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3話 チョビの修理の条件

周囲が明るくなったタイミングで目が覚める。

ふと、横を見ると猫にも似た4足歩行のロボット、チョビが横になっていた。

川辺で壊れて動けなくなっていたところを助けてから懐いている。

まだ、修理が完了していないのでこれからその方法を探していくつもりだ。

「おはよう、チョビ」

声をかけられたロボットはピーと鳴き声の様な音をいつものように出す。

ああ、やっぱり夢じゃなかったんだなと改めて実感させられる。

オートバイでツーリングしていたはずなのに、気づいたら全く身に覚えのない場所。しかもそこはおそらく平行世界か異世界かそんなところへエンジは来てしまったのだ。

まず、時間を確認する。AM6時だった。

スマートフォンで時間を確認したが、変わらず電波は入らないが幸いにもスマホの電池はまだ60%以上残っている。

最悪はバイクもあるのでそこから給電も出来る。しかし今のところ、オフラインマップと時計以外に役立ちそうにない。

(バイクは燃料の問題もある。しばらくは動かさないほうが吉か)

ともにこの世界に来たマルチパーパスモデルのオートバイ。最高出力170馬力を誇りかなりの荷物を積載できる。おかげで食料と燃料がある限りある程度はこの未開の地でも生きていけるだろう。燃料次第ではあるが。

まだまだたくさん問題はあると思いつつ寝袋から出る。

残念ながらお風呂に入れないので、寝る前にウェットティッシュで全身を拭いただけだ。

寝る前にバイクのライディングウェアは脱いでいたが、今日も様々なリスクを考え着用していく。ブーツにヘルメットにグローブも装備してテントから出る。

チョビは先に出て待っていた。今日も1日付いてくるようだ。

(さて、今日も情報収集頑張るか)

まず、前提としてこの村には修理する道具なり部品なりがあるはずだ。

何故ならヴェローサはこの村で"生まれた"と言っていた。

つまり、此処の村のどこかで部品の生産ラインや組み立てラインが動いているということで、そこでチョビの修理を行う算段を立てようと思っている。

テントからチョビと一緒に出ると、ヴェローサがどこかから近寄ってくる。

よく、美しい白い肌を「陶器の様な」と表現するが、本当に表面が陶器で構成されている機械の体で、外観のボディーラインや声音は女性。かなり気が強い村娘といった表現がしっくりくるのがこのヴェローサという"人物"だ。

「おはよう」

「ええ、おはよう」

「まずは、朝食を取りたいんだが、昨日の場所にまた釣りに行ってもいいか?」

「いいわよ。私も朝の見回りがあるし」

そのまま2人と1匹で村から出る。ちなみに、彼女らの数え方や扱いは生き物と同じでいこうと思っている。昨日、話をして自分の中でそうすることにした。ちなみに日頃は人間から何"体"だとか何"個"と呼ばれるらしい。

昨日と同じ場所で同じように釣ると今日も調子がよく、百発百中といった感じで瞬く間に2匹のアユが竿にかかる。

速攻で下処理をして、同じように焼きにかかる。

チョビは餌を待つ猫のように横でお座りしており、ヴェローサは目の届く範囲で周囲の川の様子や森の境目などを見回っている。

少し、準備運動をしたり、同じようにヴェローサと見回りをしてみたりしながら魚が焼けるまでの時間を潰し、若干焦げるまで焼き上げると朝食を摂った。

「昨日も食べたがうまい」

「よかったわね」

「この後は、ヘプトさんのところへ対談の続きを行いに向かう予定だが、良いか?」

「ええ、じゃあ、向かいましょう」

川辺から村内に戻る。

今日は昨日に比べて心にも若干余裕があるので村を歩く際に観察を詳しく行う。

視界の範囲では二足歩行タイプが50人くらいそれ以外が40匹くらいだろうか?村の大きさは500mX500mくらいだと思われる。

家の様な岩と竹で組まれた物は住んでいると言うよりも雨風を凌ぐ為の様なものでドアはなく、そんな前時代的な外観に対して内装にはガソリンスタンドの給油場に似た設備が見える。数えると50棟くらいが規則正しい配列で建っていた。

彼らの形状も様々で、ウサギの様な形からヴェローサの様なヒト型のものまで種類が多い。

不思議なのは、食事を取る必要はないはずなのに野菜などをいくつか収穫していた。ヴェローサに聞いてみたら「人間様への定期的な捧げものよ」と嫌味っぽく言ってきた。

村の中に畑のようなものは見えないので岩で組まれた堤防の様な防御壁の向こうにあるのだろうか。

(なるほど。搾取される立場というのは言葉通りだな)

