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13話 新たな活路

人間側の使者と村長のヘプトが会談する予定だった部屋。

そこで各員が集まり、会議を開始するはずだった。

しかし、ヘプトと人間の使者の代表者が部屋に入って二言程度話すや否や、ヘビの形をしたヘプトをロープのように地面に押さえつけ、抑える手を光らせるとその人物はこう言い放った。

「管理権限の一時上限解除を行いました。第3養殖場は本日をもって解体します」

そう、言葉通り受け取るならヘプトを隷属化しようとしたのだ。

突然のことに動けずに一連の動きを見ているとヴェローサも同じく別の使者の物に押さえつけられようとしている所だった。

話し合いの場だ。こちらは攻撃的意思が無いとわかりやすく意思表示するために護衛を覗いて武器を身に着けていない。

ヴェローサはいつもの槍が手元にないので抵抗むなしく2人の人間によって地面に組み伏せられる。

護衛として部屋の入り口で待機していたゴリとゴラは武器を弾き飛ばされて草で編まれた網に壁ごと貼り付けられていた。

この時点でヘプト村側で自由に動ける者はエンジだけになる。

もちろん、抑えられていないだけで剣を向けられている。

相対している使者側の人間は、エンジがバイクに乗る装備。この世界では通じないだろうが、ヘルメットを被っていても人間であることに気づいており、キャストとは違って力で押さえつけるつもりは無い様だ。どうしてここに人間がいるのか?という疑問から戸惑っている、というのもあり得るが。

まだ幸いだったのが、チョビが人間に見られると色々とまずい可能性を踏まえ別の場所にいることだろうか。

「ちょっと!これはどういうつもり!?放しなさいよ!」

ヴェローサは首をヘプトを押さえている人物へ向け怒りを露わに声を上げる。

「ヴェローサ。あなたも隷属化する時が来たの。昔の好で私の知り合いを付けてあげるわ」

「ハルコ...あなた!」

ハルコと呼ばれた女性は少しにやついた表情でヴェローサへ語る。

「私をトウドウ様と引き合わせてくれたこの場所を解体してしまうのはとても悲しい。ヘプトにも感謝しているのよ。受け入れてくれなければ今こうして生きていないのだもの。でも、何もかも変化していくのよ。変わらなければ生き残ることはできないの。大丈夫。あなた達が名付けているヘプト村という名前がなくなっても。ヴェローサという名前が消えても。変化するだけで生き残ることはできるの。それって良いことじゃない?この養殖場の無生物は清潔で飾り気もあって素敵だからここを軍の駐屯地として改造するのは残念ね。でもしょうがないじゃない。怪物どもの勢力圏が思ったより広がってきているの。これはあなた達を結果として守るためなの。だからあなた達を管理していた人間よりいい生活を行っていたのもムカつくけどトウドウ様がうまく活用してくれるはずよ。お願い。私は今にも激高しそうな心を落ち着かせてあなたと話をしているの。あなたも無駄な抵抗はやめておとなしくしてほしいの」

「っ!?」

(な、なんだよこいつ。言ってることが無茶苦茶だ)

目の前で冷たく落ち着いた声で放たれる言葉を聞きエンジの頭に思考力が戻ってくる。

「ナガイ。私の会話による意識の誘導はこれ以上無理よ?さっさとそいつをヴェローサを隷属化しなさい」

ヴェローサを押さえていた2人のうち1人。ナガイと呼ばれた者がハルコに首を振ってこたえる。

「それが、管理権限の上限解除を同じく行って隷属信号を送っているのですが隷属化できません!」

「ん?そういえば、私の方も...何でなの?代表を、ヘプトを隷属化できない」

「こちらも護衛の奴らを隷属化できません!」

「ええ...そっちもなの?困ったなぁ」

どうやら向こうが想定していた通りに事が進んでいないようだ。

それは幸い。とエンジは思った。

そう、使役者がこのヘプト村のキャストすべてを隷属化出来るはずがないのだ。

攻撃的姿勢は取らないが出来るだけ対策を行おうと思った結果、隷属化の信号を受けても意識の切り替えや行動原理の変化が起こらないようにナナにお願いしてプロンプトを、アンチオーバーライドシステムをインストールしていた。それが今、功を奏したらしい。

だが、ハルコはすぐに次へ行動を移す。

「しょうがないわね。ここにいるのはすべて破棄しましょう。幸い、隷属信号を送っている間は動かせないみたいだし」

最悪だ。確かにオーバーライドは進んでいないが対抗するのにヘプトをはじめヴェローサもゴリもゴラも体が動かせないようだ。

(な、なんとか時間を稼がねば!)

