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7話 ヘプト村大改革

あのヘプト村管理者会議から早1週間。地上設備は大きな変化はなく、村の片隅で発電設備の建築準備が始まっている所だった。

しかし、目の届かないところ。地下設備は大きな変化を迎えている。

不要となった物や壊れたもの等をすべて再生炉へぶち込む大規模なお片付けが終了したのだ。

その結果。地下設備の大きさに改めて驚くことになる。

具体的には原子力空母のように独立した集団生活圏を持てるようになっており、野球会場とサッカー会場とラグビー会場を作っても余裕がある程度には広い。

その敷地のほとんどは自動工場に充てられているが人間の居住空間も十分な広さがある。

地下施設の割合は工場部門が4割、倉庫部門が2割、維持管理部門が2割、発電部門が1割、居住空間が1割といった割合だった。

ちなみに、資源採掘の面積はこれとは別で勘定されており、面積は大した大きさではないが深さがかなり深く、到底人間が生身で向かえるような環境ではないらしい。

「エンジ様、おはようございます。先日、地下施設根幹部分の修理が完了いたしました。発電部門は地上の発電設備が整ってからですが、現状トラブルはありません。工場部門はもともと5%程度しか稼働しておりませんでしたが、現在は操業を完全停止し修理を開始しております。こちらの修理が完了すれば、加速度的に復旧は進みます。エンジ様の居住空間については今しばらくお待ちください」

ナナが微笑みながら声を掛けてきた。今日も一日が良い日になる気が何となくする。それほどの美貌を持っているボディはセブ曰く特殊なカスタムモデルらしい。

主には卑猥な機能だったが...

(まぁ、前の管理者の性癖はかわいそうだから掘り返さないであげよう)

朝ご飯を食べ終わったあと、8時を少し過ぎたころの時間だがナナやセブには日夜は関係なく24時間体制で常にどこかを修理している。

「大丈夫ですよ。今日から空気の循環と温度管理が行われているおかげでかなり楽ですし」

「そう言って頂けるとありがたいです。工場部門は本日15%の復旧を予定しております。よろしくお願いいたします」

「ああ、今日も任せて下さい」

今現在の仕事内容はもっぱら機械で行えない作業だ。

継続利用可能な部品の判断や細かい配線、配管の修理、ボットが認識できない異物の確認等だ。

自分の世代からすればとても進んだ修理ボットだが、それでもやはり認知のエラーは少なからず起こってしまう。

今までは無視してきたが今回はせっかく工場が止まっているのでこういった細かなところもネガを潰していく。

そして作業に没頭すること5時間。復旧予定の15%を完了したとナナから報告を受けた。これで明日からはネズミ算式に発展が進んでいくはずで、原材料がある限りヘプト村の未来は明るいものとなるだろう。

(いや、もう一つ懸念事項があったか。)

現状、電力問題もソーラー発電設備の建設で解決の目途が立っている。

キャストの生産も修理も大丈夫。エンジのヘプト村における市民権も問題ない。

その懸念事項の対策の為、ずっと聞くか迷っていた質問をする。

「ナナさん、この設備で武器を作ることは出来るんでしょうか?」

「エンジ様...それは何のための物でしょうか?」

「それは、ヘプト村の自衛のためです。このまま村が豊かになっても得をするのはヘプト村はおろかキャストの皆でもない。この養殖場を管理してるクロイワ領のやつらだ...話を聞く限りではとても良い関係を築けているとは思えないし、管理している人間が増長するのは想像に容易い。ナナさんはどう思いますか?」

「はい...率直な意見を言いますと、私もそう考えます。しかし私はエンジ様を含む人間のことを信じるほかありません。私の中にあるオーダープライオリティは人間が優先です。そういった観点から申しますと、ヘプト村は重要ではなく、守るべきはこの自動工場とエンジ様だけなのです」

冷たい物言いで申し訳ございません。と言葉を続けるが、その考えは理解できなくもない。むしろ、この施設を管理する者として言えば真っ当な意見と言えるだろう。

「重要度、優先度という意味では恐らくその理屈が正しいのだと、俺も思います。しかし、此処は教育が行き届いている社会とは思えません。教育がなければ人は獣と同じで、利益の為に他種族を平気で従僕させたり排除、絶滅させるでしょう」

「はい、チョビ様のデータからは、此処の社会は衣食足りて礼節を知るという状況までもう少しかかりそうでした。中途半端に技術が残っているためか、いびつな発達の仕方をした階級社会と形容できます」

エンジもナナからチョビが人間に使役されていた頃の日常を見せてもらったが、中世ヨーロッパとも、現代とも違う独自のカオスな社会だった。しかし、道徳の面では技術に発達が全く追い付いていない。

「もちろん俺も最初から人殺しを行いたいわけじゃあないんです。こう、スタンガンとかゴム弾とかテーザー銃とか。そういう自衛手段です」

最初、この村の入り口で銃器に見えたものはカタツムリに似たキャストの望遠監視ユニットで、少なくとも此処には銃はおろか火薬もなさそうだ。

「そう、ですね。示威行為の為、ですね。わかりました。警備ボットを量産リストに加えました。暴動鎮圧も可能で、エンジ様のおっしゃられるテーザー銃の様な物と非致死性かつ鎮静薬液を包んだプラスチック弾を射出できます。他にも網や音声による警告等も可能です」

