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0話 プロローグ

人は納得を求め生きている。

なぜ、重力はあるのか。

どうして宇宙は存在するのか。いつ始まったのか。

人間が生きる意味、死ぬ意味とは。

人々は理由を求め、観察を、想像を、実験を、分析を、計算を、研究を、解体を、妄想を、行動を、繁殖を、虐殺を、それら一連を経た結果をその意味を知った、理解をしたとき納得をする。

だがしかし、私が生まれた意味を知れた時、納得できるのだろうか?

そして、君も、また。


/////////////////////


彼は今、困惑をしていた。

「GPSが反応しない?」

初めて走る道。バイクで一人ツーリングをしているときだった。久しぶりの5連休で職場の移転に伴い休みを言い渡されていた。運がいいことにちょうど今日が26歳の誕生日でもあるので会社からの贈り物と言えなくもない。

上司からは「エンジ君もそろそろ結婚考えとかないとさ、もう30歳まで一瞬だよ。こんなんなっちゃうよ?旅先でいい出会いとかあるといいね!」と言われたのをふと思い出す。

今、目的地の一つとして走っていたここは、人が消えると噂の真っ暗で不気味なトンネル。1車線分しかなくてこんなに長いトンネルなんて日本にあったのか、と気分上々に走っていったのもどこへやら。明かりが見えて抜けた先は突然の砂利道で、50km/hの速度から唐突の不整地だった。車体の電子制御が暴れる姿勢を必死に制御しているのを感じつつ、何とか安全に停車できるところまで移動すると緊張して冷や汗をかいた体を落ち着かせるために一息つく。

そこで先のGPS云々の一言に戻る。

もちろん、トンネルの中ではGPSが使えないものなのはわかっている。しかし、今はどうだろうか。空には燦々と輝く太陽がみえる。山間を走っていれば携帯電話の電波が入らないことがあるのはままある。

だが、備え付けのナビゲーションも、スマートフォンも、そして自身が着ているセーフティウェアも、そのすべてが自分の居場所を見失っていた。

GPS衛星との通信を妨害する建物はおろか山も見えない。

しかし、この時の俺に困惑はあれど焦りはなかった。そう、ツーリングとは非日常を経験するべきためのものだ。このありえない状況に無性にワクワクし、自分が出てきたトンネルが何だったのか何処からどう出てきたのか確認もしなかった。徒歩でしばらく戻り、確認することもできたにも関わらずに。

日本国内を走っていたのだからいきなり危険な場所に出るわけないという漠然とした考えもあった。

”それ”を見れば自分がどれだけおかしな場所に、異常な方法でたどり着いたのかもう少し早く気づくことができたにもかかわらず。


「もう少し走ってみて様子を見るか」

目の前の手つかずの自然をみて燃え上がる興奮に身を任せ、何となく道に見える場所を走っていく。

その道と何とか呼べるものは、何かが日々往来した結果できたと見え、土が踏み固められ雑草も生い茂っていない大きめの獣道のような場所だ。

「モードをエンデューロにして、少しタイヤの空気圧を抜いて...航続距離があと350kmだから100km程度を最大行動半径とするかな」

気楽な一言をつぶやき、停車中に止めていたバイクのエンジンを始動する。幸いにも今日乗っているバイクは手元のスイッチでモードを切り替えればオフロード走行も可能なタイプ、いわゆるマルチパーパスなモデルだ。タイヤは雰囲気でつけていたブロック形状のトレイルタイヤのおかげで未舗装路も砂利道も何のそのでサスペンションのストローク長も十分。パニアはアルミ製で野宿も出来る程度にフル装備状態である。

そして自身のバイクと装備を確認の後、意気揚々と目の前の木々が追いしげるフロンティアへと進んでいく。

「この道がこのまま続くとなると少し厄介だな。腕が少し疲れてきた」

そう呟いたのが、15kmほど走った時だった。

走行に支障はないが、未舗装路でのバイクの走行は想像より体力を消耗する。お尻をシートから浮かしスタンディングのポジションで走ることで体に来る衝撃をやわらげつつバランスを取りやすくするためだ。

もう少し走ると森を抜けた。

目の前にはかなり浅く幅の広い川があった。

「日本じゃないんじゃないかと思えるほど広い河川敷だな」

周囲を見渡す。この川辺で500人程度キャンプできそうなくらい開けた場所だった。

川を渡河するべきか見物していると一つ気づいた。

「川が虹色?オイルか?」

何となく、人の気配を感じ、好奇心から川上を目指してみることにする。

そこからさらに10kmほど走行したところで何か生き物のようなものが見えた。川の中に半ば浸かっており、もがいているようにも見え、危険も考えず好奇心の赴くままに近づいていく。

