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極悪島〜地獄に舞い降りた灰色の天使〜  作者: 赤井"CRUX"錠之介


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奇怪な知らせ

「秘密? 警察は本当に無能ですね。今ごろになって、友愛学園の捜査に来たんですか?」


 吐き捨てるような口調の灰野に、谷部はかぶりを振った。


「違う。この学園は、確かにロクでもねえことをやっている。でも俺は、こんな連中をパクるために派遣されたわけじゃない」


「じゃあ、何のために来たんです?」


「この島の沿岸には、とんでもないものが沈んでいたんだ。生物兵器だよ」


「はあ? 生物兵器?」


 さすがの灰野も表情が変わる。矢吹たちに至っては、開いた口が塞がらない……といった様子だ。

 そんな彼女らに向かい、谷部は話を続ける。


「君らがまだ生まれていない頃の話だ。日本の新興宗教団体『オモイカネ』が、革命を起こすべく極秘裏に生物兵器を開発していたんだ。もともと、幹部信者の中に七三一部隊の子孫がいたらしい。そいつの家には、七三一部隊が密かに残していた研究資料の一部を保管していたんだよ。その資料を元に、ちょっと厄介な生物兵器を作り出した」


「オモイカネ!? 確か二十年以上前、繁華街で毒ガスを撒いた宗教団体ですよね!?」


 高杉が、上擦った声で口を挟む。だが他の少女たちは、そんなもの知るはずもない。

 対する谷部は、笑みを浮かべ答える。


「よく知ってるなあ。その通りだよ。オモイカネは、非常に危険な連中だった。教祖は、世界に天罰が降り文明が崩壊し、完全な無法地帯と化す……信者たちに、そう予言していたらしい」


「なるほど。その予言を現実のものにするため、毒ガスを撒いたわけですか」


 灰野が言うと、谷部は頷く。


「そう。奴らは二十年以上前、完成した毒ガスを都内に散布した。結果、十人以上が死んだ。さらに、今も後遺症に苦しんでいる人が相当数いるという話だ。それだけでも許せない話だが、連中は別の生物兵器も作っていた」


「その教祖さまは、よっぽど生物兵器が好きなんですね。そんなに好きなら、他人に吸わせず自分で吸えばいいんですよ」


 そう言った灰野に、谷部は苦笑しつつ頷いた。


「ああ、そうなんだよ。で、その生物兵器は殺傷力が低い。だが、少しばかり面倒な奴だったんだよ。もっとも、その兵器の完成直後に、警察が強制捜査に踏み切った。教団施設は徹底的に調べられ、教祖と幹部信者たちは不特定多数の市民へ無差別テロを企てた容疑で逮捕され死刑となった」


 聞いている少女たちは、唖然となっていた。そんな事件の存在自体、全く知らなかった。ましてや、そんな連中の作り出した生物兵器とかかわり合いになろうとは……。

 そんな彼女たちに、谷部は授業でもしているような口調で話を続ける。


「しかし、彼らの作り出した生物兵器は発見されなかった。記録によれば、奴らはその生物兵器に『レイビーガス』と名付けたらしい。逮捕の前日に、レイビーガスの入ったボンベを隠したのさ。だが、この話はマスコミには発表されなかった。あの時期にレイビーガスの存在を国民に明かしたら、パニックが起こる可能性もあったからな」


「SFホラー映画とかでは、ありがちな展開ッスよね」


 鹿島が、訳知り顔で口を挟んだ。


「そうだよ。だから、上層部はその事実をあえて伏せることにした。さらに、その後の地道な捜査により、ボンベが極楽島付近に沈められていたことも判明した。後は回収するだけ、のはずだったんだよ。ところが、予想外のことが起きる。まず、元警視庁総監の岡田啓一が極楽島を買ってしまった。その上、友愛学園なる施設を島に建設してしまったんだ。学園の所有地となった極楽島は、うかつに上陸できなくなってしまったんだよ」


「で、あんたら警察はどうしたんだ?」


 矢吹の問いに、谷部は険しい表情で答える。


「こうなった以上、全ては秘密裏に行うしかなくなった。そこで、まず俺が教師として学園に潜入した。元傭兵ってデタラメの経歴を作り、首尾よく学園に潜入は出来たんだ。それからは、隙を見て島を捜索した。時間はかかったが、どうにかボンベの沈んだ位置を割り出した。次に、雇ったダイバーが密かに島に行き、ボンベを海底から引き上げた。後は、そのボンベを俺の上司に引き渡すだけだった。ところが、引き上げる際に何らかのトラブルが起きたらしい。ダイバーは、そのガスを吸ってしまったようなんだ。結果、とんでもないことが起きちまった」


