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6話 情報共有

さて、まずは情報を整理しよう。

俺、セトウチ エンジは不可思議な状況に置かれている。

決して目の前で行われているヴェローサとナナのチョビの取り合いに発端するしょうもない言い合いなどではない。

いや、確かに状況の1つであることには変わりないが、そういう意味ではない。

オートバイでソロツーリングをしていた、人が消えると噂のトンネルを怖いもの見たさで走行していると、突如、機械と人間と怪物が絶妙な関係性で複雑な社会情勢を持った世界に来てしまったのだ。

しかも、剣と魔法とは言わないが、魔法に準する何かは存在しているようで、使役者と呼ばれる一部の人間は機械たち...俺は彼らの種族名をキャストと呼んでいるが、そのキャストを奴隷のように、しかし一方的に主従関係を結べるようで、強靭なキャストは人間の戦力強化、人間同士のいざこざ等に利用されているらしい。

現在、俺はそんなキャスト達の居住地域、ヘプト村にお世話になっている。

幸いにも、一緒にこの世界に来たオートバイには野宿できる道具が一式揃っていたので食べる物にも寝る場所にも、衣服にもひとまず問題はない。これについては幸いだった。

「チョビちゃんはね、この背中の所を撫でられるのが1番好きなのよ!だから、チョビちゃんの最大の理解者は私なの!」

「いいえ、ヴェローサ様。チョビ様は頭部後方のIMU取り付けフレームを優しく撫でられる際に最も反応が出ます。データは嘘をつきません。私、ナナの膝上に乗せるべきです」

そんな考えをどこかへ追いやるようにヴェローサとナナの論争が始まる。

チョビ、お前も不憫なやつだ。だがすまない。俺にはお前を助け出す手段はない。だから、そんなに俺を見つめないでくれ。

あと、ナナ、チョビは確かにネコっぽいが、膝に乗せると身動き取れなくなると思うが...

「オホン。ヴェローサ。そろそろ話を元に戻してもらえるかの?」

たまらずヘプトから声が上がる。会議がなかなか進まないので当然の反応である。

仕方がないので、チョビをひとまず俺のもとへ連れてくる。チョビはどことなくほっとしているように見えた。

「どこまで話しましたっけ?」

誰となく聞いてみるとセブさんが答える。

「この村の現状についてだったな。今この村に残っている同類...キャストだったか、それの分類についての話で、建築、管理、医療の分野の者が多いというところまでだぜ」

「ほう、そうなのか。知らんかったのう。しかしわしは管理だったか...」

ヘプトは分類としては管理らしい。確かにここまでの記憶を思い出すとそういう傾向があったと思う。

「で、私は医療関係と」

ヴェローサは意外なことに医療の分野だった。その話を聞いたとき、思わず「意外だ」と漏らすと少し小突かれたのを思い出す。変なところを気にする奴なのだ。

「で、ゴリとゴラは建設関係なのね?」

ヴェローサが確認するようにゴリとゴラを見ながら発言する。村長室の隅に立っている2人は「そうなんすね」と答えてそれ以降は特に興味がなさそうだ。

「で、チョビは管理関係?ヘプト様と同じというのは何か納得できないわ。別にチョビの資質に疑問を感じているわけではないのだけど...」

何処となく釈然としない雰囲気でヴェローサはチョビを見る。

「はい、正確には、チョビ様はヘプト様の為の機能の1つと言うのが正しいのです。今、私が地下施設にあるターミナルから無線通信でこの体を動かしているように、同じことが出来るはずなのですが、失礼ながら、ヘプト様は機能不全のようで使用できないようです」

すかさずナナが解説を入れる。

「私が今、この体で地上にて活動できるのは、このボディの機能の1つです」

そういうと、ナナが頭のメカメカしいツインテールを撫でながら解説を続ける。

「この頭部に装着されたブレードアンテナのおかげで地下からでもボディを動かすことが出来ます。セブもこのボディを通じて通信を行っているのが現状です」

(やけに大きいと思っていたツインテールはそういうシステムだったのか)

「ここまでの話で気づかれたと思いますが、私、ナナもセブも管理側です」

と、ナナが語りきるや否やヴェローサが食って掛かる。

「それで、あなたがチョビを乗っ取るって話になったのよね?そんなの許可できないわ」

「確かに一部的には乗っ取ることではありますが、それはお互いについての理解を容易に深める為の手段です。そして、ヴェローサ様はチョビ様の代弁者でも保護者でもありません。チョビ様からはすでにデータ共有の許可は得ております。どうして邪魔するのですか?」