「ロボット...?か?」

目の前にいる存在は4本足ではあるが到底生物とは思えない見た目をしていた。しいて言いうならば何となく猫のようなフォルムをしている。

しかし、どう見ようとも本物の猫と見間違うことはないだろう。なぜなら毛もなければ皮もない。黒色のフレームが複雑に絡み合っており各関節部はライトスモークの透明なプラスチックのような物でカバーされている。

一方で頭は猫耳のシルエットにも見える部分があり、お尻側には短めの太い尻尾もあり、どことなくかわいらしさを感じる見た目だ。

そして、バイクの音に気付いたのわからないがそのロボットの頭部が力なさそうにこちらを向く。

何となく目が合った気がした。

その瞬間、よりいっそうにもがきだしたがどうやら立ち上がることが出来ないらしい。

可愛そうに思えたので、近くにバイクを停めて、徒歩で近づいていく。どうやら暴れる力も、さっきのもがきで無くなったようでぐったりしているようにも見えた。

大きさは意外と大きく、大型犬より少し大きいくらいのサイズで成人男性が乗れそうな程度だ。

全体はかなり汚れており、ところどころ塗装剥げやプラスチックの割れもあった。かなりヘヴィーデューティーに使われていたようだ。

「矢?か?これ。ちょっとごめんよ」

よく見ると腹部に見える箇所のプラスチックの容器からオイルが漏れていて、そこそこ大きめの矢ががっつりと貫通しており、それが原因なのは明白だった。痛みは感じないのだろうが、謝りつつ矢を引き抜く。

ピーとかヴーとか鳴き声のような音を発しているが無視してもっと観察してみる。就いている職がエンジニアなので、どうしてもこういった機械がどのような構造をしているのか気になってしまう。

「なるほど、これはおどろいた」

アクチュエータは油圧式とSFでよく見るような青色の人工筋肉(?)のハイブリットだった。

なぜこんなところに先進技術搭載のロボットがいるのか、そもそも人工筋肉なんてまだまだ実用化なんてされておらず、せいぜい空気の膨張を使って伸び縮みさせるまがい物しか知らない。

しかし、目の前のそれはささみにも見える繊維が見え、ちゃちな構造ではなく、本物の、いや人工ではあるがまさに筋肉に見えた。それだけスムーズに首や前足をその筋肉で動かしている。

それにしても何故、こんな何もない田舎の川辺で?と、気になったが、それよりも目の前の素晴らしいロボットが動いているところを見てみたい。そちらの興味のほうが勝っていた。

力なく、なすすべなく横たわっている姿がなんとも不憫に見えたのもあり一言呟く。

「直せそうか見てみるか」

フレーム構造から察するに腰部分と後ろ足のメイン動力が油圧のシリンダーで動作しているようで、もがいてもその場から動けなかったのは油圧シリンダーを動作させるためのオイルがなく、油圧をかけることが出来なかったからのようだ。

人工筋肉に問題があれば手出しは出来ないだろうが、これなら何とか出来るかもしれない。

そんな風に観察しているこちらを見て害意はないと感じとったのか横たわった姿勢のままロボットは大人しくなる。

「そうなると、さっきのタンクは油圧用のリザーブタンクか。では失礼して」

矢で穴が開いていたタンクは200cc程度の容量に見える。穴自体は大した穴ではないので緊急時用にバイクに積んでいたアルミテープとダクトテープでぐるぐる巻きにして塞いだ。そして肝心の駆動用オイルだが。これも大事を思ってバイクに積んでいた補充用のエンジンオイルを入れてみる。1L缶を一本だけしか持ってないが補充用のキャップを開けて入れてみる。

「シリンダー内部も考えると合計で何cc入るかわからんが、とりあえずこのロボット君を水平にして...いや、無茶苦茶重たいな...よいしょと...オイル粘度は15w50だと固いかな?」

オイルを入れていくとモーター音がしてリザーバータンク内のオイルがどんどん吸われていく。少し観察していると、タンク以外にも漏れ出ている切り傷の様な箇所があったのでそちらもアルミテープとダクトテープで応急処置を行う。そこは結構な油圧がかかっている箇所のようで応急処置を行った油圧ホースからは少しずつ漏れ出している。

「まぁこれくらいならしばらくは大丈夫かな」

800cc程度入れたころだろうか、リザーバータンクのオイル給油口付近にある赤色のLEDが黄色を経て緑色に発行する。おそらくオイル残量のインジケーターなのだろう。しばらくすると油圧シリンダーのエア抜きを行っているのか水平だった体を少しずつ左右に揺らし、ピーと鳴くと猫の伸びのような姿勢をすると立ち上がった。