「どんなことです?」


 恐る恐る聞いたのは高杉だ。彼女もまた、この事件に興味を持ってしまったらしい。


「ダイバーは、死人みたいに青白い顔で、ふらふら歩いて学園までやって来た。当然、警備隊は止めようとする。三人出て行ったが、ダイバーは警備隊に襲いかかった」


「なんだよそれ……」


 思わず呟いた東原だったが、谷部は語り続ける。


「ダイバーは、三人の警備隊を気絶させ学園内に侵入したんだ。それが、ちょうど君らが浜口先生を殺害し逃走した直後の出来事だった。だから、君らの脱走はバレていない。しかしね、そんなことは些細な問題だ」 


 言った後、谷部は一同の顔を見回した。わかったかな? とでも言いたげだ。教師だった時の態度そのままである。

 少しの間を置き、谷部は再び口を開く。


「本題はここからだ。襲われた警備隊に、ダイバーと同じ症状が起きた」


「ちょっと待って。症状って何?」


 聞いた東原に、谷部は真顔でとんでもないことを言う。


「その前に、レイビーガスを吸ったらどうなるか説明する。まず、気分が悪くなり気絶する。それから何時間か経つと、思考能力が低下し精神が錯乱した状態で意識を取り戻す。そして狂暴になり、周囲の人間に襲いかかる。それだけでも、充分に恐ろしいんだが……レイビーガスの本当に恐ろしいところは、そこからなんだよ」


「どういうことッスか?」


 尋ねたのは鹿島だ。彼女の表情は皆と違う。ワクワクして仕方ない、という感じだ。


「レイビーガスを吸い、ウイルスに侵された者に噛まれると、傷口からウイルスが侵入する。つまり、吸血鬼に噛まれるようなものなんだ。吸血鬼に噛まれた人間が吸血鬼へと変わるように、レイビーガスを吸い狂暴化した者に噛まれた人間にも、同じ症状が出るんだ。しかも、このウイルスに侵された人間は、恐怖と痛みを感じないらしい」


 その時、灰野が鋭い表情で口を挟む。


「なかなか面白いストーリーですが、そんなアホな話を信じろと言うんですか?」


「俺が嘘を言っているというのか?」


 ジロリと睨む谷部だったが、灰野は怯まず答える。


「当たり前ですよ。どこぞの宗教団体が、怪しげな生物兵器を作った。そいつにやられて、学園の人間は皆おかしくなった……そんな三流ホラー映画みたいな話、誰が信じるんですか?」


「だったら、君の目で確かめればいい。一緒に学園まで行こうじゃないか」


「嫌ですね。行った途端、隠れていた警備隊に取り押さえられた……なんてオチが待っていそうで、怖くて行けませんよ」


 灰野が答えた時、矢吹が口を挟む。


「じゃあ、あたしが行くよ。あたしが谷部さんと学園まで行って、中の様子を見てくる」


「はい? 何を言ってるんですか?」


 表情を歪め問う灰野だったが、矢吹は怯まず話を続ける。


「あんた言ってたろ、学園内でとんでもない事件が起きてるから、追っ手が来ないんだって。そのとんでもない事件が生物兵器なら、辻褄が合うじゃないか。それにさ、本当に生物兵器が漏れ出ているのなら、放ってはおけないからね。あたしは、この目で確かめたいんだ」


「学園の人間が何人死のうが、あなたに何の関係もありません。それに、これが罠だったら、あなたは奴らに捕まるのですよ。その場合、死んだ方がマシだと思うような目に遭わされます。いいんですか?」


 灰野が強い語気で尋ねると、矢吹の表情が曇る。だが、それは一瞬だった。


「あたしが帰らない時は、みんなで逃げればいいよ」 


 そう言うと、矢吹は谷部の方を向いた。


「谷部さん、行こう。今のあんたが、嘘を吐いてるとは思えないんだ」


 その時、高杉が叫ぶ──


「待ってください! 矢吹さんが行くなら、あたしも行きます!」


「何を言ってるんですか!?」


 顔をしかめる灰野だったが、高杉は怯まず言い返す。


「矢吹さんひとりを、危険な場所に行かせられません! それに、私も自分の目で確かめたいんです!」


 その表情は真剣そのものだ。灰野が困った表情で何か言いかけた時、またしても口を挟む者が現れた。


「ちょっと待ってくださいよ、僕も行くッス。これって、もろにゾンビ映画じゃないッスか。本物のゾンビ見たいッス。それに、ゾンビと戦いたいッス」


 言うまでもなく鹿島である。子供のような表情で訴える彼女に、灰野は頭を抱えつつ答える。


「ゾンビ映画って、そういう問題じゃないんですよ……」


「灰野、こうなったら止めらんないよ。だったらさ、全員で行こう。最悪、罠だったとしても、あんたひとりは逃げられるだろ」


 言ったのは東原だ。灰野も、仕方ないという表情で頷く。 


「そうですね。ただ、ひとつ条件があります。谷部さん、あなたの話が本当であるか確認できるまで、両腕を縛らせてもらいますよ。ついでに身体検査もしますし、ナイフも預からせてもらいます。この条件、呑めますか?」


「構わないよ。正直なことを言うと、俺ひとりじゃどうしようもない。君らの協力が必要だからな」










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