わざわざ女性を連れてきて「好きになってしまったから」と婚約破棄を告げて私の前から消えた彼は、その後……。
その日、婚約者ブルデルノは、一人の女性を連れて私の前に現れた。
なぜに女性を連れているのか?
もしかして新しい形態の嫌がらせ?
……いや、ただの考えすぎで、意味なんてないのかもしれない。
そんなことを思っていると。
「俺は彼女を好きになってしまった」
ブルデルノは勝手に言葉を紡ぎだす。
「よって、お前との婚約は破棄とする」
いやいやいや。
いきなり過ぎるだろう。
しかし彼は真剣に言っているようで。
「俺はこれから彼女と共に生きていくんだ、さらば」
「え、手続きは……」
「手続きはするが、お前とはもう二度と会わない」
そう述べる彼の目つきは底まで凍った湖のように冷ややかだった。
それを見た時、あぁ終わったのだな、と感じた。
彼との関係はそれほど悪くなかった。愛し合っているまでではなくとも、共に生きてゆこうと思えるくらいには仲が良かった。一緒に喋っている時は楽しかったし。
でも、それももう終わり。
私と彼が笑い合うことは、もう……永久にない。
◆
私はその後しばらく実家で暮らした。親二人と妹二人と私、五人で。しかし妹の結婚が決まると家にいづらくなってしまって。それをきっかけに、私は実家から出ることにした。家の外の世界は広くどこまでも厳しい、分かりながらも、外へ行くことを選んだのだ。
その後、私は、暫し一人暮らし。
そして数年後に結婚した。
相手はブルデルノとは無関係な人。
通っていた店の店員だった、赤の他人の青年。
しかし今は彼と楽しく暮らせている。
私は彼と生きる。
前を向いて進んでゆく。
そうそう、そういえば。
ブルデルノはあの時の女性と結婚しようと考えていたらしいが、失敗に終わってしまったそうだ。
というのも、プロポーズ予定日前日に街中で一人のおばあさんと口論になり、怒ったおばあさんに魔法をかけられて『小人のような姿』にされてしまったそうなのだ。
人の手のひらに全身が収まるサイズになってしまったらしい。
で、家に帰ろうとしている途中で気づいていない通行人に踏み潰され、誰にも知られず生を終えたとのことである。
◆終わり◆