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2話 互いの事情

抱えた頭を振り、ロボットとの対話を続ける。

そこでさらにいくつかの情報を得たが、こちらは人間なので何をおいても飯と寝床を用意しなければならない。

お互いに、まだ腹の探り合いをしながらの情報の交換を行っていたが、こちらの空腹に限界が来た。

「すみません。こちらから押しかけておいて悪いのですが、ご飯と寝床の確保のために場所を貸してもらえますか?」

ヴェローサはちょっとムッとした雰囲気だったが何も言わない。ヘプトの判断に任せるようだ。

「良いじゃろう。食事は...食べれる物はなくはないが...あと、空いている家はあったかの?」

「ああ、場所さえあれば食料と寝床は自分で用意しますから大丈夫ですよ」

「ほう、そうか。何か困ったらここに来るんじゃよ。この建物の入り口にあった透明の部分に顔を近づけてくれればドアは開けれるのでな」

「配慮、ありがとうございます。では、お話の続きはまた明日お伺いしますので、よろしくお願いしますね」

こうして、話し合いを終了し、来た道を通ってバイクのところまで戻った。

ヴェローサとチョビが監視兼世話役になるようだ。

ゴリとゴラと呼ばれた護衛は解散したようだ。視界の範囲にはちょいちょい入ってくるため、遠目から2重で監視する姿勢をとったように思われる。

まだ太陽が傾き始めたくらいで日没まで数時間はあるだろう。

気候も秋くらいなので無茶苦茶寒くなることはないかと思いながら野宿用のテントを用意する。

いつも使っているテントなので10分程度でしっかりと張ることが出来た。

テント自体は珍しくないのだろうが、道具や構造には集まってきている野次馬たちは興味津々のようだ。

テント自体は大人が2人横になれる程度のサイズ。そこに断熱シートを敷いて寝袋を用意する。

その間にも野次馬は集まってくるが、ヴェローサが説明を行うことで集まってきてもおかしな行動をするものはいないようだ。村の在り方は前時代的ではあるが、聞き分けは皆いいようだ。

チョビを助けたというのも村の者たちの心性をよくしているのか、警戒心もあまり感じない。

「チョビ、テントの中に入りたい気持ちはわかるが先に食料を回収に行きたいんだ」

そわそわとテントの入り口をのぞき込むチョビに語り掛ける。

やはり、人の言葉は理解できているのか、大人しく入り口横でお座りをし待機する。

(まず、ここの食料が食べられるものなのか。ひとまず川に魚を捕りに行こう)

ツーリングの際、いつも積んでいる釣りセットをバイクから下す。実は今までに一度も使ったことはなかったが、道具を確認する限り問題なく釣りをできそうだ。

「あなた、弓つかいなの?」

ヴェローサが質問してくる。

「いや...ああ、これ矢筒じゃあないんだ。釣り道具だよ」

意味が分からないようでヴェローサは首をかしげる動作をする。

釣り道具の入ったバッグは円形で、釣り竿も刺さっているとぱっと見矢筒に見えなくもない。実はそんな見た目が好きで買ったバッグでもあった。

「まぁ、武器ではないよ」

「ならいいけど。わかっているとは思うけど、あなたを捕獲しようと思えばいつでもできるってことを考えて行動しなさいよ?」

「ああ、心得ているつもりだよ。たぶん」

何が刺激する要因になるかわからないな、と考えながらヴェローサとチョビと村の外へ出る。

食べるだけなら、持っている携帯食料を食べればいい。しかしこいつは保存が効くのでできれば緊急時に取っておきたい。そういった考えから現地での食料調達を試せるうちに試しておく。

万が一を想定し、バイクの装備はヘルメットも含めて脱がずに行動を続ける。少し動きづらいが、リスクとトレードは出来ない。

チョビは修復しきれていない箇所から少量づつオイルを垂らしているがひとまず問題は無いようで、散歩中の犬のように足取り軽くついてくる。

ヴェローサは最初にあったときの槍を持ったまま半歩後ろをついてくるようだ。

村の外。と言っても目の前に川があるので、何となく流れがゆっくりそうな場所へ足を向ける。

(この辺か?川釣りはほとんどしたことはないんだが、まぁ、だめなら携帯食料をとりあえず食べて、一晩過ごしたら人間の村に行ってみよう)

食糧問題はかなり深刻だが、"まぁ、何とかなるだろう"と楽観的に考えていた。川の水も透明で綺麗。口に含んでみたが冷たくおいしい水だった。

「人間は定期的に食料を得なければ活動できなくなるのは知っているけど、"釣り"というのは初めてみるわ」

川辺の石をひっくリ返すエンジを見てそうヴェローサは言葉を漏らす。

ヴェローサの話の内容から、ロボットは当然ながら食事を取らないらしい。エネルギーはどこから得ているのか等疑問は尽きないが、こちらは空腹のため今は聞くのをやめておく。

