王子と婚約しましたが、放置されたうえ、しまいには婚約を破棄されました。もういいです、私は私の道を進みます。
「おめでとう、フィリア。きっと、きっと、幸せになるのよ」
「ずっと味方だからな」
王子ルートンとの婚約が決まったあの日、両親は、私を笑顔で祝福してくれた。
そして親戚の人たちも。
「王子様との婚約! なんて! めでたいわね!」
「素敵だにゃぁ」
「おねえたまおめでたう!」
「幸せになれるよう祈っていますからね。いつかまた良い話を聞かせてください」
皆、温かな眼差しと言葉で、私を祝ってくれた。
あの時は未来にまだ光を見ていた。
希望、夢、すべて胸に在って。
確かに不安もありはしたけれど、でも、それ以上の明るみにたどり着ける気がしていた。
――しかし。
いざ婚約してみると、ルートン王子は他の女に夢中。
私のことなどまったく相手してくれず。
城には一応住ませてもらえたがほぼ無視だった。
「可哀想ねぇ、あの婚約者さん」
「そうよね、だって、婚約直後から浮気されまくりなんだものね」
「あーあ、あんなに元侍女とくっついちゃって」
「可愛らしいお嬢さんなのに無視するなんて、王子も心ないわね」
噂好きな侍女たち、でも彼女らは基本良い人たちだった。
彼女たちは私のことも受け入れてくれていて。
何なら、まるで姉であるかのように、放置されっぱなしの私を可愛がってくれた。
「しっ! 言っちゃ駄目よ。王家の人に聞かれたら」
「殺されるわよ!?」
「……そうね、事実は言っちゃ駄目よね」
「そうよ!」
「気をつけてちょうだい、連帯責任にされたら大変」
けれどもルートン王子は私をずっと無視し続けていた。
――だがやがて、その曖昧などちらへも行けないような状況にも、幕が下ろされる時が来る。
「フィリア、悪いが婚約は破棄とする」
ルートン王子が告げてくる。
「婚約破棄……?」
「ああ、そういうことだ」
「なぜですか? 何か粗相がありましたでしょうか」
「やはりどうしても愛せない女と結婚したくない」
彼は本心を語っている――そう思う。
「だから、婚約は破棄させてもらう」
「そうですか……」
「今週中に荷物をまとめてここから出ていってくれ、愛する女性からもそうさせるようきつく言われているんだ」
愛する女性って、噂されていた元侍女?
恐らくそうだろう。
「だから、従うように」
「……はい」
私は婚約の破棄を受け入れた。
このまま今の席に座っていても一生愛されないだろうと思ったからだ。
「近く、失礼します」
荷物をまとめて城から去る。
侍女らは可哀想と言ってくれた。
それは救いだったけれど。
でも、そんな優しい彼女たちともう会えなくなるのは、寂しいことでもあった。
「元気でねぇ!」
「ずっと覚えているからね」
「可愛いお嬢ちゃん、大好きだったよ」
「またいつか会いましょうね」
「うえええん! 寂しくなるよおおお! 離れたくないよぉぉぉぉ!」
こうして私は婚約破棄された。
そして実家へ戻った。
それからしばらくは複雑な心境過ぎて何かをする気にはなれなかった。
けれども、何度も星駆ける空を見上げているうちに、段々、過去は捨てて未来へ歩み出そうと思えるようになってきて――やがて私は元々の趣味であった刺繍で稼ぐ道を見出してゆく。
そして、数年の努力の果てに、刺繍作家となることができた。
今はとても儲かっている。
元々裕福な家なのでそこまで儲けなくても良いのだけれど。
ただ、やりたいことをやっているうちに、なぜか分からないが自然と流れるようにお金が入ってくるのだ。
私はこの道が嫌いでない。
だからこれからもこの道を行こうと思う。
ちなみにルートン王子はというと、あの後裏の恋人である元侍女の女性のために国のお金をたくさん使いこんでいたことが発覚し、激怒した国王の指示で遠い島へ送られた。そして、元侍女の女性はというと、国に害を与えた者としてある日突然拘束されてその後処刑された。
二人は自分のためにお金を使い過ぎたのだ。
◆終わり◆




