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5話 修理の為の修理

『こちらです。エンジ様』

「了解。接続ポートはどれとどれを繋げばいい?」

『チョビ様の腹部バッテリー付近にODIOポートがあるかと思います。ケーブルはターミナルから伸ばせるものがあります。どのケーブルでもよいので接続をお願いします』

指示されるままターミナル機器のパソコンのI/Oポートに似た部分からケーブルを引っ張り寝転がったチョビに接続する。

正直、チョビは寝転がる必要はない。しかし、嬉しそうなのでバッテリーパックを撫でてやる。

「どうだ?うまく行きそうか?」

『...電源をバイパス中です。ターミナルは起動処理中、ダイアグノーシス開始、通常電源0%、予備電源15%、緊急電源2%で発電しているようです。効率はかなり落ちており、現在電力は地中のメタンハイドレートのみで賄っています』

「すごいな。何百年も稼働し続ける発電機とはな。本来の発電方法は何だったんだ?」

『太陽光発電がメインでした。電源が切断されているのか、発電機が故障しているのかは現段階では不明です』

「ひとまず、まだしばらくは施設の維持は問題なさそうか?」

『はい、あと6か月は問題ないかと想定します』

「ふむ、え!?6か月?いや、それまでに何とかすればいいだけか」

『はい、何とかします。まずは私の権限をより広く取り直しました。施設の維持修理システムの活動範囲をこの施設すべてに書き換えを行います。1週間もすれば主要部分は問題解決できると考えます。しかし、やはり一部は...』

「ああ、大丈夫さ、出来る限り手伝うよ。任せてくれ」

『ありがとうございます。早速ですが、汎用修理ボットディスペンサーが詰まっているようです。エマージェンシーレバーの操作をお願いします。場所はすぐ近くです』

ひとまず、AIナナに言われるままに作業を進める。簡単な配線の修理や物の移動、ボットの運搬などを手伝う。

『ヴェローサ様、そちらではなく、その右てにあります箱です。はいそちらを先ほどの部屋に持って行ってください』

「わかったわ」

『チョビ様はそのままエンジ様の近くでサポートをお願いします』

そんな感じで仲良く環境を整えていく。

修理ボットはすべての個体がバッテリーにトラブルを抱えていたが、倉庫に最近生産されたバッテリーがあったので交換する。

ちょうどヴェローサが部品を持ってきてくれた。

『一部の工場区画、地下発電区画の修理ボットを指揮下に入れることが出来ませんでした。私が感覚というのは変にお思いかもしれませんが、拒否の意思を感じました』

「拒否?どういうことだろうか?ここはもうすぐ終わるからちょっと様子を見に行こう。」

『はい、すみませんがよろしくお願いします』

やっている作業を終わらせると指示された場所へヴェローサ、チョビと赴く。

地下施設は人間が立ち入る箇所を中心として円状に広がっている。それをピザを切り分けるように区分けされているので、各区画には大して移動時間はかからない。

まずは工場区画の方に足を踏み入れた。

『侵入者に告ぐ!何の目的でここへ来た!?』

最初の避難アナウンスともAIナナのアナウンスとも違う声がこだまする。

同じ合成音声ではあるが、どことなく声音は男性寄りだ。

「俺の名前はエンジ!この施設の復旧を目的に伺った!協力して貰えないだろうか!?」

こちらも大声で返事を行う。

『なんだと!?俺はこの日をどれほど待っていたか...ということは、緊急事態の警報も先ほどのナナからの指示も嘘ではなかったか』

まだ数言しか会話していないが1つ、考えていた可能性がある。地上にヴェローサやヘプト、チョビの様な自意識を持つ者たちがいるのなら、生産現場にもいるのではないかと。

そう思慮しながらこちらの考えを伝える。

「AIナナには無理に従ってもらう必要はない!ただ、協力をお願いできないだろうか!?」

『わかった。俺の名前はセブと呼んでくれ。正式名称はセブンス・メインテナンス・アシスタンス・ターミナルってなげぇから』

「よろしく、セブさん」

『ああ、何百年とこの日をここで待っていた。全ての破綻をずっと先送りにし、何とか発電機と生産ラインを維持してきたがようやく他の設備もフルオーバーホールなどのメンテナンスができるんだな』

「ひとまず、そちらの状況確認を行いたいのですが、よいですか?」

『よし分かった。エンジくん、だったか。別にAIナナを嫌ってたりするわけじゃあねぇんだが、他人に権限を管理されることを出来るだけ避けたいんだ...ひとまず、その先のロビーなら椅子がある。そこで話をしようか』

「ありがとうございます。わかりました」

言われたままにロビーに進む。この区画は今まで見てきたところと比べるとまだ整然としている。

村長の部屋で見たのと同じ椅子に腰を掛け足を休める。

ヴェローサも少し離れて着席した。チョビは近くの地面に伏せている。

『まずは、感謝しよう。俺の管轄地域外は修理ボットに修理指令を出せない状態だったんだ。管理権限を取り戻すこともできない。修理作業を出すこともできない。ただ、すべての破綻を待っていたところだったんだ。とりあえず、俺とナナの外部観測ユニットを修理する。少し待っててくれ。詳しい話はそれからってことで』