「まぁまぁ、見てなって。うえ、グローブ越しじゃなきゃ触りたくないねこれは」

ようやく目当てのものを見つける。コウロギに似た名前はなんだかわからない虫を4~5匹ほどビニール袋に詰める。そんな調子で他にもなんだかわからない虫を見つけては袋に詰めていく。

途中からはチョビも石をひっくり返すのを手伝ってくれた。賢い子だ。石をひっくり返しては一喜一憂するエンジをみて一緒に楽しそうにする。

虫が苦手という意識がロボットにあるのかわからないが、ヴェローサはそんなチョビとエンジからは距離をとっている。

「さて、ここからが本番だ」

釣り竿に糸をセットし釣り針を結びつける。簡易的でチャチなキットで一度も使ったことがなかったのも併せて少し苦労するが何とか準備は整った。

適当な虫を釣り針にセットすると川に投げ込む。

動作確認で少しリールを巻くと問題なく動作してくれた。

「頼むぞ」

日没までおそらく2時間もないだろう。空腹も併せて焦燥感が少しでる。

しかし、心配は杞憂で終わった。

すぐに竿に手ごたえがあったのでリールを巻いていくと何の苦労もなしに最初の1匹を吊り上げる。

「これは大当たりだな。確かに季節だったか...俺の常識が通じればだが」

掛かったのはアユだった。子供のころ、よくキャンプの養殖場で釣ったので覚えている。

「へぇー魚ってそうやって確保するのね。初めて見たけど簡単そうね。昔にその方法と道具があれば苦労しなかったのに...」

「本当はもう少し苦労すると思うが今は季節がちょうどよかったかな」

この世界がそうかはわからないが、釣り自体は石器時代には行われていたと言われている。釣りの文化がないわけではないが、ロボット達には関係がないから知らないだけか。と何となく浮かんできた考えをまとめる。

その後も入れ食い状態だったが、釣りすぎても消費しきれないので3匹程度で釣りを終了する。

「なぁ、駄目もとで聞いてみるんだが、村の中って調理場とかあるのかな?」

「ないわよ。必要ないんだし。昔は...あったけど」

そりゃあそうだよなと頷き、釣り道具と一緒に持ってきていた調理セットを川辺に広げる。

「ここで火を使ってもいいか?」

「かまわないけど、魚、食べるんじゃないの?」

「これを食べるにはいろいろと準備がいるんだよ」

「そういえばそうね、人間って本当に面倒。火は大きくなければここの辺りならいいわよ」

「ありがとう。次は一緒に釣りをしよう」

「ふん。槍を手放さそうったってそうはいかないわ」

「...チョビに言ったんだよ」

チョビは嬉しそうに尻尾を振る。見た目はネコっぽいが行動自体は犬のようだ。

かたや気まずそうに体を反らし、槍で足元の岩をつんつん突いているヴェローサが同時に目に入り、ロボットと人間、どちらにも感情や意思があるのにここまでお互いに深い溝があるのか理解できない。少なくとも、俺は彼女たちと仲良くやっていけそうだ。

「まぁさ、ヴェローサも釣ってくれたら助かるしチョビと一緒に教えてやろう」

「...そう」

なんだが悪いことをしてしまった様で気まずくなり、火を起こす準備をするため枯れ枝や枯葉を集めるため少し離れる。

チョビは「次は何をするの?」と言いたげに付いてくる。

適当に集めた後、さっきまでいた場所に戻り枯れ枝を組み上げて携帯バーナーで火をつける。

バーナーの着火音に彼女らは少し驚く。

「あなた、まるで使役者みたいね。本当に違うの?」

「いや、これはガストーチと言って、火を起こすことが出来ても操ることはできないから」

「本当に違うぞ」と言いながら、枯葉を燃やしていくと幸いにもよく乾燥していたのかすぐに火はついてくれた。

「チョビ、危ないから近づくんじゃないぞ」

チョビに注意をした後、釣った魚の下処理をする。

さすがにグローブを付けたままでは調理ができないので素手での作業だ。久しぶりに触った生魚は思い出よりぬるぬるしていた。

魚をグニグニして排泄物を押し出したり川の水でぬめりを取ったりした後、何のために積んでいたのかわからないステンレスの串で魚を貫き、いつも携帯している塩を振りかけて安定して火力が出るようになった焚火の前に刺す。

「なぁ、俺の身の上話、少し聞いてくれるか?」

魚が焼けるまで少し時間がかかるので、こちらからヴェローサに話を振る。

「魚はいいの?」

目の前にはなんとも食欲をそそる絵ずら。しかし焦ってはいけない。川魚の常識がこちらでも同じならしっかりと火を通さないと寄生虫によって大変な目にあわされる可能性があるので表面が焦げてもしばらく火にくべる必要がある。

