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1話 状況確認

「まず、今俺がいる現状を確認したい。」

そんな言葉を伝えると、ヴェローサは嫌そうにしながらも渋々承諾したようで、責任者のもとへ案内してくれるようだ。表情は一切ないのだが、全身の態度がそう示している。

こちらとしても、自分が今いる状況を理解ないし説明してくれなければさっぱりわからない。もう、何を見ても驚けそうにないほど周囲は異質なものだらけだ。

しかし、こういった際に職場の経験が生きてくる。

(トラブルに対して重要なのは落ち着いて原因を探すこと。焦っても嘆いても解決できないのだからまずは情報収集だな。情報がなければ理解もできない。驚愕するのは後でいい)

ロボット達は、初対面に比べ警戒は薄くなっているにしても、暴れられないように左右にゴリラ型が随伴している。その後ろからチョビがひょこひょこと付いてくる。

ちなみに、ガソリンが勿体ないのでバイクはエンジンを止めて村の入り口付近の空き地に止めている。「こいつには触れないように」とくぎを刺しておくと一応伝わったようだ。

(なるほど、確かに村だ。前時代的な建物群にロボットの住む町。何かの大掛かりな実験施設か?しかし、他に人間はいなさそうだし。うーんわからん)

相変わらず携帯電話の電波は入らない。当然GPSもやくに立たない状態のままだ。

周囲にあるのは石と竹で組まれた家と言われればそう見えなくもない建物が多数建っている。地面は土そのままで、石畳で道があるとわかる程度だ。

目に入る何もかもが、さっきまで走っていた日本の田舎道とあまりにも違い、トンネルを抜けるとまさに別世界に来たのではないかと感じさせる。

そんなこちらの心情を知ってか知らずか、前を案内中のヴェローサはさっさと歩いていくと目的地と思われる建物にたどり着く。

他の建物と建築様式や技術レベルが違うのが一目でわかる。全体的にくすんでいるが、鏡かステンレスかそんな表面をしており地面から生えた大きく真四角な柱に見える。

「ここが村長の家。変な行動やおかしな発言はしないことね」

ヴェローサは振り返ってこちらを向き、腰のあたりに手を当て胸を反らし高圧的な姿勢でそう伝え、向きをその建物に戻して何かを操作する。

気になって何をしているのか覗こうかと思ったが左右から抑えられる。

(結構痛いんだが...)

ゴリラ型のごつい腕は見た目通りのパワーがあるようだ。

「頼むから変な気は起こさないでくれよ」というような感じで横のゴリラ型たちは手を放す。

操作が終わるのを大人しく後ろで待っているとほどなくして平滑だった壁の1部分が凹んだかと思うと扉のように開いていく。

ヴェローサが中に入っていったので自分もついていく。左右の随伴もチョビもついてくるようだ。

建物の中は結構広い。一般的な学校の体育館程度はある。しかし、この広間が目的地ではないようで、すぐ左手側の待合室のような場所に連れていかれる。

部屋の大きさは20mX20mほどのサイズで中には金属製のワイヤーで組まれたベンチのようなものが幾つかあり、それ以外には空中に青白い数字で描かれ、カウントダウンしていくデジタル表示の時刻だけだった。

ここに至るまでに何となく嫌な予感、というか想像をしていた。

”ここは日本ではない、下手したら地球でもないのではないのか?”と。

(馬鹿をいえ、此処までは陸続きで来たんだぞ。トンネルだって噂はあってもしょせんオカルトだ。日本語だって通じてるんだし)

そんな漠然とした突拍子もない考えを何とか表に出さないように周囲の環境を探る。

部屋の中は生活感など一切なく建物の外観と同じく全体的に薄汚れている。

仮にこの部屋が土足厳禁であれば今頃足は真っ黒だろう。

照明はところどころ切れているが何かしらの光源がありその光でそれなりに明るい。

座って話せるところはなさそうだ。

少し埃っぽいため、コホンと咳をし「失礼、責任者さんはどちらに?」とヴェローサへ声をかける。

こちらを少し振り返って見てきたが、返事はせずに、ベンチの上に横たわっている何かに声をかける。

「管理者ヘプト様、ヴェローサです。我々の管轄地域内で使役者らしき人間を捕獲しましたがどうにも普通の人間とは違う行動を行う個体のようです。我々へ害を与えるつもりもなく、武器も所有していないため話し合いに応じこちらまで連れてまいりました」

すると、その横たわっていたものが動き出す。

太めのロープかと最初は思ったが、動きや形状をみるにヘビのようだ。もちろんロボットだが。

「旅のもの、よくぞ来られたの。よもや、この部屋に人間が来ることなど何年ぶりかのう」

そう言いながら、ヘプトと呼ばれたヘビ型ロボットは自分の尻尾で顎に見える部分をさする。なぜかヴェローサは気まずそうに肩をすくめると体の向きをヘプトからこちらへ変える。

