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婚約破棄されてしまいました。が、これは良い機会と捉え、異国の食文化を研究します。

 私の名はエリシア・フリューネント。

 そこそこ歴史ある家に生まれた二十歳の女だ。


 この国では、女性は年頃になれば誰かと婚約し結婚するのが良いこととされている。そして、そうできない者は異端として扱われ、出来損ないの女などと侮辱されることもある。


 そんな環境だから、私も、二十歳になる前に婚約した。


 けれどすべてが上手くいくわけではなくて。


「君との婚約は、本日をもって破棄とさせてもらった」


 ここまで順調に進んできていたのに、まさかの白紙に戻ってしまうという展開。


 言葉が出ない。

 こんなことになるとは思っていなかった。


「君は僕を第一に考えて動かない、それは駄目だよ。そんなじゃ女性としての価値は紙屑同然。当然、僕の妻となることもできない。ということで、速やかにここから出ていってくれるかな」


 婚約者ボムズは爽やかな笑顔で長文を一気に発した。


 穢れのない、真っ直ぐな、どこまでも綺麗な笑顔。

 でも、心の中は真っ黒なのだろう。

 だって、心が本当に綺麗な人なのなら、ここで笑顔にはならない。


「ばいばい、自分の地位を分かっていない馬鹿な女エリシア」


 こうして終わってゆく。


 私はボムズにすっぱりと切り落とされた。


 でも絶望はしない。


 なぜって、簡単なこと。

 私の人生は終わったわけではないから。


 私は結婚のためだけに生まれてきたわけではない。もちろん社会的にそれがよしとされることは知っている。が、人の生き方というのは結婚だけではないと思う。あくまで個人的な考え方だけれど。でも、生き方なんて無限にあるはず。


 ちょうどその頃、私の実家の近所にレストランができた。


 なんでも東国の食文化を知ることができるレストランらしい。

 私はすぐに行ってみた。

 そしてその淡白ながら美麗な料理の数々に惚れ込んでしまう。


「お願いです! 弟子入りさせてください!」


 私は料理人の中で一番偉いとされている人に頼んだ。


 おじさんは最初は断ってきた。

 女性には無理だ、と。

 でも諦めず、何度も彼のところへ行って、熱意を伝えつつお願いしていると。


「仕方ないなぁ、もういいよ。じゃあ明日から来てよ。ただし、嬢ちゃんだからって手加減はしないからな?」

「はい! ありがとうございます!」


 願いは叶った。

 諦めなかったからこその勝利だ。



 ◆



 五年が経った。

 私は最近やっとまともにレストランで働かせてもらえるようになった。


 今は知り合いを増やしていっているところだ。


 この仕事は意外と大変だ。体力を使うこともある。でも私はこつこつ努力している。その努力が認められて徐々に地位を得られてきた。達成感が凄い。


 そういえばこれは最近お客さんから聞いたのだが、ボムズはあの後旅行先で洪水に巻き込まれて亡くなってしまったそうだ。


 一人旅の途中だったということもあって避難できず、増えた水に流され、亡骸さえ見つからなかったらしい。


 災害に巻き込まれるのは気の毒だと思うけれど、でも、もはや私は無関係。


 私が彼に対して思うことはない。



◆終わり◆

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