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11話 ヘプト村大改革5

ヘプト村には現時点で、多くの組織が新設されているわけだが、対外的に行動を行う自衛団は厳格にルールを設ける必要がある。

ただ人間に対し威圧すればいいわけではない。そして必ずしも友好的である必要もない。そこのバランスが重要なのだ。

問題がるとすれば現時点までに歴史的に紡がれてきている格差関係だ。

エンジはまだ外の世界を知らない。話や映像で見ただけで、直接肌で感じたわけではない。

しかし、キャスト達は人間に管理される立場であることはヘプト村の別称が第3養殖場と呼ばれていることから明らかだ。

共存。という言葉に首を縦に振る人間がどれほどいるのか。

恐らくいないのだろう。そんな考えを持つ人間が居るならばこういった社会構造は出来上がっていない。

(外交か、営業だとかならまだわかるんだがな)

エンジはもちろん、ヘプト村にいる面々もそういった経験はない。

幸いだったのは、エンジとヘプト村の代表であるヘプトはこの村の自衛団の在り方、方向性については概ね同意見だったので、村の中でいらない派閥争いが起きなかったことだろう。

現在決まっている条文は5条だけ。

1、いかなる状況でもキャスト、人間を問わず殺さないこと。また、キャスト、人間を問わず、徒に危害を加えたり威圧しないこと。

2、ヘプト村に住む村人の生命、財産、情報を守ること。

3、自身の身の安全を重視し行動すること。

4、日々の自己研鑽を弛まぬこと。

5、命令系統を必ず守ること。

と、まぁ簡易的にだが行動原則は決まっている。

命令系統と格好つけていっているが、トップをヘプトとし、オブザーバーにエンジかナナを必ず付け、現場での指揮をヴェローサもしくはゴリとゴラで行うというものだ。

現状では実際に村周辺を警備しているのは警備ボット達である。

警備ボットは1mほどの円筒型で、6本の虫の様な足を持っているバクテリオファージの様な外観だ。

武装は汎用電磁ストライカーと樹脂弾を持っている。

電磁ストライカーは電子レンジを武器に利用したものでナナ曰く一般的な装備の1つで、空間ホログラムと合わせてバリケードを作り、指定範囲への侵入を防ぐ使い方と、テーザー銃のように対象を無力化する使い方の2通りがあるらしい。

どちらも健康へは影響ないらしいが、ナナの時代では対抗手段が普及しておりセラミックで編まれた服などには効果が無かったらしい。

幸いにもこの時代では関係なさそうだった。

樹脂弾はゴム弾の仲間で、状況に応じてカラーボールや催涙弾も射出出来るらしい。

そして今、目の前にはそんな警備ボットが42台並んでいる。

(ヘプト村の規模からいうと戦力過剰?かな。)

人間や生物と違い、エネルギーが続く限り警備を続けられる警備ボット達は20台が村内部、10台が村外縁部、5台が自動工場、2台が自衛団の当日の責任者の護衛、残りの5台が予備として村長宅に配備される予定だ。

「ではヴェローサ、ゴリ、ゴラの3名を自衛団の責任者として任命するのじゃ」

「「「はい、全力をもって責務を全うします」」」

「うむ、任せたぞ」

今、村長宅では任命式と自衛団の結団式が行われている。

これからのヘプト村の防衛を担う重要な組織だ。当然住民からの興味もありお披露目も兼ねていた。

「うーん、なんだか頼りない、というか弱そうだな」

「いや、これだけ戦力が増えたんだ、俺たちの変わりにならなくともありがたいと思おう」

「戦ってみたいな」

(意見は様々か。当然だな。幸い予想の範囲内だが)

「では警備ボット達の性能をお披露目致します」

少し大きめの声でエンジが集まっている住人達へ伝える。

「ゴリくん、ゴラくんよろしく」

任命が終わりエンジの横に控えていた2人に声を掛ける。

2人はうっすと言い地下のエレベータを動かし用意していたものを出す。

猪?と住から疑問の声が上がる。

そう、出てきたのは少し大きめの猪。これから警備ボットの対戦相手となるものだ。

「本来、猪の借りは罠を用いているかと思います。...皆さんの何人かは手痛い目に実際会われたこともあるかと思います」

エンジは自分自身の経験上、野生動物を狩ったことはない。しかし野生動物がどれほど脅威であるかはこの村で生活して嫌というほど経験していた。

「皆さんには実際に目で見てもらった方が良いかと思い、実演形式でご覧入れます」

住人たちは興味津々といった感じで成り行きを見ているようだ。

「え、猪と1対1なのか?無茶じゃないか?」

「武装を内蔵していると言ってたけど、どんなものなのか言葉からは想像できんな」

「あれは俺が依頼されて捕まえた奴か、大変だったぞ」

そういった声が上がる中、猪が檻から放たれる。

しかし、特定の距離以上に近づこうとしても見えない何かに妨げられているように前にも後ろにも進めないようだ。

「まずは電磁ストライカーです。今見えているように対象の身動きをある程度封じることが出来ます」

おお、と声が上がる。

「次に樹脂弾です」

ピグゥと猪から悲痛な声が上がる。

警備ボットが猪に通常の樹脂弾を当てたのだ。

痛みに悶え、暴れようとするが身動きが出来ないのでただ震えているようにも見える。

可愛そうだと考えながらも次に進めていく。

「次が対象を見分けるためのカラーボール」

鳴き声こそあがらなかったが、猪は黒かった毛皮をオレンジ色に染められている。

「では次に催涙弾」

出来るだけ対象にのみ効果が出るようにされた催涙弾はエンジの知っているタイプのガス状の物ではない。

射出された専用樹脂弾から命中先に200メガパスカルの圧力で対象の皮膚を貫通し体内に直接インジェクションされる注射の様なものだ。

猪の毛皮程度では防げず、防弾チョッキレベルでなければ防ぐことはできないだろう。

ギュウ、と小さい鳴き声が聞こえたと思ったら猪は昏倒したように倒れる。

(できれば撃たれたくないな)

