おかあさま、私たちの関係は貴女には壊せません! ~二人の想いはそう簡単には変わらないのです~
「ラトリツィアさん! あなたって、ホント理想的でない女性よね! きっと勉強ばかりしていたからだわ!」
いやに高いひきつったような声で嫌みな発言をしてきたのは婚約者の母親。
彼女は婚約が決まった時から私のことを嫌っていた。
もしかしたら、私が、上級学校まで通っていて彼女より良い学歴だからかもしれない。
彼女は自分の学歴が女性にしては良いものであることを自慢に思っていたようだから。
それを越える人間が近くに現れたら。
きっと面白くないだろう。
「あなたみたいな人に、あたしが大切に大切に育てたオヤレスを差し上げることはできないわ!」
「と、言いますと?」
「オヤレスとあなたの婚約、あたしの権限で破棄とさせていただくわ!」
「……本気ですか」
「ええ! 当たり前よ、冗談でこのようなことは言わない。当然でしょう」
「そうですか。でも、オヤレスさんはそれに賛同しているのですか? 彼が納得しているのかが気になります」
「う……うるさいわね! 当たり前よ! そうできるならしたい、って……言っているに決まっているじゃない! 少し学歴が良いからと馬鹿にしないで!」
いちいち学歴の話を出してこないでほしい。それも、無関係な時に、というのは、特にやめてほしい。こちらはそのようなことはほぼ話していないのだから、敢えて言わないでほしい。それで勝手に私に対して嫌な印象を抱かれても、困ってしまう。
「そういうことだから! 二度と息子に近づかないでちょうだい!」
「分かりました」
「ふ……ふん、物分かり良いじゃないの」
「ありがとうございます」
笑顔で言って、私は彼女の前から去る。
けれどもオヤレスの気持ちは気になっていた。
本当に賛同しているのか、というところ。
そこがどうしても気になって本人から答えを聞くまでずっともやもやしそうで。
だから私は動くことにした。
後日、母親にばれないようにオヤレスと連絡を取り、「本当に婚約破棄に賛同したのか?」ということを尋ねる。すると彼は驚いていた。彼は母親から私について「ラトリツィアさんは他に好きな人ができたらしくって、貴方とは当分会えないそうよ」と聞いていたらしい。
やはりオヤレスは婚約破棄を望んではいなかったようだ。
「なら、共に生きてくれる?」
「当たり前だよ!」
「でも……貴方のおかあさまはきっと貴方が私と結ばれることには納得しないでしょうね」
「なら縁を切る」
「え……」
「母よりラトリツィアさんを選ぶよ、愛しているから」
こうして私は家族と縁を切ったオヤレスと結ばれることになった。
それが決まった日、空は、今まで見たことがないくらい澄んでいて。
まるで二人の新たな始まりを祝ってくれているかのようで。
澄んだ青を見上げて誓えた。
何があったとしてもいつまでも共にあろう、と。
オヤレスの母親はというと、息子が縁を切ってでも私を選んだことに激怒したようで、何度か私と彼の家へ押し掛けてきた。そして暴言をたくさん吐いてきた。だが、ある時、夜中まで家の前に居座って叫んできて。それを近所の人が通報したため、彼女は拘束された。で、その後彼女は、迷惑行為によって三十年の労働刑に処された。それにより、彼女が世に出てくることは当分ないことが決定した。
「良かったわね、あの人捕まって」
「うん」
「……オヤレスは悲しい?」
「ううん、そんなことないよ。というか、それよりもラトリツィアさんと一緒になれたことが嬉しいよ」
「ありがとう」
◆終わり◆




