15話 軍事転換
領主様の為、怪物どもとの戦闘に関し抜本的な解決策が必要だ。
使役者のまとめ役としてクロイワ領の軍事面を支えているトウドウは常に策を考えていた。
登録のある人数だけで11万人。貧民や辺境民あえて登録を行っていない者も含めれば3倍から5倍は生活していると言われているこの領地は発展目覚ましい期待ある場所だった。
しかし、明確な敵意をもって突如現れたこの怪物どもとの戦端が度々開かれる危険な土地となり果てていた。
人間は脆い。脆いが故、武具を作り、戦略を立て、共闘するのだ。
しかし、野生動物と比べても生身で戦い勝てる対象の方が知れているにも関わらず人間は敵が多い。
まずは無生物達との軋轢。これはトウドウの生まれるはるか昔から変わらぬ力関係で、実際に戦えば確実に人間の方が負けるにもかかわらずこの力関係は人間の方が優れていることになっている。
これは人間の利益の為、長い期間をかけて徐々に家畜化していったと聞かされているが、トウドウにとってはこの関係性は悩みの1つである。
彼はいつの日か、お互いがお互いの大事なものを守り合える関係性に至れることを夢見るが、周囲が、部下が、国が、世界がそれは無理だと示してくる。
さらに嫌なことに、今は怪物との戦時下でもあるのでそのような夢の道筋を夢想することすらかなわない。
人間は愚かなものだと戦略会議に参加する度に認識させられる。
領同士が、国同士が協力し、この怪物の支配地域を根絶やしにすれば世界の平和に一歩近づける。
だが現実は醜い政治家達による権力争いにより一つ隣の領ですら協力関係に至れていない。国同士の共同戦線などもってのほかだ。
協力を直々に頼みに行った際「我が領の戦力は我が領の為にある。国境線に接する我がイチカワ領は確かに強大な軍事力を持っているがそれは隣国のバーツ国との有事に備えてである。これ以上この領から戦力の捻出を要求するのなら敵国の間者として君たちを疑うことになるぞ」と真面目に伝えられた。
確かにその言葉は至極真っ当だ。しかし、こちらの状況も確認せず、挙句イチカワ領にその怪物の支配領域を広げてこないのはそちらの義務であり責任であるとも伝えてくる相手には遺憾と言わざるを得ない。
勿論、協力をこちらから仰いでいるのは事実だ。それでも、今怪物の支配領域を抑え込めなければ3年以内にクロイワ領は愚か、周辺の3つの領地は壊滅的打撃を受けることになるだろうとクロイワ領の戦略研究室は結論付けている。
それほど脅威的な敵は実は目的について判明していない。
あえて言うならば人間を殺す為に侵略しているのだ。
野生動物は襲わない。無生物に関しても同様。
現在まででえられた情報では障害になったり敵意を見せなければ襲うことは無いそうだ。
しかし、人間だけは別。
文字通り殺すまで追ってくるその恐怖は実際に戦闘を行う現場において多く軍人に心の傷をつけている。
色々と考えもするが、ともかく、結果としてクロイワ領は孤立奮戦をするほかなく、容赦のない手段を取らざるを得なくなった。
その1つが領の支配地域にある各養殖場の戦略的拠点としての転換である。
ただでさえ好ましく思っていない人間に、突然占領されるのだ。現地での摩擦は計り知れない。
第4から第6養殖場は実験の意味も含め軍事基地として占拠済み。
続いて第3養殖場に手をかけている。部下のハルコ達はうまく進めているだろうか。
ふとトウドウは考える。
第3養殖場は恐ら激戦地になると考えられている為、早急な改変が求められている為、そこそこの人数で向かわせたのでまさか失敗することは無いだろう。
ただ、ハルコを助けてくれたあの養殖場...ヘプト村には恩を仇で返すようで申し訳ない。
そう心では思ってももはや現状は絶望的なのだ。仕方がない。ここを犠牲にすることで助けられる養殖場もある。この苦難を乗り切ればまた関係改善の道を探せばいい。そう自身を納得させる。
怪物たちとの現状が絶望的というのは戦略を練れば練るほど見えてくる。
各養殖場の軍事転換などその場しのぎにしかならない。
最初の考え通り何か抜本的な解決策が。
幸い、その足掛かりはちょうどトウドウの元へ向かっていた。