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8話 ヘプト村大改革2

現在、ヘプト村の改革においてボトルネックになっているもの。

その電力問題がようやく解決した。これにより自動工場の生産機能を50%の稼働率で動かすことが出来る。

100%の稼働率でないのは資源の問題だ。つまり、電力が解決した今、次のネックは資源問題である。

此処の地下の資源は比喩なく枯渇寸前で、これ以上の採掘による地下の拡張は危険だとセブによる計算結果は伝えてくる。

幸い、深く掘れば半径10km以内でニッケルやボーキサイト、鉄や銅は確保できることが判明している。

その調査の為、ヴェローサ、チョビ、ナナ、エンジを始めとするいつものメンバーと、ヘプト村にいたサイともカバともつかない大型のキャストに鉱石スキャナーを引いて村の周りを2日かけてチェックしたことを思い出す。

「バイク用の装備以外、まともな服を持ってきてないんだもんな。クリーニングもできないし、下着以外は替えがない。しかし、森の中を薄着で歩き回りたくもない。服を作ってもらうか」

ヘプト村には人間が居ない。そのため、エンジは個人的な要求はあまりしていなかった。しかし、そろそろ余裕も出てきたし、相談してみるか。と考える。

「チョビ、ナナはどこにいるか知ってるか?」

本来、ナナを呼ぶのには探す必要はない。地下にいる限り、大声で呼べばマイクから集音して駆けつけてくれるからだ。それでも目の前で首を傾げているチョビに聞いているのは何となく呼びつけるのは気が引けるからだった。

ちなみに、エンジは今現在、地下施設の人間用区画にいる。元々は自動工場の管理などの為に用意されているオフィスの様なもので、片付けが済んでいる現在、地上でテントを張るよりは快適なのでこの区画で寝泊まりしている。

「ん?」

ピーと電子音がチョビから鳴ると同時に首の下から地面に向かいルート表示が投影される。

チョビは肩をすくめるような動きをしながらやれやれ、また私の知らない機能が作動したようだ。とでも言いたげだ。

「多分、この矢印に従っていけばたどり着くのかな」

チョビとエンジは頷き合い、矢印を追う冒険に出ることを決めた。

「もうたどり着いちゃったよ」

およそ5分の短い冒険だった。

「おはようございます。エンジ様、チョビ様。何か御用でしょうか?」

ナナは作業ボットの細かい指示を一旦止め、こちらに向いて微笑んでくる。それだけで得をした気分だとエンジは思う。

「ああ、わがままを言って悪いんだが、そろそろ服が欲しくて。ここのオフィス区画の服は全部だめだったから、どうかなと?」

「はい、かしこまりました。ポリエステルの作業着タイプの物でしたらすぐに用意できそうです」

「おお!ありがたい。じゃあよろしく頼みます」

そして朝食の魚をいつものように吊り上げて食し再び地下施設へ戻ると服が用意されていた。

かなりスタイリッシュな作業着でイメージしていた服と一致するのは薄い水色という色のみだった。

「どうだチョビ?似合っているか?」

ズボンと合わせて着替えると何となく興味があるのかじっと見つめるチョビに聞いてみる。

チョビは特に答えることもなく体を摺り寄せる。

あー、これはネコが自分のにおいを付ける奴だな。と考え、興味があるのでなく、自分のにおいを付けるタイミングを見計らっていただけだったことに気づく。

チョビの背中を撫でながら、今日の予定を整理する。

今日は地下設備にある予備発電機のオーバーホールが完了するはずだ。あとはヘプト村の自衛のための警備ボットも生産されて地上に5台試験投入される。

「ボットか」

明確に意思を持たない修理ボットや警備ボット、資源回収ボット達は家畜のような扱いで現在は落ち着いている。エンジのバイクにしてもそうだが、自意識がなく、決められたルーティンとプロンプトでしか動けない為だ。