「おーすごいスムーズな稼働だ。こんな砂利の上なのにバランス制御も素晴らしい」

正常な動作か確認するためなのか、頭を左右に動かし、1本また1本と足を持ち上げている。

すべての確認を終えたのか、ひょこひょこと歩きながらこちらに近づき、猫のようにまとわりついてくる。大きいためこちらの足ではなく腰あたりにロボットは背中からお尻までをこすりつけるようにじゃれてくる。見た目通り、かなりの質量があるので軽くじゃれてこられるだけでこちらの体には結構な衝撃が来る。バイク用の装備でなければ結構痛いレベルだろう。

「さて、どうしようかな。どうだ、帰れそうか?」

そう声をかけると意味を理解したのかわからないがその人懐っこいロボットは少し離れるとこちらを振り向きピーと響く音を出す。

「ついてこい、ということか?」

何となくそう思ったので再びバイクのエンジンに火を入れて後についていく。

所有者がいるならば色々と話を聞いてみたいなとも思い後を追う。

川辺を走る姿はまさにネコ科そのもので35km/h程度の速度が出ている。

走行している路面は変わらず踏み固められた未舗装路程度なので、こちらもそれほどスピードが出せないためちょうどいいくらいだ。

そのまま25m程度再び走る。現時点で活動距離として決めた約半分の50kmを走行したことになるな、と考えていると、石で積まれた堤防のようなものが見えてきた。堤防はそこそこ高く向こう側は見えない。少なくとも、このバイクでは超えられない。生身で登るにしても結構しんどそうな石の組みあがりようだ。

もう少し走ると川辺の堤防、その切れ目が見えてきた。

その入り口に見える周辺は石畳のような地面で広場のようにも見える。

しかし、近づくと、徐々に此処の異質さが目に映る。

(おいおいおい)

そこには明らかに銃器と思われるものが、堤防の上の塔に見える場所に鎮座しているからだ。

ここまで来て嫌な予感が頭をよぎる。

もしかしてここは軍隊の秘密基地で自分は迷い込んでしまい、重大な軍事機密に触れてしまったのではないかと。

GPSや携帯電話の電波が入らないのは何か関係が?など良くない妄想もしてしまう。

思えば、アメリカ軍も目の前にいる4足歩行のロボットに似た軍事兵器を開発していた。そう考えながらも、すでに銃座に備え付けられた機関銃のようなものはこちらに向いているので補足されているのは明らかだ。今更「私は関係ありません」と立ち去れる雰囲気でもなかった。

しかし、そこまで考えていた様々な想像を、軽く超える出来事が起こった。

関所のように見える箇所へ大分近づいたとき10人、いや人とは呼べない様々な形体をしたロボットたちが出てきた。そして、その中の一つが女性の声色でこう伝えてきた。

「その場で止まりその子達を開放しなさい!」

目から入ってくる情報と耳から入ってくる情報。そのどちらもが自分の処理能力を超え、言われた通りその場でバイクの停車を行う。

下手な行動を行えばすぐにでも襲い掛かってくる。相手達からはそんな雰囲気を感じ、緊張が自身の体を走る。もはや相手が機械だとかなんだとかそんな考えは何処かへ飛んで行ってしまっている。

(一歩も動けない...なんて圧力だ)

そう気圧されているとさらに予想外なことを言われる。

「その子からも降りなさい!!」

「は、はい!」

つい条件反射で答えてしまい、エンジンを切ることも忘れヘルメットを被ったままバイクから飛び降りる。

「どうやらこいつは使役者ではないようね...」「みたいですね」

とロボット同士が会話している内容はあまり頭に入ってこない。

(なんだよこれ。どっきりか?いや、それにしてはロボットにリアリティがありすぎる。さっきの4足歩行のロボットだってそうだ。一体どうなってる?)

あまりに現実離れした状況に夢ではないかと思ったが、エアバック機能付きのジャケットがバイクから降りたことでスリープになる旨を知らせる機能を「ブーブー」と振動で伝えてくるので夢ではなさそうだ。

脳内では疑問が次々湧いてくるが、現実は待ってくれずに次々進んでいく。

「あなたはこの子達から10歩は離れなさい!」

声をかけ近づいてきたのは、最も人の形に近く、しかし遠目からでもわかっていたが明らかに生き物ではない見た目をしているロボットだった。足の運び方や姿勢、フォルムからどことなく女性らしさを感じる。片手には槍を所持しているが、とてつもなく洗練されたデザインのロボットが持つにしては粗末で、竹を削っただけに見える。

現在、その粗末な槍の穂先はこちらを向いており、如何に自分が頑丈な皮製バイクウェアにヘルメットを被ったフル装備であっても余裕で致命傷を与えてくるだろう。

(くそ!システムヘルメットのフェイスガードを上げるんじゃなかった...)