また始まった、と、ヴェローサとナナ以外の全員が察してしまう。

しかし、さすがに同じ内容の論争をループするのは我慢できなかったのか、ヘプトが一喝入れる。

「ヴェローサ!このままではチョビの修理までに日が何日もかかってしまう。そろそろ話を次に進めるために協力してやらんか!」

「っ、わかり、ました」

少しわがままだったと反省したのか、しゅんとしている。

確かに、チョビのことを心配してのことだったと考えれば理解できなくもないが、ループする話し合いは建設的ではないと同じく思う。

なおのこと、データ共有の為とはいえ、チョビ自身の主導権をナナに譲るのは乗っ取りと同義ではある。

もちろん、何ら危険性はないのだが。

「では、チョビ様失礼します」

ナナがチョビのO/Iポートに配線をさす。

「4522時間分のデータを確認しました。共有を開始します。バックグラウンドで処理をしますのでデータコピー完了まで2間程度かかる見通しです。会話は問題ございませんので、このまま状況報告を続けさせて頂きます」

「おお、よろしく頼むの」

ナナとヘプトの会話内容は俺には問題なく理解できている。しかし、ヴェローサには言葉の意味が分からないこともあるようだ。

「でーたとかばくぐらうんどって何?」

(ヴェローサ、お前、横文字ダメなのか...名前は完全に横文字なのに...)

ヘプトは問題なく理解している。当然、ナナもセブもそうだ。

「ああ、まぁなんだ、あとで説明するからわからなかった言葉についてあとで質問してくれ」

その場でいちいち説明すると進行を妨げるので後で纏めて解説することにした。

「では改めまして、自己紹介いたします。私は、この村の地下に建設されている第7多目的自動工場でバックアップAIをしておりました。AIナナでございます。そして、こちらが...」

「その自動工場の一部を維持管理していたセブンスだ。セブと呼んでくれ。よろしくだぜ」

ナナとセブは合わせて頭を下げる。ナナは人型なのでともかく、セブの方はどちらかというとクモに近い形なのだが、お辞儀をしていると何となく伝わる。不思議だ。

ナナ達側の説明は基本的にナナ自身が行うようだ。

「冒頭で軽く説明を行いましたが、まずここ、ヘプト村も自動工場の一部です。地上設備はほとんどがなくなり、今やこの村長宅と呼ばれている地上連絡管理棟のみのようです。本来、地表の大半は太陽光発電設備に覆われており、製作されたキャスト達の待機場と物資集積場が建っておりました」

当然、今のヘプト村にはその面影もなく、砂利で覆われている。

「地下施設の稼働時間は約960年と記録されています。2070年9月22日以降から地下施設にて人の出入りの形跡は確認できません。おそらくその日に何か大きな出来事が起き、状況が一変したと考えます。ちなみに、エンジ様の時代、2025年から計算すると、1005年経過している計算となります」

(1世紀どころか10世紀も経ってるのか...途方もなさ過ぎて焦りも何も湧いてこないな)

ナナの説明は容赦がなかったが、現実感もなにもついてこないので情報の1つとして落ち着いて記憶に入れる。

当然と言えば当然だが、ヴェローサやヘプトさんはその桁の大きさにただただ驚いているようだ。

「自動工場の構造体はカーボナイズドステンチタンで構成されており、基礎的な建築部分について劣化はほとんど見られません。そのため、エンジ様にはお話をしておりましたが、約1週間で施設の根幹部分は修復可能と思われます」

地下施設がそれなりに綺麗な状態で建築物としての形を残していたり、村長宅が、ヘプト村に存在する岩と竹で組まれた建物なのに対し明らかに先進的だったのはこれが理由のようだ。

「ふむ、ではわしらの方で何か手伝えることはあるかの?」

同じ種族、キャストとしてのよしみとしてヘプトさんは協力を惜しまない姿勢のようだ。

(まぁ、人間である俺に対しても温厚な対応だった。単にヘプトさんの人柄がよいだけだろう)

「はい、ヘプト様。地上部分の空いている敷地に発電用設備であるソーラーアップドラフト発電場の建設許可をご裁可願います。占有敷地面積は50mx50mの敷地が必要です。また、建築物の高さは90mです。今現在まで、ヘプト村のエネルギーは地下施設の発電機で行っておりました。しかし、地下の発電設備はあと6か月で修理資材と解体で発生する再利資材の供給が追い付かなくなり破綻します。さらに言えば、発電用の燃料採掘も枯渇寸前です。我々キャストはエネルギーの、電力の供給があってこそ繁栄が可能ですが、このままですと人間でいう飢餓状態となり、ヘプト村に住まわれているキャストの皆さんは機能停止となってしまいます」