「ヴェローサから紹介された通り、わしはこの区域を管理しておるヘプトというものじゃ。ふむ、チョビがお世話になったようじゃ。ありがとう」

そう言うと、感謝の表れか器用に頭の部分を下げる。

「付き添いの二人、ゴリとゴラも案内お疲れじゃ。チョビも災難じゃったの」

左右のゴリラ型と後ろにいるチョビに労いの言葉をかけ、いよいよこちらへ質問を投げかけてくる。

「さて、自己紹介をお願いしてもよいか?」

「は、はい。俺は瀬戸内セトウチ 円治エンジと申します。実は、全く状況がわからず、今も困惑しています。」

ゴリとゴラという安直な名前を聞き、吹き出すのを我慢しながら自己紹介と自分の状況を軽く伝える。

「ふむ、わしも50年以上ここの管理をしておるが、エンジ殿の様な変わった格好は初めて見たわい。連れにしとる同胞も見たことがない形状じゃしの」

そういえば、とふと考える。ここに来るまでに誰かがチョビのことをそしてバイクのことを伝えたのだろうか?と。

ここにずっといたのならば何故先ほど起きたことをそれもチョビの修理のことも知っているのだろうか?外に置いてあるバイクもそうだ。口ぶりから形状まで把握している。

(いや、考えても仕方ない、少なくとも現状がはっきりしなければ疑いも意味がない。)

どことなくヘプトに猜疑心を持つが何とか表情には出さず発言を行う。

「すみません。まずは俺の置かれている状況について整理させて欲しいです。それが終われば如何様な質問にもお答えします。」

「...よかろう。チョビの恩人でもあるし、わしが答えられる範囲で答えよう」

「ありがとうございます。では、ここヘプト村の所在地についてです。」

まずは現在地の確認から。

「ここは、人間の言うところのアジア圏にあるアリアケ国クロイワ領の...第3養殖場と言われておる場所じゃわしらはここをヘプト村と呼んでおるのじゃがな」

「...えーと、日本の群馬付近とかそういうのではないのでしょうか?」

アジアだとか何となく聞き覚えがある言葉があっても、クロイワ領だとか養殖場だとかで考えることがいちいち白紙に戻される。

(一つ聞けばその返答にさらに質問をしなければならないな)

先ほど思考を過った可能性が増々現実味を持ってくる。

ここは地球なのは間違いはないだろう。

だが、自分の知っている日本とは明らかに違う。

(くそ、考えたくないが平行世界だか異世界の亜種だかそういうものだろうか。そうでなければ今自分が置かれている状況に納得できない)

そんなことを考えているのを知ってか知らずか向こうも質問に答える。

「すまんが聞いたことないのう。地図表示ならここに出せるが確認してみるかの?」

「ええ、お願いします。」

すると、先ほどまで謎の数字をカウントダウンしていたホログラムが切り替わり地形図が表示される。

表示されている地図は衛星写真のようだったが、3Dでかなり精巧に作られた立体マップだった。

「ちょっと自分の地図と比較をしたいので道具を出してもいいでしょうか?」

大体の場合、こういうときに懐から何かを出そうものならいらぬ警戒を抱かせてしまう。そう思い許可を求める。

かまわない。と相手側は答えたので、スマートフォンを出し、オフラインマップでGPSの途切れた最後の地点付近を表示する。

山の形状や川の位置から、ほぼほぼ自分がツーリングで走ってきたマップと一致する。その状況が今ここクロイワ領と群馬付近が同じ位置にあると示している。

次に確認すべきこと。

「今は何年の何月何日ですか?」

(俺のスマートフォンでも、記憶でも、2023年の9月22日のはずだが...さて)

「皇歴542年で、人間たちは収穫祭の時期のはずじゃが。月はよくわからんが、今年が始まってから265日目じゃ」

(いや、全く参考にならんな。大体9月ぐらいということが分かったくらいだな。質問の方向性を変えよう)

「1年は何日ですか?」

「365日じゃな。理由はここに稼働からの経過時間と日数、年も表示されとるからの。そういえば、4年に一度くらいの周期で366日じゃったか」

(暦は変わっていないと。うるう年も確認された。となると、地球と同じか同じような星と言えるか)

「ここには私の他に人間はいますか?」

「この村にはおらんの。クロイワ領にはたくさんおるがな」

「そこへの道順や距離はわかりますか?」

「道順は村の前に流れている川を川上に進めばたどり着くじゃろう。距離は、人間が歩いて3日ほどじゃったかの」

(約90kmくらいか。全然バイクでたどり着けなくもないな)

人間が1日に約30kmほど歩けることからそう計算する。

(ここは機械しかいないようだし、食べ物も村を見てきた限りなさそうだ。川には魚が居たからどうにか入手できれば飢えはしのげるな。今は携帯食料しか持ってないし)

