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9話 ヘプト村大改革3

最近のエンジは忙しくしていた。

それは自動工場の修繕でも、ヘプト村の設備建設でも、地質調査の為でもない。

ヘプト村のキャスト達をキレイにするのに忙しいのである。

「えーと、次はドレミさんですね。チョビに付いていって指示された場所へ立ってください」

現在、洗浄区画に出来ている列に並ぶキャストは20体ほど。大体1体に30分ほどかかる計算でこれだけで今日の仕事は終わりそうだ。

目の前ではドレミという名前の馬に似た外観のキャストがおりチョビの先導によって洗浄槽の上に立っており、床の昇降を待っている。

「では、超音波洗浄を開始しますから動かないでくださいね」

ドレミは首を頷くように動かしてじっとしている。そのまま洗浄プロセスを開始し10分後には汚れが落ちた状態で洗浄槽から出てきた。ヘプト村にいるキャストは大きさや種類が様々だ。全員を見たわけではないが、現在までで訪れた種類でいえばヘプトやヴェローサ、チョビと同種は見たことがない。逆にヴェローサに似た種類は比較的大くいるようで言葉も通じる関係上洗浄を手伝ってもらったりしている。

「エンジさん。乾燥が完了しました。ドレミちゃんのボディ確認とダイアグノーシスをお願いします」

「ああ、ありがとう。アルマイト処理は問題ないか?」

「はい。問題ないようです」

そう答えるのはアーダという名前の女性型キャストだ。この洗浄区画では10名の同種類のキャストに手伝ってもらっており、その10人の中の班長がこのアーダだ。

ナナによると、もともとオフィス区画の受付だったり給仕だったり所謂雑用係だそうだ。そのため重い荷物を運ぶ能力もなく、移動速度も遅い。隷属化しても人間の奴隷の方が安くつくとのことで連れていく使役者は少ないようで、そのためかヘプト村には同種が多く残っているらしい。

顔や体の各所にあるパーティングラインやプラスチックで成形された髪型を気にしなければ人間に非常に近い。ナナにも似ているが、ナナの方はより人間らしく、全体的に魅力的な女性と言える。

「うーん...これは修理したほうが良いかな」

ドレミの体をタブレットでスキャン、正確にはキャストのセルフダイアグノーシスコードをタブレットで読み取っているのだが、その結果とボディの状態を比較してそう伝える。

ドレミの方も自覚はあるようで、ええ、そうなんです。と言うように首をがっくりともたげる。

「大丈夫ですよ。そこまで深刻な状態でもありません。また後日にはなりますが整備区画の用意が出来たらそこへ来てください。万全な状態にしますから」

ありがとうございます。というように姿勢を正しながら頭を下げる。そのままアルマイト処理に回しアルミ部分のくすみを取り光沢のある美しい表面処理が出来上がっていく。その様子を本人はとても喜んでいるようだ。洗浄区画を出ていくときにも頭を下げて感謝の意を伝えながら退出していった。

もちろん、感謝と喜びを感じているのはドレミだけれはない。アーダを始めとする者たちやチョビ、ヴェローサもそうだがエンジには大きな借りが出来たと皆思っている。最近はエンジのご飯を用意することを専業にしているものや仕事を手伝うものも多く、ヘプト村にいる村人はエンジに当初抱いていた疑いの念はなく共に歩みを進める、いや村の発展を推し進める重要人物だと誰もが思っている。

アーダはヘプト村の中でもエンジ心酔していると言ってもいい。もちろん表建て表現したりはしないし、同種の物にも似た心境の者がいることも理解している。それは彼女たちが清潔という言葉と服飾というおしゃれ、そしてやりがいのある貢献できる仕事を与えてくれたからに他ならない。

(整備区画が用意されればエンジさんはもっと忙しくなります。私たちが支えなければ!)

そうアーダ達が心で思っていることはエンジは知らない。

今日まで変わらない、失望の毎日がヘプト村にははびこっていた。

人間による終わらない搾取。

村の給電ステーションの立て続けに起こる電力不足。

修理も出来ず活動が出来なくなる仲間。

もちろんすべてが解決できたわけではない。

それでも何もなかったころから言えば大きな変化が毎日起こっている。

人間への抵抗手段として自衛団が形成され、警備専用のボットと呼ばれるものが出来た。

太陽による発電設備が建ったおかげで電力不足が起こることはなくなった。

完全ではないが簡易的な修理で機能を回復し、整備区画が出来ればまたともに活動できるようにでなる予定だ。

それだけでも十分だが、変化はそれだけに留まらなかった。村の者は体を綺麗にし清潔という言葉を身をもって学ぶことが出来た。

さらには人間のように布を身にまとい、アーダ達はおしゃれという文化も学んだ。

此処で多くのキャストは今まで気づかなかった感情を理解した。

自分たちは憎んでいる人間に憧れも抱いていた。と。

今のヘプト村にある空気は次の徴税、正確には食料品を領主へ納めることだが、その日にやってくる傲慢な人間たちを見返すことが楽しみという様子だ。

そのように現状発展しているからと言って、ヘプトは人間との正面向かって抵抗をしたり戦闘を行いたいわけではない。いずれはエンジのように人間の村と友好を結べると、同じ未来を歩めると希望を抱いている。そういった意味では納める物は納めるつもりだ。

