺、子どもじゃない」

立花「今はそんなこと言ってる場合じゃないでしょ」

男性1「おばさん、金持ってそうじゃん」

男性2「俺ら金に困っててさぁ、くれない?」

立花「嫌よ」

立花は二人を睨みつける。

男性1「ババアが一丁前に出しゃばりやがって」

男性2「一応女だろ?痛い目見たくなかったら金出せよ」

立花「ババアだろーが女だろーが関係ない、

この子の未来はねぇ、私やあんた達と違ってキラキラしてるの

あんた達なんかに傷付けさせやしないわ」

三咲「立花さん・・・」

その時だった。近くにいた警察官が近付いてきた。

警官「おい、そこで何してる!!」

男性1「やばい警察だ!」

男性2「逃げるぞ!」

警官「大丈夫か?」

立花「ええ、でもこの子怪我をしているの、病院へ連れて行くわ」

警官「それなら病院まで送ろう」

三咲「いいよ別に、これくらいへーき」

警官「いや、さっきの二人組がまた狙ってくるかもしれない、ひとまず今日は送らせてもらう」

立花「送ってもらいましょうよ、その方が私も安心だわ」

三咲「そう・・・立花さんがそう言うなら」

立花「ありがとう」

警官"仲良い兄妹だな"


病院。

治療が終わり、会計をしようと財布を出した時だった。

受け付けの女性「お会計はお姉さんがしてくれたので大丈夫ですよ」

三咲「え?」

椅子に座って三咲が戻ってくるのを待っていた立花は立ち上がった。

立花「行きましょうか」

三咲「あの、立花さんお会計・・・」

立花「ああ、いいのよ」

三咲「でも・・・」

立花「それより、さっきは守ってくれてありがとう」

三咲「あー、別に・・・」

三咲は照れ臭くてうつむき加減で言った。

立花さんは確かにちょっと変わってるけど根はいい人だ。

だってありがとうをちゃんと言える人だから。

俺の周りには俺も含めてありがとうやごめんなさいを言えない人が多い。

俺もいつか立花さんみたいに言えるようになるかな。

いや、いつかじゃない。今言わなきゃダメだろ。

三咲「あの、立花さん」

立花「なーに?」

三咲「あり、がと・・・」

立花「ふふ、どういたしまして!」

ありがとうと言えただけなのにその日は妙に清々しかった。

立花さんの笑顔が見れたから。


七話 受験勉強

高校三年の冬。

ゲームセンターを出て歩いていると、立て掛けてあった鉄パイプが三咲の方に向かって倒れてきた。

立花「三咲君!!」

三咲「え」

ガシャーン!!

立花「うぅ・・・」

三咲を庇った立花。倒れてきた鉄パイプの下敷きになったのは立花の左足だった。

三咲「立花さん!立花さん!!」


一週間後。

病院。

立花「三咲君、来てくれるのは嬉しいけど受験勉強優先して?」

三咲「俺、受験より立花さんの方が大事」

立花「だめよ、その気持ちは嬉しいけれど私なんかの為に大事な将来でしょう、勉強しなさい」

三咲「分かった、勉強はする」

立花「ホッ・・・」

三咲「ただし」

立花「?」


次の日。

どうなってんの?私の病室で三咲君が勉強をしてる。

三咲「♪」

しかもめちゃくちゃ嬉しそうだ・・・。

まぁいっか。こんな風に懐いてくれるのも三咲君が私に飽きるまでよねきっと。


カラカラ。

病室の扉を開ける音がした後、立花の母と弟が部屋に入って来た。

母「あら?あなたは・・・」

三咲「俺はえーと・・・」

達也「なんだ、姉ちゃんついに高校生に手出したのか?」

立花「そんなわけないでしょう、友達よ、と、も、だ、ち」

三咲「トモダチ・・・」(しょも)