「むむ...それは大変なことじゃ。わしも人間たちの噂で聞いたことがある。同類の村で皆が機能停止に陥り、自裁村として放棄される養殖場があると。うむ。もちろんお願いしたい。許可しよう。わしはこの建物から出られんのでな。すまんが建築場所はヴェローサと相談してくれ。」

「ヘプト様。ご許可いただきありがとうございます。ヴェローサ様。後ほど相談に伺います。」

「了解したわ」

ひとまず、電力供給問題は解決に向かったようだ。

「ほかにわしの許可が必要なことがあるかのう?」

「はい、地下施設の修理と機能復旧の為、地下部分の管理権限を現状のまま私にお任せ頂ければ幸いです」

「もちろんじゃ。むしろ、わしにはわからんことの方がいいじゃろて。他にはどうかの?」

「現状、大丈夫でございます。感謝いたします。では、引き続き状況の説明です。現在、地下施設の管理監督者は空席のため、エンジ様に着任頂きたく思います。如何でしょうか?残念ながら役員報酬は支給出来かねますが...」

「ああ、大丈夫だ。あと給金は気にしなくていいぞ。こんな世界では貨幣もまともに使えるかわからないしな」

(正直、幾ら貰ってたのかは気になるがな)

「助かります。エンジ様には後ほど、地下設備の人間用部分に関して相談させていただきます。よろしくお願いいたします」

「わかった」

「以上でお二方のご許可により自動工場の復旧は可能となりました。」

「俺からも例を言う。ありがとうだぜ」

俺とヘプトさんの了承を得られたことにナナとセブが感謝を表し礼をする。

「あー、でも色々と材料はどうする?鉄資源だとかはどうするんだ?」

「大丈夫だ。俺とナナの権限がほぼ全ての設備を掌握しているから不要な部分を解体して資材を用意したりして問題なく補える計算だぜ」

「そうなのか。まぁその辺りは2人に任せるのがベストかな」

「はい、お任せくださいエンジ様」

ここまでで、一旦ナナによる話は終わりのようだ。

「じゃあ、チョビの修理について俺から。えーと、セブさんから適合する部品を預かってる。それで、ちょうど今チョビも寝ている所だし、この場で説明をおこないながら修理を行いたいと思うがどうでしょう?」

チョビの修理部品の入ったバスケットを持ち上げながらヘプトに許可を求める。

「うむ、そうか。それはよかった。わしも修理の内容や方法に興味があったのじゃ。こちらこそお願いするのじゃ」

「了解です。では早速、ヴェローサ助手君、チョビをそこの台に乗せるのを手伝って貰えるかな?医療関係のキャストとしての実力を見せてくれ」

「はいはい、わかったわ。でも、私何にもわからないんだけど...」

「わかってる。冗談だよ」

「医療はわからないけど、人間の弱点は知ってるわよ?」

軽く冗談を言い合える程度には結構仲良くなれたなと思いつつチョビの元へ2人で向かう。

正直に言うと、チョビはとても重い。重量を測ったわけではないが、80㎏程度はあると思われる。とてもじゃないがラグドール状態のチョビを1人で抱えることはできない。

前足側を持ち上げて後ろ足側をヴェローサに手伝ってもらい台の上に乗せる。

修理のための工具も一式持ってきているので準備万端だ。

「生物の手術と違い、皆さんキャストの修理は感染症等の危険がないのである程度の清潔な場所が保たれていれば問題ないと思われます」

実際に、人間の体を開けようものなら無菌室や清潔な衣服、除菌されて綺麗な道具等ここでは明らかに手に入りそうにない状況を要求される。

だが、キャストの基本構造は機械であるため、一部を除きそういった状況を必要としないだろう。

「今回の修理箇所はオイルタンクとアクチュエータ用高圧ホースの修理です。」

そう言いながら、チョビの損傷個所を指さしつつ解説する。

「まず、前回俺が応急処置を行ったオイルの補充ですが、正しい種類のオイルに変えるため一旦排出させます」

ドレンボルトを緩め、高圧ホースも外す。結構な量のオイルが出てくるが、用意しておいたプラスチックバットで受け止める。約2リットルほど出てきた。

ヴェローサは出てくるオイルを少し心配そうに見ている。人間でいえば大量に出血しているような光景なので、気持ちもわからなくもない。

「で、オイルが抜けているのでついででホースも変えておきます」

今回交換する高圧ホースはすべてクイックロックで固定するタイプの為、此処について工具は必要ない。

「もし、自分自身でホース交換を行う場合は、接続口に異物が入らないように、そして真っ直ぐ差し込むようにしてください。挿入後はロックがかかっているか必ずホースを揺すってあげてください」

