私を嫌っていた婚約者の母親が急に勝手に婚約破棄を告げてきました。
「お前みたいな魔女! 息子をたぶらかして! 絶対許せない!」
婚約者ルフッドの母親は魔法が使える私を嫌っていた。
魔法が使える、そう言っても悪いことをしてきたわけではない。けれども彼女にはそれが分からないようで。私を悪魔か何かのように捉えているような様子だった。
――そして、そんなある日。
「我が家に魔女を入れることはできないよ! だから、ルフッドとの婚約は破棄! いいね?」
勝手なことを言い出した。
「待ってください、ルフッドさんはそれで良いと言っていらっしゃるのですか?」
「いいんだよ! 母が言えばすべてさ!」
「本人の意思は大事です」
「はぁ!? 生意気言うんじゃないよ!! ふざけるんじゃないよ!!」
鼻の穴を大きく膨らませ、眼球が飛び出しそうなくらい目を派手に剥き、口角が裂けそうなくらい口を大きく開けて唾を飛ばすことも厭わない。
ルフッドの母親の見た目は、女性としてかなり厳しい。
「これは重要なことです、せめて三人で話をさせてください」
「駄目だよ! とっとと去りな! 消えな!」
こうして私はルフッドと話すことさえできず婚約破棄されてしまった。
◆
一ヶ月後、ルフッドが急に訪ねてきた。
「あの、ごめん、母が勝手に婚約破棄したんだってね……」
「ルフッド」
「連絡が取れないなって思ってたけど、まさか、そんなことになってるなんて……忙しいのかなって何となく思ってたんだ。その……母が勝手に。本当に……本当に、ごめん」
彼は母親が勝手に婚約破棄したことを知ってやって来たようだった。
「しかも、魔女とか言ったんだって? 本当にごめん」
そうだ。
彼女は私を魔女呼ばわりした。
不愉快極まりない。
「やはりあれは貴方の意思ではなかったのね」
「もちろんだよ! 僕は貴女が好きなんだ!」
そんな気はしていた。きっと母親が勝手に言っているのだろう、と。でも確信はなくて。もしかしたらルフッドもそう思っているのかも、と思ってしまう部分もないことはなくて。だから不安だったし、だからこそ身を引いた。
「そう……それで、どうかする?」
「もう一回婚約させてほしい!」
「……お母様が認めてくださらないでしょうね」
「もう縁は切ってきた!!」
「――え」
それなら、可能性は、ある?
「だから! 嫌じゃなかったらやり直してほしい!」
「……ええ、いいわ。もちろん。やり直しましょう、貴方がそれを望んでくれるなら」
私はルフッドのことを嫌いになったわけじゃない。
「もちろんだよ! ずっと一緒にいたいよ!」
「ありがとう……愛しているわ」
こうして私は再びルフッドとの縁を得る。
もう母親には邪魔されない。
◆
結婚から五年。
私は今もルフッドと穏やかに暮らしている。
「ねぇ、ルフッド」
「何だい?」
もう何度も四季を越えて。
私たちは家族になっている。
「今日で結婚から五年よ、覚えてる?」
「もちろん、覚えているよ」
昔の刺激的な愛おしさは薄れたけれど、それ以上の絆が今の二人にはある。
「これまでありがとう」
「ええっ!?」
「そして、これからもよろしくね」
「ほっ……ああよかった、捨てられるのかと思ったよ」
安堵しつつ苦笑するルフッド。
「まさか。それはないわ」
「良かったぁ」
「ややこしくてごめんなさいね」
「大丈夫だよ。……ずっと一緒に生きていこうね」
ルフッドの母親は、息子が勝手な行動をしたことに怒り、ルフッドの留守中にこの家へ来て私を殺そうとした。だがその行動のせいで罪人となってしまい。彼女は牢の中へ行かされることとなった。
ま、殺人未遂だから当然だが。
彼女は当分一般社会へは出られない。
彼女は塀の中で怒鳴り散らされながら長時間労働を強要されるのだ――そこに人権なんてものは存在しない。
◆終わり◆




