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10話 ヘプト村大改革4

またまた今日も、エンジは忙しい1日だった。

ヘプト村の住人の洗浄は一通り終わった。清潔を維持するのにこれからも定期的に洗浄槽へ通う必要があるが、地下設備はまだまだ使っていない敷地がある。洗浄槽をもっと増やして銭湯のようにすれば自ら通って綺麗にするだろう。

現在はそんな洗浄区画の拡張と維持はアーダ達に任せている。本人たちはやる気十分で、洗浄課という部門を作り、ナナにお願いして制服も作ってもらったのもあるのだろうが今日もせっせと作業をしている。

今忙しいのは整備区画が完成したからだ。

緊急度や重要度によってトリアージ処理を済ませてあるが、実際に作業してみると想像より難しかったりわからないことも多かったのだ。

それも当然である。エンジがいかにもともとエンジニアとして働いていて基礎知識があるとはいえ今ここに存在しているキャスト達ははるか未来の技術なのだ。ナナに資料を用意して貰っていたとしても、専用の道具が揃っていたとしても、なかなか思い通りにいかない。それも意思を持っている者が対象なのだ。

(麻酔がいらなかったり、グロテスクな内臓を見るわけじゃないから医者のような、というのはおこがましいかな)

「うん。これでいいでしょう」

今、目の前にいる患者はアーダの知り合いらしく、同種類だが人間でいう腰椎を損傷しており歩き回ることもままならない状態だった。

(確か、領主への献上品を作っている農場で野生動物に襲われたんだったか)

キャストは人間等の生物と違いエネルギーを供給できる限り滅多な損傷で死ぬことはない。

しかし知性をもち仲間意識の強い村の者は、自分が自活できないせいで迷惑をかけていることをよく理解し、何度も自分の活動を停止して欲しいと懇願していたと聞いたとき。エンジは何とも言えない悲壮感を胸に抱いていた。

うぬぼれだが、自分の手でその闇から救えるものがあるのなら出来る限り助けてあげたい。その一心でこの忙しさによる疲労もまた充実感となっていた。

「あ、足が動く...動くわ!」

そして修理を行い、驚きと喜びの声を上げるキャストを見てよかった。とエンジも喜びを心に抱く。

「ああ、いきなり外は歩かないように。君は今まで俺が修理作業をした中で最も難しく大々的な作業だったんだ。バランサーロジックもキャリブレーションは自動で行われるが、しばらくはアーダの元で手伝いをしてると良い」

今回行った作業はすべての制御ユニットを新しい体へ移す作業だった。

人間でいえば、脳の移植の様な物だろう。一般的な感覚でいえば内部のデータを移せばいいのでは?とも思ったが、キャスト達の意識はプロセッサや心に宿るのではなく記憶媒体そのものに宿るのだそうだ。

(まぁ、俺の時代にも人間の心がどこに宿るのかなんて結局わかってなかったしな)

結果として、ゲルに包まれたキャストの脳、ブラックボックスと呼ぶことにしたが、それを弄り記憶装置だけを交換することはブラックボックスの名の通り出来そうにない。

「ふぅ、ひとまず違和感は無いか?」

「はいっ!感謝してもしきれません!正直に言えば、不安でした。失敗したならしたで活動を停止するだけ。でも、予備の部品を1人分も使ってしまえばどれだけの損失になるか...エンジさんの腕を、能力を疑っていたわけではありませんが...これからは迷惑をかけてきた分皆を助けられるように頑張ります!」

修理作業を行ったプラスチックで出来たベッドからゆっくりと降りエンジに頭を下げる。

これだけ動けるなら問題は無いだろうと思いながらチョビに頼んで修理した子をアーダの所へ案内させる。

「さて、一旦綺麗にして、次のキャストの修理の準備をするか」

まだまだ故障や不調に悩んでいる村人はいる。今はどんどん経験値を積み、より多くのキャストを迅速に正確に修理できるように備えるべきだろうと使った器具や道具を整理整頓するのだった。


