Story9 ー 兄 ー
Story9 ー 兄 ー
赤ずきん「そこでオオカミさん♪
赤ずきん、オオカミさんに提案があるの!」
ジーク「提…案…?」
無邪気にクルクルと回りながら赤ずきんは
ジークに提案をもちかけてきた。
赤ずきん「赤ずきん、
オオカミさんのこと気に入っちゃったから♪
…ねぇ、オオカミさん?
赤ずきんたちの仲間にならない?」
ジーク「………は……?………」
赤ずきん「だから~!赤ずきんたちと一緒に私達にとって幸せな世界を作ろうって言ってるの~!」
フラフラになりながらも
ジークは立ち上がり赤ずきんを
鋭く睨み付ける。
ジーク「……………断る。」
その一言に赤ずきんの顔から笑顔が消え
空気感が変わる。
赤ずきん「…あ?」
今までの赤ずきんからは
想像できないほど重い声色だ。
ジーク「だから、断るって…言ったんだ…」
赤ずきん「…………………そっかぁ~♪
…ざぁんねん!それじゃあ仕方ないっか♪」
一瞬空気感を変えた赤ずきんであったが
ふと我に返りもとの笑顔の状態にもどる。
ドゴォーン!!!!!
赤ずきんは再び教会へ岩を投げ始めた。
ジーク「…おい!!やめろ!!!
…やめろって!!!!」
赤ずきん「キャハ♪やめないよ~!!!
壊れちゃえ!壊れちゃえ~!!」
教会の中から泣き叫ぶ
こどもの声が聞こえてきた。
ピッグ属の子ども
「おかあさん!おかあさ~ん!」
ピッグ属の母親「大丈夫よ、大丈夫だからね」
神父「神よ…どうか我らをお救いください…あぁ…神よ…」
次第に教会の天井にヒビが入り始める。
ジーク「…くそっ!!!!…」
ジークは痛む身体になけなしの力を込めて
教会へ走り出す。
ピシ…ピシピシッピシッ
ジークの走りよりも早いスピードで
教会のヒビ割れも進む。
ジーク「…!!!!間に合え!!!!!」
そしてヒビ割れが限界点に到達する
煉瓦が割れる音と共に
天井が崩れ落下を始めた。
ピッグ属の子ども「うわぁぁぁぁ!!!」
ピッグ属の母親「きゃぁぁぁぁぁあ!!!」
ドゴォォォォォォォォォン!!!!!!
赤ずきん「キャハ♪あ~らら。
赤ずきんの言うこと聞かないからぁ!」
ピッグ属の子ども
「………あれ?…僕、なんで外に…?」
赤ずきん「!!?!」
舞い上がっていた土煙が収まると、
崩れた教会の外側に先ほど教会の中で泣き叫んでいたピッグ属の子どもや彼の母親、神父たちの姿があった。
赤ずきん「どういうこと!!?…まさか!!!」
赤ずきんが再び崩れた教会に視線を向けると
瓦礫の中から血を流したジークが煉瓦をかき分けて出てくる。
崩落の最中、瓦礫を全て吹き飛ばすことが無理だと判断したジークは一点集中の密度の高い風魔法でピッグ属たちをすくい上げ教会の外へと吹き飛ばした。その際わずかな風魔法を自分の身体にも纏わせた事により、降り注ぐ瓦礫の中で己の身を守り致命傷を避けたのだ。
赤ずきん「ンフフフ…キャハ…キャハハハハ♪
オオカミさん!あなたやっぱりおもしろい!