「ああ、まだまだ時間はかかるんだ」

「そうなの」

そう答えると話を続けるように促してくる。チョビも意味が理解できるかは別としてお座りで顔をこちらに向けた姿勢を取り真摯に聞く態度をとっているように見える。

「俺、"ここ"の人間じゃないんだ」

「そんなの、見ればわかるわ」

「いや、そういう意味じゃない。なんというか、平行世界とか異世界っていう概念はわかるか?」

「平行?世界?」

「あーそうだな。例えば、怪物も、人間もいない君たちだけの世界があるとしたら?」

「あったらいいかもね」

「俺は、怪物も君たちみたいな存在も...いやいるにはいたが、まぁ、いない世界から来たんだ」

「なにそれ?」

「それが俺にもわからないんだ。気づいたらここにいて。なんだかわかんないけどとりあえず状況を整理して、今はまだ情報収集中で。なんというか、愚痴りたくなったというか。ここまで来ても現実を受け入れられないというか...」

「話を聞いても私にはよくわからないわ。もちろんチョビもそうでしょうね」

チョビはずっと首をかしげている。漫画なら頭の上には?マークが見えているだろう。

「でも、あなたがどこかから来たのなら、そこに帰りたいのか、このまま何処かに行くのか。それを決めれるのはあなただけよ」

「!。そうか。そうだね。君はやさしいね」

「...私、人間が嫌いなの」

「それは、そうだろうね。最初にあったときの君の圧力はすごいものだった」

「でもね、昔は好きだったの。いつかは私も人間になるんだって」

「...」

「昔、このヘプト村に女の子がいたの。迷い込んだのか捨てられたのか分からなかったけど、私はその子と仲がとっても良かった。良く、一緒に狩りにも行ったわ。おかげで村一番の武闘派よ私は」

「でも、なら今はなんで?」

「ある日、村に人間の使者が来て、その女の子を半ば無理やり連れて帰ったの。それから3年くらいたった時。使役者としてその女の子はこの村に戻ってきた」

「...」

「私は再開を喜んだけど、向こうは違った。うれしくて昔のように名前を呼んで駆け寄った私に『なれなれしく近寄らないで!おぞましい無生物が!』って。あの日のことを思い出すと毎回悔しさとも悲しさとも怒りともつかない気持ちに考えが支配されるの」

「それは...かける言葉もないよ」

「こうして、あなたにこの話をしているのは私からの忠告でもある。私たち"無生物"と仲良くしても結局お互いが良くない思いをして終わる。」

「それは、確かにわからない。でも、君たちと俺は楽しいことを共有できる。意見がすれ違うのなら合わせることも出来るはずだ。」

「あなたは変わっているわ。ふつうは"養殖場"内に泊まりたい人間なんていない。チョビを助けたりなんてしない。こうして話をゆっくりすることもない」

「そうかもな。俺は変わっている。こうしてロボット...失礼、君たちと会話しながら夕飯を食べることにもう慣れてきた」

「ロボット?」

「ああ、俺の元の世界にも君たちみたいな存在はいなかったわけじゃない。でも、心も意識もなかった。少なくとも知ってる範囲では。それに、機械的構造だってそう。人間のためにただ生み出された従僕する生産される物。それがロボット」

「それは」

「こっちの君たちよりよっぽどひどい待遇かもね。でも、そうだね、それを"ひどい"だとか"不公平だ"とか感じる心、部品がないんだよ。俺の世界のロボットには」

「そう...」

「残酷だと、この話を聞いて君はそう思うかもしれない。でも、人間はどこの世界にいても、人間こそが世界の中心だと思っている。ひどい奴は自分が世界の中心だと言うやつもいる」

「滑稽ね」

「俺もそう思うよ。特に、この世界にはそういう奴が多そうだ」

「それで、あなたはどうなの?」

「さっきも言っただろ。俺は変わりものなんだ」

「そうだったわね」

「ひとまずは、目の前の問題に対処していくしかない。でも、そのためには君の、君たちの協力が必要なんだ」

「...正直に言うわ。私達は人間と慣れ親しむつもりはない。あくまでチョビの恩があるからだとか人間国の有益な情報を持ってないかだとかそういう関係よ。"友好"なんて言っても所詮政治的な意味ね」

「わかっている、つもりだ。ひとまず、目の前の問題、チョビの完全修理を行ってあげてから次の問題解決に移ろうと思う。」

「!?チョビを治すことができるの?」

「まだわからないけど。最善を尽くすよ」

「...私、昔調べたことがあるの。なぜ私達は"無生物"と呼ばれるのか。食事も取らない、睡眠も基本的にない、生物のように外観の成長もしない。そこらの樹木でも種から成長していくのに、私達はある日突然組み上げられて、誰かに育てられることもなくある一定の教育を受けてこの世に放たれる」

「そうなのか!?」

「ええ、私もそうだもの。でも、同族を治す方法はその教育には入っていない。もちろん、修理に使うものもないし」

「ま、安心してくれよ。俺は元の世界ではエンジニアって職業だったんだ」

「どういう仕事なの?」

「ロボットを直す仕事さ」

会話が何となく途切れたので、横に座るチョビを撫でる。

「おっと、そろそろ食べごろかな」

久しぶりに調理したアユだったが、夕焼けの気色も相まってとてもおいしく満足のいくものだった。



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