もっと好きな人ができてしまったからと婚約破棄されました。しかもその好きな人というのが私もよく知る人でした。
「実は話があってな」
「何ですか?」
「俺、君との婚約は破棄すると決めたんだ」
「えっ」
その日は突然やって来た。
信じられないくらい急に訪れる、終わりを告げられる瞬間。
心の奥まで硬直する。
「実はさ、もっと好きな人ができてしまったんだ」
「もっと好きな人……?」
「誰だと思う? 君も知っている人だよ、女性で」
「私も知っている人ですか……?」
「そうそう、当てられる?」
「すみませんが、分かりません」
「じゃあ教えてあげよう!」
いらない……。
「君の親友、エリーニカさんだよ!」
衝撃を受ける。
彼女の名が出てくるなんて。
嘘としか思えず。
どうしてもそれが事実なのだと理解できない。
エリーニカは私の親友である女性だ。
なぜここで彼女が出てくる?
「そんな、どうして……どういうこと、ですか?」
「実は前からたまにだが彼女と会っていたんだ。で、俺はついに決意した。君を捨て、彼女を選ぶと」
エリーニカは良い女性だった。いつも私の話を聞いてくれていたし。だからまさか、彼女が裏でそんなことをしていたなんて。とても信じられないし、信じたくないくらいだ。
「ということで、君とはおしまいだ」
「待ってください! 急過ぎます! もう少し考えて――」
「もういやというくらい考えた」
彼――エリザベットは、わざと溜め息をついてみせた。
明らかに嫌みだ。
「そんな……」
「婚約破棄、それは決定事項だ」
エリザベットの心に私への情は一切ないみたいだ。
もう私のことなんてどうでもいいのだろう。
そうでなければこんな酷なこと、できるわけがない。
「そんな、ことって……あまりに、勝手過ぎます……」
「ではな。これにて、さらば」
◆
あれから数年、色々あって私は王妃となった。
ティーパーティーにて若き国王に見初められた時にはかなり驚いたけれど、それに不安しかなかったけれど、なんだかんだでそこそこ上手くやれている。
私は今、国の頂点に近いところに立っている。
権力は欲さない。
でもこういう場所に立つのも悪くはないものだ。
少なくとも虐められはしない。
ちなみにエリザベットとエリーニカはというと、王妃を侮辱する活動に参加していたために夫の目に留まり、強制労働刑に処された。
二人は今、自由を一切持っていない。
彼らは奴隷のような扱いを受けている。
そしてこれからも。
長くそういった扱いを受け続けてゆくこととなるのだ。
余計なことをしなければ二人で生きてゆけただろうに。
残念な人たちだ。
◆終わり◆




