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かつて王子に婚約破棄された私、今は同じ趣味の夫と幸せに暮らしています。

「見て見て! 新作売ってた! 茶葉、これ、新しいよね!?」

「本当だわ、新しいやつね」

「当たりかどうかは分からないけど、一応買ってきておいたよ」

「ありがとう! 嬉しいわ。早速淹れてみましょう」


 かつて、私は王子の婚約者だった。けれどもいきなり現れた私を良く思わない取り巻きも多くて。そういう人たちに悪口を吹き込まれた王子は私との婚約を破棄した――彼は騙されて私との関係を一方的に終わらせた。


「僕が淹れようか?」

「え、どうして」

「だってさ、いっつも頼んじゃってるしさ」

「淹れたいの?」

「いや、そういう意味ではないけど……」

「そう。じゃあ淹れるわ。お気遣いありがとう。でもいいのよ、気なんて遣わなくて。ま、嬉しいけれどね」


 ちなみにその王子は、私と別れた後、あつかましい女性に乗せられてその人のために金を使い過ぎて大失敗。王家の資産の多くを勝手に使ったために親にも激怒され、勘当されたみたいだ。


 また、相手の女性は、身勝手な行動で王家に損害を与えたとして処刑されたらしい。


 そのことを知った元王子の彼は正気を失い、今は、この国では数少ない低料金な施設に入っているそう。


 そこで一応世話を受けつつ細々と生きているようだが。

 毎日のように体罰を受けて心も体もぼろぼろらしい。


「あ、じゃあさ、僕はクッキー出しとくよ」

「ええ、助かるわ」

「栗クッキーでいい?」

「私は紅茶が良いわ」

「あ、そうだった。じゃあそれで、二種類出しておくね」

「ありがとう」


 そして私はというと、王子のもとへは戻れなかったが、もっと素敵な人と巡り会うことができた。


 それが今こうして共に生きている夫だ。


「――こんな感じでどうかしら」

「うわ! いい匂い!」

「うわ、て。嫌だったのかと思った」

「ごめんごめん」

「でも確かにいい匂いよね」

「うん! こう、なんというか、ちょっと爽やかでさ」

「ふふ、同感」


 私たちにはお茶を楽しむという共通の趣味があった。

 だから出会って間もなくすぐに親しくなった。

 それはまるで磁石で引き寄せられているかのようで。


「それ栗?」

「うん。で、こっちが紅茶」

「私はそっちね」

「オケ! 僕は栗が食べたいからこれにしたんだー」


 彼に出会って細やかな幸福というものに出会った。


 こんなことを言うとロマンチストと笑われるかもしれないけれど……彼と過ごす時間は私にとっては何にも代えられない宝物だ。


「栗クッキー好きね」

「うん!」


 夫はいつも栗味のクッキーをお茶と一緒に口にする。

 彼は栗が好きらしい。

 今や栗の模様を見るだけでも夫の顔を思い出すくらいだ。


「好きな味が被っていなくて良かったわ」

「確かにね。被ってたらお互い気を遣うしね」


 完全に一緒ではなく、基本は同じで少し違う――そのくらいがちょうどよいと私は思う。


「一枚交換する?」

「……する!!」

「はい、どうぞ」

「ありがとう! あー、これが紅茶味かぁ。そこそこ美味しいなぁ」

「でも栗の方が好きでしょう?」

「うん。それはね、好物だし」



◆終わり◆

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