いきなり婚約破棄を告げられました。でも彼は少し様子がおかしいのです、何か裏がある気がします。
「申し訳ないけれど、君との関係は解消する」
婚約者オルベインが一人の女性を連れて私の前に現れた。
「え……それは一体どういうことで……?」
「婚約を破棄する、ということだ」
「そんな!」
「で、彼女と生きる道を選ぶんだ」
彼の隣にいる女性はこちらへ目をやるとにやりと唇に笑みを浮かべる。
「待って、オルベイン。どうして急に心変わりしたの? 少しでいいから何があったのか教えて」
オルベインの目つきはまるで何者かに乗っ取られているかのよう。
瞳は暗い。
表情もほとんどない。
「……彼女を愛しているから」
今日のオルベインは明らかに様子がおかしい。
「そういうことですわよ!」
「貴女、他人の婚約者に手を出すなんて恥ずかしいわよ」
「あぁらぁ? 手を出したのは彼ですわ、あたくしはそれに応じた、だ、け。勘違いなさらないで」
女性はにやにやしながらそんなことを言ってくる。
「じゃ、そういうことですので。さようなら、元婚約者さん」
「待ちなさいよ!」
「いいえ、その必要はありませんわ。さ、行きますわよオルベイン」
その日はそのまま別れることとなってしまった。
けれどもどうしても納得できなくて、私は二人の間に何があったのかを調査することにした。虚ろな目をしたオルベインがどうしても気になったのだ。女性から何かされていないか、を中心に、専門の調査員に調査を依頼した。
その結果、オルベインが精神操作魔術をかけられていることが判明。
精神操作魔術。
それは法によって人への使用を禁止されている危険な魔法だ。
あの女性はそんな危ないものを使ってオルベインをコントロールしている――私の婚約者にそんなことをする人間を許しはしない。
私は彼女を訴えることにした。
長い戦いの後、彼女には罰がくだることとなった。
罰金と数十年の労働刑。
「何よこれ! 納得いかない! あんた、捨てられたからってこんなこと! 逆恨みにもほどがあるわ!」
「いいえ、すべての引き金は貴女の罪よ」
「はぁ!? 捨てられた身分でよくそこまで偉そうなことが言えるわね!」
「言い争う気はないわ。だって、私は一般人で、貴女は犯罪者なんだもの。……もう無関係よ」
彼女には長く労働してもらうことになる。それも人権などない状態での労働だ、普通の賃金が貰えるような労働ではない。きっと、いろんな意味で辛い日々が待っている。
けれどもそれも彼女の行いが原因。
「さようなら」
精々苦しんでくれ。
その後私は魔法から解放されたオルベインと関係を戻した。
色々話し合いを重ねた。
ややこしいこともあった。
迷いもないことはなく。
けれども私は、最終的には、オルベインとの道を行くことを選んだ。
やはり彼と生きていきたい。
話し合いをしている中でそう思えたから。
◆終わり◆