「ありがとうございます。早速、地上の警備を行えるようにヘプトさんへ報告してきます」

ナナに頭を下げ、地上へのエレベータに乗る。物資運搬と人間の昇降に使われていた比較的小型の物だ。それでも乗用車が1台乗る程度のサイズと耐過重性がある。

(これのおかげで大分移動が楽になった)

そんな考えをしつつ、ヘプト宅の一角へ到着する。

「ヘプトさん、こんにちは。少し報告があり参りました」

「おお、エンジ殿。今日も修復作業お疲れじゃ。それで報告とな?」

「はい、私はヘプト村の皆さんが、キャストの皆さんが人間に隷属させられる社会を年と思っておりません。しかし、人間側はキャストの皆さんをただ都合よく使役する力を持っており、また武力衝突も厳しいと言えます。そこで、自衛の為の手段を手に入れるべきと考えています」

「うむ。そうじゃの...わしもそこについてはずっと懸念しておった。しかし、一度刃を交えれば...温情で残された者たちも皆殺しじゃろうて」

ヘプトはとても悲痛そうな声でそう語る。

「しかし、エンジ殿が今こうして発展に助力してくれておる。日に日に活力を増していく村の様子は隠し通せるものではないじゃろう。理に聡い人間が攻め込んでくれば結果は変わらんじゃろうて。自衛の手段について教えてくれるかの」

そうヘプトは何かを納得したように頷きながら話を促してきた。

「まず、前提条件として人命を奪うことはできうる限りしないというのがあります。あくまでこちらにも抵抗手段があり、人間と同等かそれ以上の武力を持っていると思わせることで武力衝突ではなく対話による人間との本当の意味での共存を実現したいためです。徒に人命を殺めることは共存の道を閉ざし、全面戦争になるでしょう。そうなれば現状では数も多く一方的な使役から逃れられないキャストの皆さんはあっという間に絶滅の道を歩むことになる。そう想像します」

「わかっておる。わしは今までいろいろな人間を見てきた。伊達に長年生きてはおらん。これまでに理想はどうあれ共存の道を示そうとしてくれた人間がいることも事実じゃ。もちろん、エンジ殿の様な変わり者もそうじゃ」

「ええ、そうですね。ありがとうございます。そこで、実際の自衛の手段についてですが、非殺傷の抑止力を備えた警備ボットを村の中に自衛団として置きたいと考えてます。そして、その自衛団の団長としてヴェローサを起用してほしいとお願いします」

「なるほどの。うむ。まずはその警備の者を見てからにはなるがよい考えじゃと思う。もともとヴェローサには似たような仕事をしてもらっておったんじゃ。ありがたい助言じゃとも思う」

「では?」

「うむ。それでお願いしよう。ヴェローサには...」

「はい、俺から話をします。ご許可頂きありがとうございます」

「こっちこそ。ありがとうじゃ」

エンジとヘプトはお辞儀をし合い、エンジはヘプト宅から外へ出る。最初のころは毎回護衛がついていたが、今では顔パスだ。

ヴェローサを探すと門の近くでチョビの遊び相手になっている所を発見する。

「おーい、ヴェローサ」

エンジが手を振りながら声を掛けるとヴェローサより先にチョビが走って寄って来る。

「遊びたいのはやまやまなんだが...すまんな。ヴェローサと話が合って」

チョビはクゥーンとでも言いそうな表情でヴェローサに対面を譲る。

「で?私に何の用事?」

腰に手を当てて顎をしゃくりながら聞いてくる。相変わらず小生意気な態度だ。

「ああ、ヘプトさんに許可も貰っているんだが、ヴェローサに自衛団として隊を率いて欲しいんだ。部下は今生産しているからまだだけど」

「ふーん。何で私なの?」

「今までの行動を見ててヴェローサが最もふさわしいと思ったから。かな」

「えへへ...そう、そういうならしょうがないわね」

「うん。まかせるよ。詳細は部下が増えたら詰めよう」

そう言いながら何となく村を見回す。

発電の為の建造物は基礎ができてきていた。元々、地下のジェネレータを管理していたセブやその部下たちが急ピッチで建築をしているからだろう。下手すると明日の朝には基本的な構造物は出来上がっているのかもしれない。

「衣食揃って何とやらか。人間側の改革も必要だけど。キャスト側も改革していけるだろうか?」

そう呟く。

(元の世界に帰れる保証はない。推測から考えると恐らく...不可能だ)

エンジは自分がいた時代から未来へタイムスリップしていると暫定している。

エンジが知っている宇宙の法則がすべてなら、未来にタイムスリップすることが可能でも過去にはできないことを嫌でも理解できる。

なぜそうなったのか?なぜ自分なのか?もしかしたら選ばれた理由があるのか?

そう考えると、今ここで自分にしかできないことをするべきだ。

そう考えると不思議と使命感が湧いてくる。

(まずは、ヘプト村の大改革だな)

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