これまでは妹に奪われ壊されてきましたが、彼女は婚約とその破棄を機に壊れてしまいました。
私の実の妹であるプピは強欲で心ない人だった。
彼女は私を見下し私からは何でも奪って良いものと思っているようであった。
だから、ある時は私が誕生日に貰って大事にしていた物を無理矢理奪い取ったし、また別の時には私が大切に育てていた花を器ごと破壊し私が泣くと「自分で壊してしまったくせに責任を押し付けようとしている」と両親に話して私を悪者に仕立て上げたりもした。
だから私はプピが嫌いだ。
たとえ同じ血を引く実の妹だとしても。
それでも彼女のことが嫌いなのだ。
これまでの行いがあまりに酷かったのでどうしても受け入れることができない。
だが、そんなある日、プピがご機嫌な日がやって来た。
「お姉様ぁ、わたし、結婚するんですぅ」
「結婚?」
「そ! オードリッセ様との婚約が決まりましたのよ!」
オードリッセはもともと私が婚約させられかけていた男性だ。
でも私から奪いたくて仕方がない彼女は彼までも奪った。
ただ、彼は私には合わないと思っていたので、正直なところを言うとラッキーと思ったのだけれど。
「ああ、そうだったのね」
「うふふ! 羨ましいかしら? 羨ましい~って顔をしてますわねぇ」
「おめでたいことね」
「余裕のある振る舞いをしてますけどぉ、羨ましくて暴れたいくらい、ですわよねぇ?」
「よく分からないわ。でも、幸せになってほしいとは思っているわよ」
「……ふ~ん。ま、いいですわ! そういうことですので、わたしはお先に幸せにならせていただきますわね!」
プピが家を出ていってくれるならそれが何よりというもの。だから私は彼女を笑顔で見送ることができる。たとえ彼女が憎くても、それでも、家を出ていく彼女に対してであれば迷いなく笑みを向けられる。
こうしてプピはオードリッセと婚約した。
◆
婚約から二ヶ月、プピら二人の関係は上手くいっていないようだ。
というのも、良かったのははじめだけで、会うたび喧嘩になるようなことになってしまっているそうなのだ。
わがまま放題で気が強く、遠慮などというものを知らないプピ。
言いたいことはすべて言ってしまう派で己を通すことが生きることなどと大きな声で言えるようなオードリッセ。
二人がぶつかって平和なままなわけがない。
だが、オードリッセは罰と言ってプピの尻を叩いたりしているようで、それに関してはかなり驚きだった。
婚約しているとはいえそこまでするか? と。
だが、正直、ざまぁみろと思ってしまう部分もあって。
これまで散々好き放題し意地悪もして生きてきたプピは一度痛い目に遭ってみればいい、そう思うのだ。
そうすれば少しは分かるだろう。
人の痛み、というものが。
私が彼女に傷つけられてきた時の痛みにも、少しは気づくかもしれない。
◆
さらに二ヶ月が過ぎた。
プピは家へ戻ってきた――というのも、オードリッセに婚約破棄を告げられたそうなのだ。
わがまま過ぎて無理。
それが婚約破棄の理由だったそうだ。
……少し分かる、共感してしまう。
それでもがっかりはした。
せっかく出ていったのに彼女がまた帰ってくるのか、と。
けれども戻ってきた彼女は以前の彼女とは別人のようで。
「叩かないで叩かないで叩かないでぇ……うぶぶびろべすおぼぼびろべぶ……お願いしますお願いします叩かないでぇ……」
彼女は既に壊れていた。
今の彼女には私を虐める精神力など残ってはいない。
◆
プピが家へ戻ってきて一年ほどが経ったが、彼女は今も壊れたままだ。
一方私はというと、婚約者がいる。もう少ししたら結婚することになる――正式に夫婦となるのだ。かつてなら間違いなくプピがちゃちゃを入れてきただろう。だが今は、彼女には、そこまでの気力はない。彼女は一日中自室のベッドで横たわり、母親にあらゆる世話をしてもらっている状態。だから私の幸せが奪われることはない。
私はきっと幸せになれるだろう。
もう妹に奪われることはない。
もう妹に壊されることはない。
◆終わり◆