「?お、おい。そこの人間。どういう立場かわからんが大人しくしていろ」

「お、俺の話を聞いてもらえませんか?」

「いや、無理だ。現状を理解できてないのかもしれないが、お前のように何者かわからない者を人間だという理由だけで組み伏せられていないだけ感謝しろ」

(だ、だめだ。漫画のように会話に乗ってくれない!この現実主義者が!)

しかし、この一瞬、部屋にいた者がエンジに気を反らしたおかげで破棄がほんの少しだけ遅れた。

ふっ、とハルコは鼻を鳴らすとヘプトの頭部へドスの様な物を突き立てようとする。

「うん?あれ?」

突き立てたドスがヘプトへ近づいていかないことに気づき、何度も力を入れなおすが刺さらないのでハルコは首を傾げる。

(間に合った?のか?よし!)

「警備ボットへ!脅威を無力化!」

エンジが思い切り叫ぶと室内にいた使節団の人間が一瞬にして部屋の端っこへ貼り付けられる。

「な、なんだこれは?」

「か、体が動かない...ここには何もないのに...」

電磁ストライカーを活用したフィールドで脅威となる人間だけを包み込むようにし、見えない拘束具とし、壁へ押し付けたのだ。

「危ないところ、でした。皆さん無事でよかったです」

部屋に入ってきた警備ボットからナナの声がする。どうやら直接操っているらしい。

「この部屋が電磁波を反射する関係上、本当の意味で電子レンジにならないように脅威対象だけを生命活動に支障なく拘束するための計算に少し時間がかかってしまいました。すみません」

ナナは事情説明と謝罪をする。

「いや、結果として全員無事なんだ。助かったありがとう」

「ええ、迷惑かけたわ。ありがとうナナ」

「き、肝が冷えたわい...ゴリとゴラも動けないが無事な様じゃな。幸いじゃ」

ふう。とエンジは緊張が解けてため息をつく。

「こ、これは一体なんなの?」

さっきまでの余裕綽々といった態度から反転。ハルコの声音にも表情にも恐怖が浮かんでいた。

「大変申し訳ございませんが、この村にいる使節団の皆さまも同じく拘束させて頂きました。生命活動には皆さん支障ございませんので安心ください」

「ああ、ありがとう。SOS発信機がこんなに早く役立つとは。とりあえず、屋内に使節団の人間を纏めようか」

「かしこまりました」

ナナは警備ボットを器用にお辞儀させ指示に従う。

「お、おいお前も人間だろ?どうしてこんなことをするんだ?こいつらに肩入れしても、今この場を乗り切れたとしても我々が軍を動かせばここは簡単に滅ぼされる。養殖場の奴らも消滅するより俺たちに大人しく従って生き延びられた方がいいんじゃないか?な?」

さすがは使節団に選ばれる人間だ。口がうまい者が多いのだろう。

「ふん。悪いけど、私たちは最後を自分で選びたいの。子孫を残せないんだから代わりに死に方は自分で決めたいって訳ね。似た考えはあなた達にもあると思うけど?私の最後が”人間の為”っていうのは我慢ならないわね。そのためなら戦って死ぬわ」

ヴェローサはゴリとゴラの拘束を解きながら答える。

拘束を解かれている最中のゴリとゴラもうんうんと頷いている。

「だ、だめよ。そんなあなた達は人間の私たちに守られていたの。怪物どもからも他の国からも。その恩を仇で返すつもり?許されないの!そんなこと!」

「ハルコ、あなたは昔あまりしゃべらない大人しい子だったわ。私のことを姉のように慕ってくれていたこと嬉しかった。人間と仲良くなれるって希望が持てた。でも、結果がこれなのね。3年前、あなたが連れていかれるとき、お互いに引き裂かれることを悲しんだのも...やるせないわ」

「...ぐ...じゃあ、その男はどうなの?もしかしたらこの人間もあなた達を利用しているだけかもしれない。自分の利益の為に!どうして私の言葉は信用できなくて!従えなくて!こいつの言うことは信用して!言う事を聞くのよ!?」

キッっと擬音が付くような目つきでエンジをにらみながら話す。

まだ懐柔することをあきらめていないのか、悪あがきを続ける。

「あなたはヘプト村からの、私達キャストからの恩を仇で返したわ。でも彼は違う。きちんと利害関係が出来上がっているの。お互いの利益、うぃんうぃん?だったかしらね。信用を信用で、感謝を感謝でやり取りしているのよ。あなた達の様な利己的で偽善的な人間よりいい関係を気づけているわ」

「くぅ...あなたは稀にいる異常性癖者なのね...」

(えっ?なんでそうなるんだ?)