あの崩落の中アイツらを助けた上に死んでないなんて!!」
ジーク「…ハァ…ハァ…おまッ…えら…ハァ…早く…早く逃げ…ろ…」
ジークの言葉を聞いた
ピッグ属の母親は子どもをすぐに抱き上げ
「ありがとう…!!」と言葉にしながら頭を下げ、他の者たちと共にその場を後にする。
走るピッグ属の母親の腕からは
「お兄ちゃん…オオカミのお兄ちゃーーーん」とジークの身を案じる子どもの声がしていた。
ジークはその子どもの声が遠ざかり聞こえなくなったのを確認した後、少し気を抜いてしまい…
右足の力が抜け地面に崩れ落ちそうになる。
が…ギリギリのところで踏みとどまった。
「ここを通してはいけない。」
その強い思いだけがジークの既に限界をむかえた身体を支えていた。
ジーク「ここは…ハァ…通さねぇ…ッ…」
赤ずきん「…なんて優しいオオカミさんだこと。でも赤ずきんそういうの嫌いじゃないわ♪………う~ん、そうねぇ~…」
少し赤ずきんは考え込むと
何かをひらめいたように
ジークへ再度、別の提案を持ちかけてきた。
赤ずきん「オオカミさん♪赤ずきん~もうここでオオカミさんのこと、いじめたくないの!だ・か・らぁ~♪こんなのはど~お?」
立っているのがやっとなジークは
言葉を発することすら難しくなっていた。
赤ずきん「オオカミさんが赤ずきんたちの仲間になってくれたら♪この街みんなにはもう痛いことはしないわ!」
ジーク「………(何言って…やばい…意識が…)」
赤ずきん「もしも~し?オオカミさ~ん?
聞こえてますか~?」
ジーク「………………」
赤ずきん「あれれ~、立ったまま気絶しちゃってる~!ざんね~んお返事聞きたかったのに……うーん…ま、いっか♪今日のところは楽しませてくれたお礼に待ってあげる!またあそぼ~ね~♪オオカミさん♪」
赤ずきんの合図と共にゴーレムたちは列をなし移動を始め、そのまま煉瓦の街から姿を消した。
ジーク「………ン…ンン…」
トト/リル「「おにいちゃん!!!!!」」
ジーク「あれ…ここは…それに…痛みがない……」
自分の身体を確認するジーク。
ジーク「傷が…全部塞がってる…」
ピノ「目を覚ましたかい?ジーク。」
ジーク「おいピノ、いったい何がどうなって…さっきまで教会に居たはずなのに…なんで俺はピノの家に居るんだ?…そうだ!!あいつは!!赤ずきんの野郎はどうなったんだ!!!」
ピノ「君が気を失っている間に赤い頭巾の少女たちは街を出ていったよ。…また明日来るという言葉を残して…ぼくは街から彼女たちが出ていく姿を確認した後、君を探しにセメントストリートに行ったのさ。そしたらそこで気を失ってボロボロになっている君を見つけた。」
ジーク「お前が俺をここまで運んでくれたのか…ありがとうピノ。」
ピノ「君があんなにもボロボロになるまで街を守ってくれたのに、僕らは何も出来ずただ君の無事を祈ることしかできなかった…すまない。」
ジーク「謝らないでくれ、お前たちは…ちゃんとリルとトトを守ってくれてた…ありがとう。」
ピノの強ばった表情が少しだけ緩む。
ジーク「俺は…どのくらい気を失っていたんだ?」
ピノ「約半日だ…」
ジーク「そうか…じゃあもうあまり時間はないか…」
ピノ「……………。」
しがみついているリルとトトの
頭を優しく撫で微笑むジーク。
撫でられているリルとトトも満面の笑みだ。
ジーク「もしかして、このキズ治して元気にしてくれたのは、リルとトトか?」
トト「そうだよ!!リルがキズを治して、ぼくがお兄ちゃん元気にしたの!!」
リル「トト!ズルい!私が言いたかったのにー!!」
ジーク「ハハッ!そうかそうか!お前らすごいぞぉ~!!ヨシヨシヨシ~!」
ジークが更に激しく撫で回すと
リルとトトはキャッキャッと笑い
和やかな時間が訪れる。
リルの双子の兄『トト』は
〖細胞を活性化させる〗風魔法が使え
妹の〖リル〗は
〖キズやケガを癒す〗風魔法が使えるのだ。
少しの和やかな時間を噛み締めたジークは
再び、重い口調で口を開けた…。
