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二度目のよろしく

作者: ガネコ

 ドタバタせわしない足音が聴こえて私は足を止めた。この聞きなれたドタバタ。絶対あの人だと思いながら振り向くとやっぱりそうだった。

 急に止まった反動でちょっとぐらついている、いつもの姿に頬が緩む。


「お疲れさま」

「うん、お疲れ! ……早速でごめん。さっきのにまた追加で悪いけど、明後日の分も頼めるか?」

「分かった。明日の分はもう終わったし、早速明後日の分にも取り掛かるね」

「流石だな! じゃあ、よろしく!」


 そう言うとニコッと笑って、再びドタバタと足音を立てて去っていく。この人は歩いている時間より走っている時間の方が長いのではないか、と密かに考えている。

 少なくとも私の前での移動はほとんど小走りだ。足音がうるさいと何度か注意されているのも見かけたが、少なくとも改善の兆しはない。


 移動に限らず、普段からやりたいことが多いのかせっかちであわてんぼうで無駄な動きも多いけど、その分結果も出しているので結局彼に仕事や厄介ごとが集まってくる。

 そしてよりドタバタになるのだ。断ってもいいのに、頼られると断れない上に頼られることを喜ぶ性格だもんね。私は彼の頼み以外なら自分優先で断るけど。


 うまいこと断ってきた私ですら疲れて動けない時でも、前だけ見て走り続ける彼を見て、心を奪われたのを思い出す。

 『得もないに馬鹿じゃないの』と思って一歩引いて接していた私の分まで済ませて、『辛い時は頼ってくれ』とのセリフには呆れを通り越して泣いてしまった。

 そして『お前が言うな』と言えずに、流石に人間らしくどんどん顔色が悪くなっていく彼にこちらが耐え切れず手伝い始めた。

 正直柄にもない、だけど悪くない。意外に私サポートタイプだったのね、なんて気づきもあった。


 しかし……また言われてしまった。

 この本日二度目の『よろしく』を言われたら最後、今日中に会うことはないだろう。忙しい彼の気持ちが略されたこの言葉。正しくは『俺はこの後戻って来られないけどよろしく頼む』という意味である。

 とかいって、本人に確認した事はないので結局は私の妄想。私達が培ったそれなりの信頼関係からの推測だ。あえて聞き直さないようにしている。


 でも一度目の『よろしく』を必死にこなして、即あなたの居そうな場所へすっ飛んできた私の気持ちをおそらく彼は全く分かっちゃいない。気づいてくれない。

 私は、二度目の『よろしく』でもいいから二人で話したくて、会いたくて、こうも頑張ってるというのに。ただ、私のためだけにずっと立ち止まる彼は彼らしくない、とも思っているから我ながら重症だ。


 もはや姿は見えない。ただし足音はまだ聞こえる。

 離れていく愛しいドタバタをじっくり噛みしめて、私も動き出した。

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