今日被っているのはツーリングでよく使うフルフェイスヘルメットで、顎部分から耳辺りを起点に上方向へ持ち上がる。食べ物をヘルメットを被ったまま食べたり飲み物を飲んだり出来るうえガードを下げれば安全性も高いので重宝している。フルカーボン製でちょっと高いが軽い。そんな機能の付いたヘルメットだったのでいつもの癖でバイクから降りたときにフェイスガードを上げてしまっていた。そのせいで一番守るべき顔が露出している。今更閉じると余計に警戒されそうだし手も両手を挙げている状態だ。

そんな命の危機に瀕していながら槍を向けてきている相手にも興味が向き、観察してしまう。

フレームはシルバーで体の各所は陶器製だろうか。もとはきれいな白色だったと思われる外装も雨や土、埃で汚れている。どのような機構で関節が動いているのかは確認できない。顔に当たる部分も陶器製に見えるが鼻に見える突起以外何もないのっぺらぼうなのだが、幸いにもどことなく少女のようなやわらかそうな輪郭をしているのでホラー的な恐怖は湧いてこない。

そんな観察の目を向けていると、手に持っている槍をさらにこちらに近づける。

「どういうこと?使役者でもないやつが私たちの村に眷属を連れて帰ってくるってことはどうなるかわかっているのでしょうね?それも一人で」

そう言うと後ろに控えているゴリラ型かオラウータン型かわからないが力の強そうな個体のロボットが「そうだそうだ!」とか「気色悪い面でその子を見るな!」と囃し立てる。

(普通にお前たちも喋るのかよ...いや、それよりも)

何を言われようとも状況を何も理解できない。そんな困惑から漏れ出た言葉は、

「ここはどこで君は何なんだ?」

そんな漠然とした質問だった。

「ここはヘプト村で私はヴェローサよ。無知な人間さん」

以外にも答えてくれたが、明らかにこちらを侮蔑する言い方だった。

自然な仕草と声色で普通に返答するので相手が機械だとかの考えはなく、違和感が違和感を塗りつぶす状況だ。

他にも聞きたいことがあったが、相手はそれ以上の質問を許す気はないようだ。

その間にも俺への包囲網はほかのロボットにより完成しておりすでに横にも後ろにも逃げ出せる場所はない。特にゴリラのような奴らはかなりの威圧感で、武装はしていないが、武骨で頑丈そうな腕は殴ればコンクリートでも粉々にできそうな威力を内包しているように見える。

「こいつ変わった格好しているな」とか言って俺を指さしざわめく。一方で「こっちの初めて見る同胞はかっこいいぞ!」とか「発電機の音もイカスしモテそうだぜ!」とバイクを囲んでワイワイやっている。

「ほら、チョビちゃんもそこの初めて見る子も早く村の中へお入り」

そう言い、さっき助けた猫に似たロボットと自分のバイクにそれぞれ顔を向けて村の方向へ目配せする。いや、ヴェローサの頭に目はないのだがそのように感じた。

しかし、チョビと呼ばれた子はなぜか言うことを聞かず、こちらに近づき修理してやったときの様に何故かすり寄ってくる。少し戸惑った様子から村へ入れと言う言葉の意味を理解していないわけではなさそうだ。

「ちょっとチョビちゃん?どうしたの?村のことや私のことを忘れたの?その人間から離れなさい」

言いながら、ヴェローサと名乗ったロボットはこちらを警戒しつつチョビを引っ張ろうとする。その少し強引な手段を見かねて声を上げる。

「そのロボット...チョビは、故障をしていたから直してあげたんだ。それにまだ修理は完了してない。付け加えるなら俺には悪意もない。本当だ。気づけばこんなところにいて今も状況がさっぱりなんだ」

事情を説明すればもしかするとこのわけのわからない危険な状態から脱することが出来るのではないか。そんな淡い期待も胸にはある。

(ロボット相手に事情説明とはな...)

