「缶コーヒー飲もうよ?」
◆『第4回「下野紘・巽悠衣子の小説家になろうラジオ」大賞』参加作品です。
「おう、美里じゃあないか」
「……何してんの、王子」
私は自販機の横で空を見ていた。
冬の星空だ。
寒い夜中の0時近くだった。
どうしても昼間の出来事で眠れなかったからだ。
そうしたら同級生の男子に突然声をかけられて驚いた。
自分の事は棚に上げてそう言っていた。
「お前こそ、こんな夜中に危ねーぞ。一応女子なんだから」
王子とはこの男子のあだ名だ。
彼の本名は王司。
短くしてオシャレに読めば王子。説明以上。
「い、一応女子と認定してくれてありがとう……」
私がお礼を言うと、司は
「らしくねーな。そこで飛び膝蹴りをスカートでも炸裂させるのが美里なのに」
とか言いやがった。ので言った通りに回し飛び膝蹴りをお見舞いしてやった。
少し吹っ飛ぶ司。
溜飲が下がったので、私はまた星空を眺めることにした。
「痛てて……。お前本気で蹴りやが、ってどうした⁉」
慌てた司の声に自分で驚く。
いつの間にか、泣いていたんだ私。
泣くのを止めようとするのに、涙は止まらない。
ぽんぽん。
頭に柔らかな感触がして、司が優しくぽんぽんとしてくれていた。
「ぐすっ、だからあんたは王子ってあだ名が付くのよ」
「そりゃあどうも。俺は美里だけの王子様でいられりゃいいんだけどな」
「はあっ⁉」
「ほら、涙止まった。成功だな」
司の言葉は本当だ。
私の涙は止まった。
が気になるのは先程の台詞だ。
「さっきの言葉」
「本気にした? まあ、本気でもいいけどな」
「どっちなの!」
「今度は怒るのか。美里は情緒不安定だなー」
その言葉に私は叫んでいた。
「だって! だってそうよ、こんな子だから両親が離婚なんて言い出すのよ!」
「美里、今夜中だって」
「司だってこんな奴に本気にならないでよ!」
言ってから私はハッとした。
温もりに包まれたからだ。
「自分の事をそう言うな。俺はそんな美里が好きなんだから」
「司……」
もう私の涙腺は崩壊だった。
こういう優しさに私は常に飢えていた。
思う存分司の腕の中で泣いた。
しばらくして、赤い目で司を見上げる。
「うん、良く出来ました。ちゃんと泣けたじゃないか。よしよし」
また優しく頭を撫でられる。
「何か、喉乾いたな」
「おう、何飲む?」
すごく小さく呟いたのに、司はちゃんと聞いてくれてて自販機に小銭をもう投入している。
その姿に何故かすごくキュンときた。
「缶コーヒー飲もうよ? ブラックで」
私が大人ぶって言うと、
「俺苦いの苦手」
と司はすごい顔で言った。
冬の星空に静かな笑いが起こったのだった。
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