もちろん、地下設備や新たに生まれてくる予定の仲間たちを隷属させる気もないようだが。

ともかく、次にくる人間の使節団がどのような態度を対応をしてくるのか。それが見えなければどのようにすれば健全な関係を築くことが出来るのか、その道筋も見えてこない。出たとこ勝負と言うところだ。

だがしかし、確実にその日は近づいている。この村にいる者は全員わかっていた。

良い想像と悪い想像、どちらも入り乱れている。エンジはどちらかというと悪い未来を創造している。理由は自分が人間で、その人間がどれだけ欲深い生物か理解しているからだ。人間側の戦力もよくわかっていない。武器は何を使うのか?銃器なのか?魔法なのか?それとも前時代的な剣や優実などの武器なのか。

自分が戦力にならない分、なおのこと不安な要素が多いと考えている。

(それでも人間を殺したくない、なんてエゴなんだろうか)

その感情は生物としてなのか道徳心からなのかわからない。現時点では直接的にキャストがどのように扱われているのか、使用されているのかわかっていないので嫌悪感もあまり人間には湧いていない。せいぜい酷いことをしている人たち、程度のものだ。

(今は目の前の作業に集中だな)

現在行っている作業は人間との共存において重要な役割を担う可能性がある。そのための清潔キャンペーンだ。

(服も与えれば意外と喜んで着てくれた。人間と同じなんて嫌だ、と言うかとも思っていたけど)

エンジは自分の村での信用はまだまだこれから稼がなければいけないと思っている。実際には現時点で信用度どころか好感度までマックスな者たちがいることには気づいていないだけなのだが。

今は実直に自分のできることを進めていく。それを改めて目標に掲げる。

「さて、今日はまだまだ頑張っていきますよ!」

そう言ってやる気あふれる言葉を振りまくアーダを見てエンジも満更ではない。明日にはヘプト村全員の洗浄が完了する予定だ。それが終われば地下設備の清掃やヘプト村の清掃等が待っている。その変化をエンジ自身も楽しんでいることを体感すると自分がこの村に馴染んできたのだと実感できた。


:::::::::::::::::::::

「ほう、それで調査任務を失敗したうえに隷属化していた戦略的資源を手放した。と?」

大きな平屋の広間で10人程度が1部屋に集まっており、1人を詰問している形だ。

「は、はい。誠に申し訳ございません。で、ですが、使役者の基礎原則として何よりも自分の身を守り生き延びることを前提とせよと学んでおります。何卒お許しを...」

そう答えたのは年齢が20代前半の男で、顔には汗がにじんでいる。緊張しているのか手は握りこみ微かに震えているように見えた。

「ふぅ。確かにその発言はもっともだ。しかしそれは決して自らの功を焦り包囲網の穴を作ってしまった者が出来る言葉ではないな。幸いにも作戦が失敗しただけで、ケガをした者だけで済んだ。だがそれは貴様の持つ全身全霊をもってすればケガ人は出ずに済んだかもしれない。作戦を放棄し撤退しなくてもよかったかもしれない。失敗や焦りはどうしても起こってしまうものだ。だがその失敗の責任を取るわけでもなく我が身可愛さに持ち場を外れ一目散に本陣に撤退してきた!そのようなお前に!これ以上言えることが何かあるのか!?」

「っ!申し訳ございません。何卒次の機会を!養殖場に向かい新たに隷属化の為の場を与えてください!そうすればトウドウ様の為にも仲間の為にも必ず戦力になると誓います!」

最初に質問を投げかけた者。怒鳴られている者からトウドウと呼ばれたものは声こそ荒げているものの目つきは冷たい目のままだ。しかし、思考は冷静であることの証左でもある。

「次の徴税。その使節団には貴様を付ける。それでよいな?お前の家、ナガイ家の汚名を返上するためだ。決して貴様の為ではない。成果を持って帰るように」

「ありがとうございます!」

ナガイと言う名の者は返事をすると礼をし平屋から出る。

次こそはあんな役立たずの愚図ではなくあの第3養殖場にいる使役対象から一番の物を隷属させる。例えば槍を使う生意気な態度の奴や、護衛役の奴でもいいだろう。この時点で彼の考えからは自分の焦りのせいで作戦が瓦解したのではなく隷属した物が使い物にならなかったせいだと思考を切り替えていた。

自分は優秀だったのに、突撃の時に機動力がいつもより出なかったあいつのせいだと。

「次の使節団は15日後か。なんとしても屈辱を雪がなければ」

彼は強い決意で呟くのだった。

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