ジーク「…トト、リル。聞いてほしい。」
リル「なぁにー?お兄ちゃん」
ジーク「お兄ちゃん…ちょっとしばらく出掛けなきゃいけなくなっちゃったんだ。」
トト「しばらくってどれくらい?」
ジーク「…わからない。一週間かもしれないし1ヶ月かもしれない。もしかしたら何年も帰れない可能性だってある。」
ピノ「…!!!ジーク…きみ!まさか!!」
ジークは決意した目でピノのことを
ジッと見つめる。
全てを察したピノは、
ゆっくり頷きジークの話の続きを見守る。
リル「やだ!やだ!お兄ちゃんとずっと会えないなんてやだー!!!」
ジーク「大丈夫だ…リル。絶対に帰ってくるから。」
左腕でリルを優しく抱きしめるジーク。
そして右手でトトの肩をしっかり掴み、
真っ直ぐな瞳でトトを見つめる。
ジーク「トト…俺が留守にしている間、リルのこと頼むな。お前は強くて格好いいお兄ちゃんだ!大丈夫!お前なら絶対にリルのこと守ってくれるって…お兄ちゃん信じてるからな。」
兄の真っ直ぐな瞳に、強い意思に。
その強い言葉とは裏腹に、
わずかに少しだけ震える兄の右手に
何かを感じたトトは、
溢れ出る大粒の涙をこらえ。
大きく頷く。
トト「…グス…わがっだ…」
その言葉を聞いたジークから
優しい笑みがこぼれる。
ジーク「えらいぞ!それでこそ、兄ちゃんの自慢の弟だ!」
その言葉を聞いたトトは堪えていた涙を再び溢れさせる。
「うわぁぁぁん!おにいちゃぁぁあん!!!」
ジークは泣きじゃくる
ふたりの身体を思いっきり抱きしめた。
もしかしたらこれが最後になるかもしれない…そう思いながら強く…強く。
ジーク「トト…リル…愛してるぞ…」
抱きしめた手に更に力が入る。
ジーク「バリ………頼む…」
バリ「…わかった。」
~♪~♪~♪
聴こえてきたバイオリンの音色に
泣きじゃくっていたトトとリルの声は静まり
そのまま眠りについてしまう。
ジーク「…ありがとう、バリ。」
次男ブタ『バリ』は
自分の奏でるバイオリンの音色に魔力を込めることで、その音色を聴いた相手に限り
彼の任意で眠りにつかせる音魔法を使うことができる。だが、その成功率は相手の魔力量によって左右される。自分より魔力量の少ない相手だと成功するが、自分より魔力の多い相手への成功率は五分五分といったところだ。
ルト「ふたりを部屋で寝かせてくるよ。」
そう言うと、バリとルトはそれぞれリルとトトを抱き上げ奥の部屋へと寝かしつけにいった。
ピノ「…行くのかい?…」
ジーク「あぁ…。…意識が朦朧とする中、
赤ずきんの野郎は…俺があいつらの仲間になれば
この街には手を出さないと言った…。
悔しいが今の俺じゃあいつには敵わない…
もうこれしか方法はないんだ…。」
ピノ「ジーク…」
ジーク「大丈夫だ!
どれだけ時間がかかったとしても、
俺はあいつらを追っ払って…必ず…
…必ずここに帰ってくる。」
ピノ「…わかった。リルとトトのことは心配しなくていいよ。僕らが責任を持って面倒見て、何があっても守りきるから…。」
ジーク「ありがとなピノ…頼んだぜ。」
ピノが頷くと、
ジークは立ち上がり身支度を整える。
そして玄関のドアのぶを回し、扉を開けた。
外からは冷たい空気が部屋に流れ込んできた。
そしてジークは、まだ朝日が昇っていない
暗闇の中へとその歩みを進めた。
ギィィ…ガチャン。
扉を閉める音が
静寂の中、悲しげに部屋に響いた…。
Story9 ー 兄 ー
Story9 ー 兄 ー
お読みいただきありがとうございました!
今回は、〖兄〗というテーマで
それぞれの〖兄〗たちにスポットライトを少しだけ当ててみました。
Story11では、
いよいよ過去回想が終わり
今のところ全く活躍してない『佑』がいる現在に戻ります。
そして、本編Story11の前に
物語の基盤となるおとぎ話。
Story10
『ハッピーエンド』の伝説 を挟みます。
引き続き読んでいただけたら嬉しく思います!
宜しくお願いします!