自分のライフラインをひとまず確保する方法も探さなくてはと考えを巡らせる。

そして、少し考えたのち、気になっていたことを質問する。

「使役者とは?眷属とは何ですか?ここが第3養殖場と呼ばれていることにも関係がありそうですが」

「んむ?エンジ殿はそんなことも御存知ではないのかの?旅人とは思っていたが、よほど遠くか別の国から来られたのじゃろうか?」

そう言って疑問を投げつけてきたが、ひとまずこちらの質問に答え始めた。

使役者とは一部の特殊な人間のことを言い、人間の生活圏では特別な権力を持っており所謂貴族階級に似たものがあるようだ。

持っているのは権力だけではない。主には普通の人間と比べ2つの違いがある。

1つ目は、超常現象を起こせること。大体は火を操るだとか水を操るだとか土を操るだとかで、無から何かを生み出すことはないようだが、そういった点から”何かを使役する者”という意味で使役者と呼ぶらしい。

2つ目は、火や水を操るようにロボットを使役できるということ。すべてのロボットを使役できるわけではなく、個人の能力によって使役できる限界や数が決まるらしい。

これが使役者の特徴だそうだ。

そして、眷属とはその言葉通り、使役されているロボットのことを差し、使役者に登録されると眷属化されるらしい。

普通の使役者は1体を眷属化すると、他の何かを操る力を失うらしく、どちらか一方だけらしい。そして、眷属化を解除すればまた火や水を操れるようになるという仕組みで、優れた使役者であれば10体を眷属化しながら雷を操れる使役者もいるなど個人によって大きく能力差があるようだ。

(で、その眷属化される予定のロボットたちの村が第3養殖場ね。なんとも悪趣味な名前だ)

此処までに彼らロボットとほんの少ししか触れあっていないが、間違いなく意思がある。考えがある。何となく、一方的に人間に何かを押し付けられているここの在り方に嫌悪感を抱いていた。

「ヘプト様と私はね、此処に来るどんないけ好かない使役者でも能力が高いと有名な奴でも眷属化されなかったのよ。」

そう言ってヴェローサが話し始めた。

「あなた達人間は、私たちを亜種だとか無生物だとかと侮蔑し、次々と眷属化していった。事前の契約もない分奴隷より悪質よ。私達にだって選ぶ権利はあるわ。でもね、同胞たちは関係なく眷属化されて徐々にここは武力を失ったわ。私たちを保護するという名目でこの村に押し込み、ヘプト村から離れた場所で眷属化してない子が見つかれば壊されるか取引材料よ。自由は無くて一方的に搾取される存在。大体は人間同士か怪物とのばかばかしい戦闘だとかに使われて壊れるかボロボロなのよ。そんな状態の子を私たちに見せないことの言い訳が『君たちの心境を配慮して眷属化した個体は2度とここへは連れて戻らないと約束する』という条文よ。馬鹿にして!」

まくしたてるように一気に語り、手に持ったままの槍をピキピキと握りこむ。

怒りは喋ればさらに湧いてきたようだ。

「チョビちゃんはね。すごくおびえる子だったのよ。それこそ、映像で見るまで戦闘に使われているなんて思いもしなかった。眷属化が解かれてこの村に戻ってこれたのは奇跡に近いのよ。そういえば、機密保持のため、眷属化している対象の記録を覗くことを恐れてこの村に返さないという人間側の事情も透けて見えるわ。知れば知るほどチョビがかわいそう!」

俺は話を聞きながら、後ろにいるチョビを見る。ヴェローサを見ていた頭は人懐っこそうにこちらへ向けてきた。

「大体、今人間たちが戦闘している理由も馬鹿馬鹿しいわ。強力な眷属を手に入れれば軍事力が上がるとかで奪い合いが起こっているなんてすべての行動原理が矛盾してる!」

「まぁまぁ、ヴェローサ落ち着くのじゃよ。見るにエンジ殿は本当にこの情勢を知らなかったようじゃからな」

「...すみません」

気の立ったヴェローサをヘプトが落ち着かせると改めてヘプトが続きを話し出す。

「今、この周辺領や国単位で軍事的な衝突が起きておるのは事実じゃ。わしらの占有権はヴェローサが言うように重要な軍の戦闘力なのじゃよ。人間同士で争っとる場合ではないのではないかと思う気持ちもわからなくもないがの。なんせ敵性亜種と呼ばれる怪物の危機もまだまだ解決しておらんのじゃから」

ふぅとヘプトはため息をつく仕草をする。

ここまでで得られた情報を整理していく。

話を聞いただけでまだ100パーセントとは言えないが、ここはすでに自分がいた日本とは大きく違う世界であるということ。

人間同士の戦争と怪物による脅威、そしてロボットと人間の一方通行な扱いによる軋轢。

エンジは頭を抱える。どうして自分は平和だとか清潔だとか公平だとかなんてない、前時代的で複雑な情勢の世界に来てしまったのだと。

しかし、ひとまずは目の前の問題を解決していくしかない。

(元の世界に戻ることはできるのだろうか?それとも俺がここに来た理由が何かあるのだろうか?)

不安と未知への期待。どちらもとどまることなく頭の中で渦を巻いていた。


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