村人たちをロボットと呼ぶのには今は抵抗がある。理由はロボットという言葉の語源にある。どこだったかの言葉で"強制労働"と"労働者"という言葉を合わせたものだからだ。

何か良い呼び名はないかと思い思案する。

(オートマタはあれだし、アンドロイドも意味が限定される。メカだとか機械は論外だな。うーん)

うーんとうなりながら前を歩くヴェローサを見る。どことなく、昔やってたゲームのキャラクター、種族名を思い出す。

「キャスト...」

意外といいなと思い呟く。

「?きゃすとって何?」

「あーいや、君たちって種族名ってあるのかなって」

「人間だとか怪物だとか植物だとか?みたいなの?」

「そうだね」

「亜人、亜種、機械奴隷、無生物、使役される物、消耗品、ごみ、ポンコツ、お好きにどうぞ」

ヴェローサは一語づつ指を折りながらそう返してくる。

「...自分たちでは名乗ってないのか?」

「そうね、名前しかないわね。でも、さっきのきゃすとって言葉、なんだか気に入ったわ」

気に入ったかと喜んだが、すぐに考え直す。

(キャストの設定ってサイボーグみたいな奴だっけ?いや、ゲームのシリーズごとに違ったような。そもそもヒト型だけだったか?)

だが、ヴェローサはその呼び名を気に入ったようだ。

「完成体とか環境適応型だとかよりよっぽど響きが良いわ」

「確かに、そうかもな...」

俺も人のことは言えないが、その種族名よりは良いかな。と思い、新たに決まってしまった種族名に対し否定をすることはやめることにする。俺も、名付けてしまったからには積極的にキャストという言葉を使っていこう。