次の日、エンジは週に1度の休日を満喫していた。

ヘプト村には具体的な休息日はなく、各々が適当なタイミングで休息をとっていた。それは人間と違い、疲労という概念がほぼなく、エネルギーさえ供給できれば確実に労働が行えるからだ。もちろん、それを見越してここの社会では養殖場と呼ばれている場所では食料の献上を引き換えに、人間側から全てのキャスト達を隷属化されたりしていない。キャスト側への生かさず確実に搾取できる仕組みはいつの間にか浸透し、今や人間側は誰もが概念として認識している。

そんなことを知る由もないが、エンジは人間で疲れもすれば食事も必要で睡眠もいる。

食事に関しては、最近はヘプト村の面々から肉を貰ったり、野菜を貰ったりして、魚だけの食生活からようやく抜け出していた。

(調味料がそろそろ底をつきそうだ。せめて塩だけでもどこかで入手できないか)

あとでナナかヘプトに聞いてみようと思い、地下の人間用区画を改装していた。

何故休日なのに仕事をしているのか。

それは自分が快適に生活するためには、充実した休日を送るにはまずここの区画を自分の理想の環境にしなければならない。

(とりあえず、室温と湿度、広さには問題がない、逆に言えば広すぎて落ち着かない)

ここの居住区画は地下施設の全体の1割程度の大きさだ。

しかし、その1割でも200平米の区画が5個ある。

今はその区切られた200平米の1つにエンジは居た。天井は2.5m程度でそれほど高くはないが閉鎖感はない。

本来はオフィス区画や多くの人間が住み込みで働くための寮の様な物があった場所だが、今はそのすべてが均されている。

(まずは人間用、正確には俺用の風呂が必要だ。あとはキッチンと水洗トイレ。こうなると一戸建てみたいなのを建てるか?)

元の世界では会社の用意したアパート住まいで家は持っていなかった。そのため少しワクワクしているのも事実であった。

「よし、チョビ。ナナの所へ案内してくれ」

最近はエンジのルート案内役が多いチョビは慣れたようにナナの元へエンジを連れていく。

「はい。かしこまりましたエンジ様。元々あった生活区画の一例をお見せしますのでよろしければすぐに建築を開始させます」

「ええと、そのすみません。手を煩わせて」

エンジと違い休みなく施設の改修を進めるナナに少し後ろめたさを感じる。

「とんでもございません。エンジ様の役に立てることが私にとっての喜びです。セブも喜んで建築を行うでしょう」

「そういわれると照れるな...」

生活区画と呼ばれたのはもともと寮にあった個室なのだろうもので、間取りを見てみて問題なかったのでエンジは建築をお願いした。

「明日には完成できると思います。家電製品も用意させるように自動工場へ要請しておきます」

「ありがとう。ああ、あともう一個だけ聞きたいことがあって、調味料を、塩を入手できないかな?」

「それでしたら、地下資源の回収時に掘り当てた温泉から塩を抽出が可能です。実は今まで必要とされておりませんでしたので備蓄として大量にございますが如何しましょうか?」

「一応確認なんだけど、それは食用に使えるんだよね?」

「はい。もちろんでございます」

「じゃあ面倒ついででそれも幾つか建築時に届けて欲しい」

「かしこまりました。1kgほどをお持ちするように致します」

再度ナナへ礼を伝えると、すぐにセブが建築を開始するとのことで建築予定地へチョビと戻る。

そこにはすでにいくつかの修理ボットとセブがいた。

「ようエンジ。久しぶりだな」

「ええそうですね。お互い忙しかったですし」

「ああ、ようやく地下の発電施設は完全に修復出来た。地上の発電設備も問題ない。改めて礼をいうぜ。その恩に答えるためにも建築の方は任せとけ」

4本ある作業アームで親指を立てる動作をするセブに建築を任せるのは全く不安はない。

「はい。よろしくお願いしますね」

結果として、その日の23:55にはほぼすべての建築が完了し、最後の5分で生活家電が運ばれていくと翌日00:00には住める状態になっていた。

(明日って、そういういみだったのか...いやありがたいけど。すごいな。ふぅ)

上下水道は問題なく、お湯も出たので本当に久しぶりのお風呂に入りながらリラックスする。

ベッドも用意されており、チョビがベッドの上で飛び跳ねるトラブルはあったが、それは頑丈さの証左でもあった。

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