ヘプトは真剣そうな目で見ている。正直、どこが目かわからないが。

「最後にオイルタンクですね。これは内部に残量を図るためのセンサーが入っているので、その部品は再利用します。」

プラスチックでできたオイルタンクをオイルポンプとコントロールバルブユニットの一体化した部品と思われるケースから取り外す。

こういった機械的な部品は自分の常識がまだ通じそうでよかった。オイルポンプは電動のトロコイド式と思われるし、コントロールバルブも恐らくソレノイド管理だと思われる。

正直、人工筋肉だとかAIだとか聞いたこともない合金だとかはわからないことが多いがこの程度なら問題なさそうだ。

「おっと、これは...」

オイルタンクが矢によって割れたとき砂利等が入っていたようだ。オイルポンプのストレーナには異物が幾つか引っかかっていた。

「このストレーナと呼ばれる網状の部品はこういった異物を体内に巡らせないようにする門のような場所です。出来る限り綺麗にしてあげてください」

今回は作動オイルの交換に合わせてエレメントも交換する予定だったが、ストレーナの様子を見る限り正解だったようだ。

「この様に異物が内部に入らないようにストレーナとそのあとにエレメント、この紙でできた筒状の部品でさらにオイルを濾しています。今回は交換しますが、必ず交換する必要もないと思います」

オイルポンプと一体になっているフィルターケースを開けて内部の濾紙部分を交換する。

「正直、大体は目で見て汚れているかは判断できません。通常は年数か稼働時間に応じて交換するべきですが...恐らくヘプト村の皆さんは交換したほうがよいでしょう」

容易にメンテナンスできるように部品がセクションごとに分かれているので幸いにもトラブルなく損傷のあった部品は交換で来た。

最後に5wの指定されているシリコンオイルを投入する。ちなみに、オイルは密閉容器に入っていたが、100年前に製造された物だった。セブ曰く問題は無いそうだが...

こうして修理を終え、オイルで汚れた部品を洗い、道具と台を綺麗にして片づける。そこでふと考えを思いつく。

「ここにはお風呂...というか綺麗に出来る場所はありますか?」

誰となく問いかける。

「わしが知る限り、すまんがこの村にも周辺にもないのう」

「エンジ様、地下施設の修復が出来れば人間用のシャワールームやキャスト用の洗浄層などが利用可能になります。今しばらくお待ちください」

「そうですか。ありがとうございます。じつは、皆さん大分汚れているので綺麗にしてあげたいと思っていたんです」

「もしかして...私...臭かった?」

ヴェローサは恥ずかしそうに声を出す。

「いえ、有機物的な臭さじゃないので我慢できますよ」

そう答えたが何か逆鱗に触れたようだ。

「!?やっぱり臭いんじゃない!」

そう怒鳴りながら、またわき腹を小突いてくる。

「エンジ様...その言い方はデリカシーにかけると思います。ところで私は臭くはないでしょうか?このボディはほぼ900年ぶりに外に出しましたので...」

何故かナナが困った顔でヴェローサを擁護した。思わぬ援護射撃にヴェローサがさらに便乗する。

「そうよ!でりかしーが何か知らないけど割れてるわ!」

「いやデリカシーは割れ物じゃないから。あとナナさんも臭くはないですよ。なんだか数年ぶりに開けた納屋みたいな。とにかく鼻につくにおいではないです」

はぁ。とため息をつきながら答える。

ナナは何故かとてもショックを受けたような顔をしていた。

「そういえば、ナナはそのボディでエンジの前に出るとき香水がない!って喚いてたな。俺には今嗅覚感知センサーがないからわからないが、そうか、少なくとも良い匂いではないんだな。俺には関係ないが」

「ええそうですね。セブさんからフローラルな香りがするとすごい違和感かもしれませんね」

「ちげぇねぇぜ」

「うむうむ。エンジ殿もナナ殿もセブ殿も、今後ともよろしく頼みますのじゃ」

仲の良く皆がやっていける。そんな未来をヘプトは見ているのだろう。そこには目を優しく細めホッホッホと愉快そうに笑っている姿が何となく見えた。もちろん外観はヘビだが。

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