カタコトの日本語で言った後で俯く三咲を達也は横目で見る。

達也「・・・」

立花「三咲君って言うの」

母「あらまぁ、立花の為にわざわざありがとうね」

三咲「ああ、いえ・・・元はと言えば俺のせいなので」

母「ねぇ達也、コーヒー買って来てくれない?」

達也「ほーい、あ、三咲君も行こうぜ!」

立花「ちょっと達也、三咲君まで付き合わせるなんて悪いじゃない」

三咲「いいよ立花さん、俺も行く」

立花「そ、そう?弟が付き合わせちゃって悪いわね」

三咲はふるふると首を横に振ると達也について行く。


休憩所。

達也「で?三咲君は姉ちゃんのどこが好きなの?」

三咲「え・・・」

三咲の顔が桜色に変わる。

達也「やっぱり・・・あんなののどこがいいの?うちのねーちゃん、年齢うんぬんの前にだいぶ変わってるでしょあの人」

三咲「うーん、分からない」

三咲は首を傾げる。

達也「ふーん」

三咲「今はまだ子どもだから言えないし」

達也「ま、だろうな」

三咲「でも」

達也「うん?」

三咲「20歳になったらもらいに行くんで」

三咲は不敵な笑みを浮かべた。

竜也「マジか」

達也は目を見開いて数秒止まった後、三咲の肩にぽんっと手を置いた。

達也「ま!俺は応援するぞ!」

三咲「・・・」

この人もだいぶ変わった人だな。あの姉にしてこの弟とありって感じ。


三咲が帰った後。

達也「姉ちゃん、三咲君が姉ちゃんのこともらいに来るってよ」

立花「は?何それ、あんたまさかそれを本気にしたわけじゃないでしょうね」

達也「はー?」

何だこいつという目で達也はベッドのヘッドボードを背にして座っている姉を見る。

立花「三咲君は今こそ懐いてくれてるけど、まだ子どもなんだからすぐに私と友達でいるのにさえ飽きて他の子にいくわよ

彼女ができたら私なんかポイよポイ」

達也「はー・・・姉ちゃんにっぶ!そしてめんどくさ!そんなんだから元カレどもにフラれんだよ」

立花「何ですってー!?」

ギャーギャーと言い合い二人。

カラカラ。

その時、お手洗いに行っていた母が戻って来た。

母「ほらほら、達也、お姉ちゃん病人なんだから」

達也「病人っつったって足折れてるだけだろ」

母「何言ってるの、足が折れていたら充分病人でしょう」

やれやれ。気付くも何も一年前に告られてるんだよなぁ。とはさすがにこの二人には言えないけど。

立花は小さくため息をついた。


八話 告白

三咲君が高校2年の夏。

アイスが食べたいと言う立花さんとコンビニに寄った。

立花「アイスくらい奢るわよ」

三咲「だめ、俺が買う」

本当ならフランス料理とかイタリア料理とか奢れるくらいになりたいけど今はこれが精一杯だった。

ハーゲンダッツを二つ購入。いちご味だ。

立花「ありがとう」

高校生にアイスを奢ってもらってしまった。しかもハーゲンダッツ。ちょっと罪悪感。

近くの公園のベンチに座って食べる。

三咲「あのさ」

立花「なーに?」

三咲「三年経って二十歳になったら告白するから、その時は俺と付き合って」

立花「うんうん・・・あえ?」

三咲「本当に?」

立花「え、えーと三咲君ありがとう、こんなおばさんにそんなこと言ってくれるの君くらいのものよ」

三咲「信じてないでしょ」

立花「え?」

三咲「いいよ、今は信じなくても、でも一つ約束して」

立花「何を?」

三咲「あと三年は誰とも結婚しないって」

立花「心配しなくても誰も私を嫁になんてしないわよ」

三咲「約束して」

三咲の圧に思わず立花は・・・。

立花「わ、分かったわよ・・・」

しまった。つい受け入れてしまった。

三咲「♪」

三咲君、凄く嬉しそうだわ。きっと三年どころか来年には私に飽きてしまうでしょうね。

でも、そうね、今はこの笑顔が見れただけで良しとするわ。


九話 未遂

病室。

カラカラと扉を開ける。今は立花一人だけのようだ。

三咲「立花さん?」

立花「すぅ・・・」

立花は穏やかに寝息を立てていた。左足には痛々しいギプスと包帯が付けられている。

三咲を庇ってできた傷だ。

三咲は寝ている立花を数秒見つめると思わず顔を近付けた。しかし・・・。

カラカラ。

母「あらま」

達也「おっと邪魔したか」

三咲「あ・・・」

達也「三咲君、俺はいいと思うぜ!」

達也はそう言うと親指を立ててグーサインをする。

三咲「いや、あのこれはその・・・」

三咲はしどろもどろになる。

母「三咲君・・・」

三咲「は、はい」(ビクッ)

母は手で口元を押さえながらコソッと小声で言った。

母「チューは卒業まではバレないようにね」

三咲「えと、これは違くて・・・俺・・・」

キスしようとしてたのは本当なので弁明の余地なしだった。


一〇話 二人暮らし

三咲「三年経ったね」

立花「うん?」

三咲は指輪をいそいそと立花の手を取り左手の薬指に付ける。

立花「あの??」

三咲「あんまり高くないけど・・・立花さん、俺と結婚して」

立花「あのー、三咲君?気持ちは嬉しいんだけどその前に私の気持ちは無視なの?」

三咲「うん、もう待てない」

まるで悪さをしてご飯をお預けされていた猫のような表情で三咲は立花を見る。

この子って時々そういうとこあるのよね・・・。

でも、ずっと本気だったんだ・・・本気で私を好きでいてくれたんだ・・・。

三咲「やっぱりただのバイトじゃダメだよね、俺高校の時から何も変わってない」

立花「バイトだってなんだっていいじゃない、三咲君が真面目に働いてるの知ってるよ」

三咲「でも・・・」

立花「慌てて結婚しなくたって私はどこへも行かないわよ」

三咲「それって立花さんも俺が好きってこと?」

立花「ええ、認めるわ、私、三咲君が好きよ」

三咲「良かった・・・じゃあ結婚しようよ」

立花「三咲君、私の話聞いてた?」

三咲「だってもっと一緒にいたい、俺、三年も待った」(しょも)

ぐっ・・・その顔は卑怯じゃないの。

三咲「あ、でも俺が借りてるアパートボロボロだし4.5畳だから二人は狭いか・・・それに一人専用って書いてあったし・・」

立花「じゃあ、私のアパートに来る?」

三咲20歳。立花32歳。2LDKのマンション。

こうして三咲と立花の二人暮らしがスタートした。

帰り道、夕陽が街を照らしていた。ふと立花は空を見上げる。

立花「あら、あの時と同じね」

三咲「あ、ほんとだ」

そこには空を泳ぐ苺のソフトクリームがあった。

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