目の前の獣は顔の部分からいろいろな液体を垂らし、しまいには小便も漏らしてしまっている。その効力は折り紙付きのようだ。

当然、住民たちは何が起こったのかよくわかっていない。

しかし、とても心強い味方であるということがそれとなく証明できたなら今日の所は御の字だ。

「うわ、掃除が大変そうね」

ゴリとゴラと同じく近くに控えていたヴェローサがため息のように声を出す。

少し前であればあまり気にしなかったであろう汚れ。しかし、現状では村人どころか、どこもかしこもが綺麗になり、こういった汚れが目立つようになってきている。

そういった意識の変化が根付いてきているようでエンジとしてはうれしく思う。

「あー、まぁお掃除係に任せよう」

ゴリとゴラはうぇ、という感じで猪を持ち上げて木の棒にくくり解体場に運んでいく。

「以上で警備ボットの性能お披露目は終わりです。お集りの方の中で質問がある方は居ますか?」

一瞬の間があってカンガルーの様な形状のキャスト1人が手を挙げる。

「あのー、この子達は私たちを襲ったり、村の外の無害な野生生物を狩りつくしたりしないでしょうか?」

エンジはある意味ベストな質問が来たなと思い返答する。

「はい、警備ボット達は村の住人皆さんを記録しております。村長か自衛団の責任者から許可がない限り警告以上のことは行いません。また、それ以外の対象の場合、行動原理は受動的、所謂攻撃的な行動をとられたり損害を与えられそうにならない限り、警備ボットは攻撃に出ることはありません。とはいえ、実際にはこれから本格的な運用を開始します。皆さんからの報告も大事ですので手数をお掛けし申し訳ございませんが、問題がありましたら自衛団責任者へご報告ください。」

エンジの返答に満足したの、ありがとうございます、わかりました。と下がっていった。

他にはとくにはなさそうだと判断し、ヘプトへ目配せする。

うむ、とヘプトは頷き締めの言葉を発する。

「皆、今日はありがとう。ここに来られなかった者たちにも今日見たことを伝えておいて欲しいのじゃ。では、自衛団の諸君。今日からよろしくの」

「「「かしこまりました」」」

猪の運送を終え、戻ってきていたゴリとゴラ、そしてヴェローサが声を合わせて返事をすると今日は閉式となった。


「さて、次は具体的なヘプト村の今後の方針についてじゃな」

閉式後、そのまま村長宅の村長室でヘプト村の今後についてそれぞれの代表者を集め会議をしている現在。ヘプトの一声を皮切りに会議が始まる。

「そうですね。ようやくいろいろな問題にひと段落付きました。人間達が次に来る5日後までに決めたいですね」

エンジはヘプトや集まっている周囲を見ながら発言する。

「ふふ、今の私たちの村を見て驚く人間どもの姿が今から楽しみだわ」

何処となくいたずらっ子のようにエンジを見ながら話すヴェローサ。

「地下設備は変わらずヘプト村の最高機密と言う形でお願いいたします」

ナナはヘプトを見てあらかじめ決めていた条件を再度確認するように話す。

代表者会議と言うが、あくまでこの社会構造ではヘプト村はヘプトの所有物の様なものだ。人間によって管理されているが、自治権の様な物を任されているためだ。

そのため、ヘプト以外の物は意見は出せても決定権はない。

幸いにも、ヘプトは色々な現場からの意見などを聞き入れしっかりとした判断を行っている。

そういった意味ではエンジは不安は抱いていなかった。

最大の不確定要素はやってくる人間が変化著しいこの村を見てどのように感じ、何を要求してくるかだ。

警備ボットは隠せても大型の発電所は隠せない。

そもそも、エンジは人間からの支配ではなく共存を目指している。そこについてヘプトも同意見のようだ。

つまり、この状況をひっくり返すにはある程度の武力のちらつかせは必要だと考えている。

そのため、警備ボットを隠すつもりもなく、地下設備以外は村の発展についてある程度話をする予定だ。

もちろんこれは博打である。

人間側からすれば利用価値が上がったと考えるのが妥当だろう。

しかし、今ある力を隠していては今まで通りだ。

「それで、結局来る人間どもは追い返さずにいつも通り物資の引き渡しをするわけね」

ヴェローサはやれやれうんざりと言った感じでそう言う。

「うむ、それがよかろうて。しかし、渡すのはそれだけじゃ。村の者が使役者に隷属されることは確実に拒否させてもらう。そう考えておる」

「ささやかな反抗。でも確実な変化が起こせると俺は思います」

「そうなってくれることを祈るわ」

「そうじゃの」

そうして4人の会議は続くのだった。

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