しかし、帰ってくる言葉は辛らつな言葉だった。

「ふん、よくもそんなウソを抜け抜けと...あんた達人間はいつも私たちを使い捨てるだけ。それに修理だなんて。無理に決まってるわ」

「嘘じゃない!駆動用オイルのリザーバータンクの損傷と右足のピッチ方向用油圧ホースの損傷を応急処置だが修理している確認してくれ。」

そんなやり取りを行っていると、「だったら」とヴェローサが何かを持ってこさせる。

ラップトップPCに見える何かを持って来たかと思うとチョビと繋ぎだした。

何をしているのかと問い詰めようと思ったとき、画面に映像が流れだす。

森の中を疾走している映像だ。驚くことに、映像内ではチョビの上に人間が乗っていることが確認できる。尻尾には360°カメラに似た機能があるようでイベントドライブレコーダーのように周囲を確認することが出来るようだ。そんな3人称視点に近い映像の中ではほかにもチョビに似たロボットもいるようだが距離が離れており、他の個体の存在が認識できる程度だった。

乗っている人間は小柄な体格の男で、何処となくチェインメイルに似た服を着ているように見えるがその疑問はすぐに消える。走っている動画の中では人間では考えられないサイズの生物が現れたのだ。まさに怪物と呼ぶべきそれは見た目は人間に似ているが頭がなく、腕が4本あった。

映像ではぶれていてわかりにくいが、2本の手にこん棒、残りの手で弓を引いて射貫こうとしてくる。

4本腕の怪物のほうが足が速いのか、チョビに人が乗っていて重いからなのか少しづつ距離が近づいてくる。

『くそ!もっと速く走れこのポンコツがっ!!』

そんな映像の中でチョビに乗っている人間の声が入る。

「っち、くそ野郎め。これだから人間は...」

ヴェローサは映像を見ながら悪態をつく。

(俺もなんだかわからんがこの人間にムカついてきた)

そんな感想をよそに映像内ではチョビの腹部に矢が刺さるところだった。後ろではなく、横方向からの別の怪物からの襲撃だった。

もうすでに4本腕の怪物による包囲網は完成しつつあるようだ。

『さっさと立たんか馬鹿者!』

言うが早いか手に構えていた短剣をチョビに振り下ろす。

(これがもう一か所の損傷の原因...か)

短剣を振り下ろすも無意味と分かったのか、男はチョビに1蹴り入れてから全力で逃げ出した。

そんな中でも怪物は容赦なく矢を放つが、映像内では信じられない出来事が起きる。

(何が起きたんだ、これは)

男が左腕の腕輪に見える何かを弄り、男が目を閉じると怪物との間に土の壁が立ち上がる。

怪物が放った矢はその壁に阻まれ男には届かなかった。

出来上がった壁はかなり高く、映像からも男は見えなくなった。

怪物は知能はそれほど高くないのか、消えてしまったと思ったようでしばらく周囲をぐるぐるし、出来上がった壁に、チョビに近づいてくる。

このままではチョビが...とも思ったが、意外にも怪物たちはチョビを無視。走っていく人間を追いかけていく。この映像内ではその男が逃げ切れたのかわからないが、怪物たちはずんずんと離れていく。

(映像については、何も考えないようにしよう。どこかの放送局の手の込んだどっきりかもしれない)

少し経ってチョビは体を起こす。右足の油圧ホースから動かす度にダラダラとオイルが漏れているし、腹部のタンクからもタラタラと漏出している。

しかし、チョビはめげずに怪物たちが走り去っていった方向とは別方向を目指し森を駆けていく。

映像はどうもチョビ側が制御しているようで関係ない箇所は早送りになっているようだが、何と丸2日以上移動していた。画面内には時間表示は無いので太陽の位置からの想像だ。

映像では中盤辺りで既に足取りがおかしく、右足をピョコンピョコンとかばうように痛々しく歩いていた。

そして、見覚えのある川辺についた。ここからの映像は俺の記憶通りで、気難しそうな顔でチョビを整備する自分が写っていた。

(どっきり番組ではないか...映像のつながりから間違いなく実際に起きてきた出来事なのだろう)

映像を見つめながら、今の状況を少しずつ理解しているつもりだが、受け入れがたい。

(ここは本当に俺の知っている日本ではないようだな)

その後、ここに至るまでの映像で終わる。

今、こちらを包囲しているのはロボットたちだ。しかし、どこか気まずそうな雰囲気を醸し出している。

それは目の前のヴェローサにしても同じだった。

そんな雰囲気をにわかに感じ、少し皮肉っぽく発言する。

「そろそろこちらの話を聞いてもらえる気になりましたか?」

そう告げると、包囲していたロボットたちは道を開け「村の中にどうぞ」と申し訳なさそうに案内を開始するのだった。

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