最終的に、プロットテストという仮想の物語が理解出来るかどうかで判別することで納得している。

そして、今日のエンジの予定は夕方に警備ボットが完成すると仕様を確認すること以外にないことに気づく。

「じゃあ、服もできたし。あれやるか」

チョビは何もわかっていないが楽しいことが待っていると思いエンジの後をついていく。その先に地獄が待っていると考えもせずに。

「どうしたチョビ?ほらこっちだ」

チョビは現在、完全に腰が引けている犬のようだった。

理由はエンジがいる地下設備の一画にある新しくできた設備のせいだ。

「ほら、そろそろ使わないと何も進まないんだから早くこっちにこい」

渋々というかあきらめた感じでチョビは招かれるままに指示された場所に立つ。

此処は洗浄区画。超音波洗浄機からアルマイト設備まで揃った割と広い区画だ。

チョビは磨かれたステンレスとファイバープラスチックで成形された床はいくつかの大きさに区切られておりチョビサイズの床がゆっくり下がっていく。

床に乗るキャストの大きさによって洗浄層の大きさを変えれるように設計してあり、今のところ思惑道理に進んでいる。

「よし、チョビ。洗浄液を注水するぞ」

そういうとエンジは洗浄プロセスを進める。

チョビの立っている床から洗浄液が満たされていき丁度全身が浸かる。

キャスト達はもれなく防水防塵でエンジがいたころから言えば信じられないレベルの技術レベルを持っている。生物でいう脳と骨髄にあたる部分はシリカとエポキシをゲル状にした液体で守られており、仮に外部のケースが割れて浸水しようとも重要な箇所は水からもゴミからも衝撃からも守られるようになっているらしい。そのため幾ら水につけても大丈夫とのことだ。

現状、モニターしている限りチョビはおびえている以外問題なさそうだ。

「超音波洗浄開始するぞ」

洗浄液がジェットバスのように対流を始めると同時に超音波によるメインの洗浄が開始される。

「うわ、こりゃあすごいな」

みるみるうちに水が汚れていく様をみて若干引くが仕方がないことだろう。何度かの循環を得てだんだんと洗浄液が汚れなくなっていく。

「よし、チョビ上にあげるぞ」

そろそろころあいかと考え洗浄液を排出させながらチョビを出す。

早速チョビは自分の変化に気づいたのか足の裏をそれぞれチェックする。

「どうだ?気持ちよかったか?」

犬や猫のように全身を振るう仕草をしながら何となくすっきりしましたという表情をしている。気がするので続けてブロワーで残った水滴を飛ばしていく。

「じゃあ次だな」

え、まだやるんですか?と言いたそうなチョビを尻目に同じ洗浄区画のアルマイト設備に連れていく。

此処のアルマイト設備は液体に浸けるのではなく、電化とイオンで噴霧される溶液を触媒にアルミニウムなどを表面処理できる。

「ほら、その白ボケしつつあるメインフレームを綺麗にしてやるからなー」

チョビのボディの適当なところに配線をくっつけて塗装の容量で溶液を噴霧する。

本来は変に酸化してしまった層を綺麗にする必要があるのだが、そういった表面の層の下から表面処理できるらしく最後にもう一度洗浄層で綺麗にすることでチョビは見違えるようにピカピカになった。

さすがに細かい傷は取れないがそれでも見違えるようだった。

「おーいいねぇ。なんか車やバイクの洗車みたいだ。ガラスコーティングもかけたしな」

ガラスコーティングは冗談でナナに提案したのだが、重要な副次効果が見込めそうらしい。具体的にはカメラなどの光学センサー部がきれいに保てるだけで随分と視覚処理ユニットに負担がかからないらしい。所謂眼精疲労たいさくだろうか。

チョビはいつもより凛々しそうに立っている。どう?頑張ったでしょう?と言いたげだ。

「じゃあ、地上にでて皆にその姿を自慢しに行こう」

チョビはもちろん!という感じで一緒に地上行きエレヴェータに乗る。

まずはヴェローサに見せびらかしたいのだろうか、真っ直ぐにヘプト村の入り口へ向かうとヴェローサにちょいちょいと手を当てる。

「...!?どうしたのチョビちゃん?何があったのその体...」

ヴェローサは信じられない物を見たという雰囲気だった。表情は変わらないので想像だが。

「どうだいヴェローサ。見違えただろう、このチョビの姿!」

エンジがチョビの後ろから声を掛けるとヴェローサは何も言わずにエンジの方へ近寄ってくる。

...どことなく怒っているような足取りだ。そのままエンジの前に来るとこう言う。

「私も、ああなりたい!どうやったの?」

チョビを指さしながら圧力をかけるように問い詰めてくる。

「ああなりたい。って綺麗になりたいってことでいいんだよね?」

「そうよ!さぁ早く説明して実行に移しなさい!」

「うーん。じゃあ説明も兼ねて実際に体験してもらおうか。口で説明してもわからないだろうし」

エンジは新しい実験体が出来たと少し嗜虐的な顔で微笑むとウキウキで付いてくるヴェローサにもチョビと同じ地獄を見せるのだった。

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