ハルコの突然の発言に少しうろたえるエンジ。

「いい?私達人間とこいつら無生物は決して相容れないの。いつの日か後悔する。必ずね。それに、私達使節団を捕らえたとしてこれからどうするの?」

「どうする?何が言いたいわけよ?」

「私たちが町に戻らなければ2週間後には軍の本隊が動くの。そうなればここは無事じゃすまないどころかあなた達の同種、世にいる同志に良くない印象を与えることになるの。それがどういう未来につながるか。理解できているの?」

「...」

村長宅の大型リフトの上にヘプト村にやってきた使節団を運び込んでいる最中でもハルコは変わらず懐柔か対談を続けようとしているらしい。

(確かに。ここで本当にやり合うことになればヘプト村は自衛出来て守り切っても他の地域のキャストに良くない影響を与えるかもしれない。これは確かにそうかもしれない...く、確かに良くない未来だ...)

そう。基本的に生殺与奪の権を人間側がほとんど握っているこの社会では少しのネガティブがほころびを生むのは簡単だろう。

このヘプト村の状況が、起こった現実がどうであれ、キャストに対するネガティブキャンペーンが起こるのは確実と思える。

ハルコは逆に他のキャストを人質にかけた形だ。

「そう考えると、あなた達は私達を殺すこともできないの。そうなると特等席でここがどうなるのか見れるってことね。ふふ、楽しみ」

(くそゲス野郎が!しかし、確かに殺すわけにもいかない。それどころか不自由ない状態で捕虜として管理する必要がある。こんなムカつく奴らを)

ハルコの言葉で自分たちがひとまず殺されることがないのだと実感できたのだろう。拘束されている使節団の人間たちはおびえた態度を消し、横柄な態度に変わっていく。

気づくと全ての使節団の人間がここに集められていたらしい。総勢で50人いるようだ。

「おいおい、ちょっとは俺らの扱いを考え直した方がいいんじゃないか?」

「そこの兄ちゃんは無生物と心中する気らしいぞ?全く笑えるなぁ」

「へぇ。ハルコ様も言ってたけど時々いるらしい異常性癖者か?なぁなぁこいつらのどこに突っ込んでんだよ?はは!」

エンジはヘルメットを被り、バイザーを下ろしていたので表情を見られなかったのが幸いした。もし仮に表情がみられていれば使節団のいい攻撃まととなっただろう。

あまりにもくだらない、それでいて的確に神経を逆なでする奴らの言葉に区切りをつけ、今後の対策を話し合う場を一刻も早く設けよう。そう考えを切り替える。

思わず握りこんでいたこぶしは少し震えていた。

「ほ、報告があります!」

そんな悪臭立ち込めるような雰囲気をかき消すように自衛団の1人であるキャストが村長宅へ報告に来る。

「ど、どうしたんじゃ?今はそれどころでは...」

「それが、怪物どもがここに向かってきているようで...人間の商隊が引き連れてきてしまっているようです。人間を助けるか、怪物だけ追い返すか...とにかく急いで報告を行いたくここに来ました!」

そう、今解決しなければならない問題もあるのに加え、より面倒な問題が迫ってきているというのだ。

(冗談だろ?もう勘弁してくれ。こっちは色々手一杯なんだよ!)

エンジは頭の中で喚きながら頭の中で考えを、思考を進める。

「そうか」

その時、エンジは合理的な問題の解決方法を考え付く。

ストンと降りてきた考え、言葉に出す。それは...

「この使節団をその怪物に処理してもらおう。そうだ。それが良い」

それは悪魔的考えだった。

このまま生きて返しても良い印象を持ち帰る可能性はゼロだろう。

例え素晴らしい上納品を持って帰ったとしても。謀反を起こそうと、いや起こせるだけの力を蓄えているとばれてしまっているのだ。

だが、殺してしまうのも以ての外だ。

そうなれば、本当にヘプト村だけで問題は収束しなくなる。

最悪キャストは絶滅するだろう。

「商隊が状況を証拠として持ち帰ってもらえれば。そうか」

使節団の物が怪物に殺される。これは絶対にありえない事態ではない。

幸いそれを証明できる第3者、商隊の人間もいる。

同じ思考に至ったのか。使節団の一部。特にハルコは真っ先に表情が曇った。

「あなた達使節団も。ただ殺されるより、怪物と戦い、商隊を守り、そして死ぬ。素晴らしい。市民に対する貢献だ!」

少し演技っぽく。だが、先ほどまでの激情に任せるわけでもなく。そのフラットな声音は聞くものに鳥肌を立たせる。最も声音だけではなく、その内容に、そして自分たちの死に対し想像したのもあるのだろう。

「というわけで皆さん。協力してください」

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