友人とカードゲームをしていたところ、突如異世界へ飛ばされました。~美しい女性になってしまうなんてびっくりです~
現代で生まれ育った私は、その日も普通に当たり前のように、友人と大学の学生ホールでカードゲームをしていた。
「これで、これを――」
だが。
突如虹色の光に包まれる。
「ちょ、大丈夫!?」
遠くで友人の声が聞こえる。
そして私は意識を失った。
◆
気づけば私は別人になっていた。
容姿も原形を留めていない。
元は平凡であまり美しいとは言えないような女だったのだけれど、部屋のすみに置かれている鏡に映る今の私はとても美しい女性だ。
それに、藍色のドレスをまとっている。
明らかに現代の服装ではない。
いや、もちろん、発表会とか演奏会とかパーティーとかであれば、現代であってもドレスを着ることはあるだろう。けれども今はそういうシチュエーションではなさそうなのだ。目の前には知らない男性がいるけれど、ドレスをまとうようなシチュエーションといった感じではない。
それにカードゲームをしていたはずだし……。
「エミリア・ガーネット! 貴様との婚約、本日をもって破棄とする!!」
目の前の金髪の男性はいきなり大きな声で宣言してくる。
そういえばこういうのあったなぁ。
創作物で。
あまり詳しいジャンルではないけれどそんな記憶がある。
「分かりました」
私はそれだけ返した。
幸い、言葉は理解できるようになっている。
これは幸運だった。
言語の理解が駄目だとどうしようもない。
「ったく、生意気な女め」
そんなことを言われても困ってしまう……。
その後私は実家へ帰った。
待ってみていたところ迎えの馬車が来たので何とか帰ることができたのである。
それから私は記憶喪失なことにした。
だってそうだろう? 今の私には、否、今のこの身には、エミリアの記憶がない。それでどうやって知っているように見せられる? 無理だろう。私はそこまで器用ではない。ならば記憶を失ったことにしよう、そう考えて。
「エミリアさん、記憶喪失だそうねぇ」
「婚約破棄されたショックかしらね」
「あらあらぁ、可哀想にね。でもまぁ、良かったんじゃない? オルクさんって女癖凄く悪いみたいだし」
◆
婚約破棄を告げられた日から八ヶ月が経った頃、かつて私を切り捨てた元婚約者の青年オルクが落命したことを知った。
なんでも、婚約者がいなくなったからといって油断し、八人の女性と交際していたそうなのだ。
で、ある時、そのうちの四人に八股していることがばれて。
三人は去っていったそうなのだが。
残りの一人が激怒したそうで。
その女性が問い詰めた時にオルクが誠実に対応しなかったために女性は感情的になり、隠し持っていた短剣で彼を刺し貫いたそうだ。
それによってオルクは傷を負い、数時間後に死亡したらしい。
彼はその女好きによって生命を失うこととなったのだ。
ま、自業自得だろう。
人殺しは罪だ。たとえどんな理由があろうとも、そこは、越えてはならない一線。何をされたとしても、殺してしまえばその人の大きな罪である。が、彼の場合、殺されるようなことをした彼自身の行いにも問題はあったと思われる。
――そして私、いや、エミリアはというと。
「貴女と共に生きてゆきたいのです」
「すみません、私、記憶喪失なので……結婚とかは、あまり」
ある時、馬に乗っているところ出会った青年マトリオールに見初められ、急に求婚された。
「構いませんよ、記憶喪失でも。僕が支えてゆきます、そう誓います」
「え……」
「貴女しか見えないのです」
「そんなこと言われましても……」
はじめは乗り気ではなかったけれど、やがて私はマトリオールと結ばれた。
けれど、結果的には、悪くはないと思った。
彼との暮らしは楽しくて。
こういう道も良いな、と思えて。
幸福を見つけられそうで。
あの日カードゲームしていて異世界へ飛ばされた私は、エミリアという美しい女性として、青年マトリオールと共に生きてゆくこととなった。
◆終わり◆