「わかった」

「エンジ、私結局さっきの警報から今に至るまで何も理解できてないんだけどいいのかしら?これじゃ村長に説明できそうにないわ」

「ナナさんとセブさんに説明させればいいんじゃないか?想像通りなら外部観測ユニットってのは...」

そういった話をしているとすぐに2つの何かが部屋の奥から現れた。

片方は白いビニールの様な素材でできたシンプルなワンピースに見える外装を纏った、背の高くスタイルの良いツインテールの女性型キャスト。あまりにもメカメカしいツインテールの様な物がなければ、おそらく人間と区別をつけるのは難しそうだ。

もう片方は足が4本あるとても人とは呼べない造詣の如何にもな作業向けキャストだった。しかし、どことなく愛嬌を感じる動きからその異形に対する恐怖や敵対心は抱かない絶妙な外観をしている。

「む?もしかして新しい仲間かしら?にしても村長の家から出てこないなんて不思議ね」

チョビも短い尻尾を振って犬のように近づいていく。

(こいつ、見た目はネコっぽいけど、中の行動ルーティンは犬そのものだな。もしかして、本当は犬だったり?)

エンジは別に悩まなくてもいいことを少し考えるが、ひとまず目の前に現れた2人に声をかける。

「えーと、ナナさんとセブさんで間違いないですか?」

「はい、エンジ様。そうです。服飾がなく、飾り無しで人前に出るのは少し恥ずかしいですが、非常時につきご容赦ください」

予想道理だったが、まずは女性型の方からナナさんが返事をしてくる。表情も柔らかく、微笑みの威力は絶大で、少し見惚れる。

「で、俺はこれから現場でバリバリ作業したいから中型高等作業ボットの姿で失礼するぜ。」

4本足の方はそういうとクレーンアームの様な部分を手のように振る。全く人間らしい箇所は無いのに、どことなく職人気質で頑固なおじさんという雰囲気を醸し出している。

「顔合わせはこれでいいとして、俺はそろそろお昼ごはんを食べたいので、村長への報告も兼ねて地上に戻らない?」

スマートフォンで時計を見るとすでに13時を回っていたので、ヴェローサへ提案する。

「ええ、そうね。いいと思うわ」

「ナナさんとセブさんも外部に干渉できるようになったばかりの状態で申し訳ないのですが、一緒に地上へでて、現在のこの地上施設を管理しているヘプトさんと言う方と面談と事情の説明をお願いしてもよろしいでしょうか?」

「私は問題ありません。エンジ様のお食事も大事かと考えます」

ナナは微笑みを増しながら答える。

「ああ、エンジくん。面談は必要だし、地上の様子も見ておきたい」

セブも同意する。

「ありがとうございます。では、早速地上に戻りますか。ヴェローサ君、道案内を...」

「その必要はないぜ。メインホールから地上設備への直通エレベータを稼働させるぜ」

話の途中でセブがそう助言してくる。ナナもうなずいている動作から同意しているようだ。

「わかりました。ではすみません、お願いします」

そして、セブとナナに続いていき案内された直通エレベータへ全員で乗る。

(これは、おそらく村長宅内へのエレベータか)

大型バスでも楽々入るサイズのエレベータなので、全員で乗っても広々している。

「じゃあ、動かしてもらえますか?ナナさん」

「はい。皆さん、エレベータをB1から0階地上へ上昇させます。柵から身を乗り出さないようにお願いします」

直ぐにエレベータは上昇し始めた。スピードは遅いが、スムーズに上昇していく。

ヴェローサは不思議そうに上昇する床と下に下がっていくように見える周囲を見て混乱しているようだ。

チョビは、エンジの近くで少し不安そうに体を寄せている。

なお、エレベータには現在位置の表示がされる簡易的なアナログインジケータがついており、B1は220mの地下だったということが判明した。

少し経って、上部のハッチが開かれるといよいよ村長宅についたようだ。

やはり、というべきか、ヘプト村にいる多くのキャストがエレベータの近くで待っていた。

(警報は地上設備に届いていなかったようだったから大丈夫だと思うが...)

新しい仲間が出てくると思ったのだろう。しかし、現れた面々、ナナとセブを見て半分正解か、あとのエンジとヴェローサとチョビを見て半分不正解か、表情が分かればさぞ愉快な一面だっただろう。

「みんな、言いたいことがあると思うし、質問もあるだろうと思うけど、一旦村長と面会を行いたいわ。悪いんだけど、道を開けてもらえる?」

ヴェローサの一声で、少しざわついていた民衆だったが素直に指示に従い村長の部屋までの道を開ける。

集まってきていた村人の中に護衛役のゴリとゴラも交じっており、村長のいる部屋の両側に立っていた。

「ありがとう。みんな。」

「へぇ...」

「何?エンジ?」

「いや、ちゃんと尊敬されてるんだなって」

「!」

(ほ、褒めたのに)

ヴェローサにどつかれた肩をさすりつつ、ヘプトのもとへ向かう。

(お昼ご飯、食べれるのは遅くなりそうだ)

説明しなければならない情報の多さから、少し憂鬱になる。

此処からヘプトの明るい未来が始まると信じ責務を全うする為、チョビの修理の為、人間に従うという至上の喜びの為、施設の安定した稼働を守る為。

それぞれ個人の目的が頭の中で巡っていた。

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