少し機嫌の良さそうなヴェローサを不思議そうに見る者が途中から合流してきた。ゴリラ型のキャストであるゴリとゴラが護衛として今回もついてくるようだ。

やはり、そういった意味では警戒はまだ解けていない。

武器を持っていない人間だからと言って無力ではないと考えている。

ヘプトを守るための正しい判断だと思う。襲う気もないが。

昨日も見た四角い建物に入り、ヘビ型のキャストと出会う。

「管理者、ヘプトさん。昨日に続きお邪魔させて頂きます」

「昨日に続きよろしく頼むの。エンジ殿」

軽く挨拶をして室内を見直す。もちろん1日たっても特に変化はなく埃っぽい部屋だ。何かしらの数字は変わらずカウントダウンしている。

「昨日は私からの質問が多かったですから、今日はそちらの質問をどうぞ」

「おお、そうか。では、まずはどこから来たのか教えてくれるかの?」

「...突拍子もない話なのですが、ヘプトさんは"平行世界"だとか"異世界"という言葉はわかりますか?」

「言葉道理の意味ならわかるがの...つまりそういうことだと?」

「はい、私が置かれている状況がそうだと示しています。」

ヴェローサには話をしていたが、この話をしてもリスクはない。せいぜい俺の頭を疑われる程度だろう。

ゴリとゴラは理解できていないようだが、この場では発言する気はないようだ。

チョビは変わらずぼーっと話を聞いている。

「まずはそう判断した理由を聞いても良いかの?」

「仮称ですが、私がいた"元の世界"とあなた方がいる"この世界"で違いを説明していきます」

「うむ」

「一番大きな違いは元の世界にはあなた方の様な存在はいませんでした」

「なんと!?」

ヘプトは驚き大きな声を出す。ヘビの体も前のめりになっている、気がする。

「あとは、4本腕の怪物ですね。あれもいません」

「ふむ...」

「社会の構成要素も大きく違うようです。使役者という職もありませんでしたし、火や水を土を操るなんて言うのも出来ませんでした」

「...」

「もちろん、まだ確証があるわけではありません。ですが、状況から考えるにそうなんだと考えます」

「ここが、エンジ殿の住んでいた場所とは別の世界だと...そういうことじゃな」

「はい」

「なるほどの、その恰好はそういわれれば納得できるの」

「あと、皆さんが同胞と言っておりますが私が当初、チョビ以外に連れていたのは人間が作った道具です。私の世界ではああいったものはありふれていました。」

「ほう」

「人間には一方的に使役されているように見えるかもしれません、が残念ながらアレには自己意識と言うか、何と言うか、所謂感情はありません」

「なるほどのう。道理で共有が出来んわけか」

「共有とは?」

「隠しとったようで悪いんじゃが、わしは村内の一定範囲内であれば皆の記憶を共有できる。まさに管理者の言葉通り。それがあの子にはできんのでの。そうじゃったか」

「ああ、なるほど。とにかく、地形などは似通っていますし、社会の在り方も何となく理解できます。納得は出来ませんが。」

「それで、今まで自分が空いでいた場所とは別の場所。という認識というわけか」

「はい」

「エンジ殿は、我々のことをどう思っておるか聞いてもよいか?」

「...友好的でありたいと思っております」

「まだまだ知識としても経験としても乏しいと思うが、何となく気づいておろう?我々と人間の種族間には大きな溝があることに」

「私としても、突然"友好"などと言っても正直何をすればいいのか。少なくとも世間話でそういった関係を築けるとは思っていません。そのための第1歩として、チョビの修理を行いたいと思っています」

「ふぅむ」

「幸いにも、私にはその手の知識があり、この村の設備を調べる許可を頂ければ何とか出来るのではないかと考えております。」

「調査、か...」

ウムムと悩むヘプトに思わぬ助け舟が出る。

「私は、彼にやらせてみてもいいと思う私達、キャストの未来のためにも」

ほうとヘプトは尻尾で自分の顎を撫でる。

「"きゃすと"とは、我々の種族を指す言葉か。推察するにエンジ殿の提案かの?初めて聞く言葉じゃ」

「ええ、そうよ。言葉の響きが気に入って」

ゴリとゴラも満更でもなさそうだ。

言葉自体は自分で考えた言葉ではなかったが、受け入れられたようで嬉しいような恥ずかしいような。難しい気持ちだ。

「ヴェローサに調査する内容の説明、そして得られた知識の共有。これが条件でどうじゃ?」

「はい、その条件で問題ありません。ご許可ありがとうございます」

ヘプトは条件を提示してきたが、それは当然の対価だと考え素直に感謝を述べる。

「期待しておるぞ」

「はい。出来る限り善処します。チョビの故障具合は把握していますので調査の流れとして、1つ目にどのような設備があるのか、2つに目に修理に使える部品があるかもしくは作れるのか。大まかにはこの辺りを調べさせて頂きます」

「うむ、エンジ殿は誠実じゃな」

「仕事柄、なんでも予定を立てるようにしておりますので、これはもう自分の癖ですね」

「仕事、か。ちなみにどんな仕事をしておるんかの?」

「技術者、修理屋、所謂機械系エンジニアですね。まさにこの状況にうってつけ仕事ですよ」

そう言うと、自信を持った表情でエンジは微笑んだ後、一礼して建物から出た。




「さて助手ヴェローサ君、チョビ君。まずは村内の案内を頼む」

「いきなり調子に乗るわね。でも助手って言葉、不思議と案外嫌いじゃないわ。チョビちゃん行くわよ」

チョビが先頭で案内を開始するようだ。リードがあればまるで犬の散歩のように見えるだろう。

「この家?のような建物は何なんだ?」

「確かに、人間の家に似ているかもね。でもこれは補給寝台、と私たちは呼んでいるわ」

「つまりは、人間でいう睡眠と食料を行う設備ということか」

「そうね。補給を開始すると無防備だし補給中断にも少し時間がかかるから建物で囲ってるの」

「やけに色々喋っているがそんなに俺のことを信用してくれたのか?」

「こんなの、この村に来れる人間は全部知ってるわ」

「それもそうか...」

「でも、チョビちゃんに対するあなたの行動は、信用しているつもりよ」

「ありがとう」

ここだよ。と言わんばかりにチョビは前足をそのドアをチョンチョンとつつく。

なるほど、地下か。とその建物の構造から推察する。

何故ならチョビがつつくドアは地面にあるからだ。それも大型の貨物用エレベータと連動するタイプ。バスくらいのサイズが出入り出せるほどの大きさ。その周囲を囲うように壁と屋根があるがただ大きい倉庫や航空機用ハンガーのようでもある。

ひとまず、誘われるままに地下へと入っていく。この施設を建設したメーカーロゴ関係だろうか?複数の企業がこの施設を建てたのだろう。いくつもの名前が見える。ここにきて数字以外の文字を初めて見たと思うが明らかに自分の知っている言語だ。漢字もローマ字もある。

参画企業一覧のプレートは何枚もあって、移動するためのこの通路の端から端までびっしり書かれているようだ。

何となくその一覧を眺めていてふと目が留まる。

「!?こ、これは!?」

思わず声が漏れる。

そのプレートに書かれていた企業名。そこには自分の勤めていた会社名から取引先、下請けまで見覚えのある名前ばかり書かれていた。

「湯浅電装...」

その名前やロゴは間違いなくエンジの知っているものだった。

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